「せっかく来たんですから、お茶でも入れて下さいよ」
「呼ばれもしないで来たくせに何言ってるんですか図々しい」
「じゃあいいです、勝手に入れますから」
言うが早いか、慣れた様子で棚を漁り始めるリリィ。
呼び止めたことを早くも後悔した。
半眼で、腹立ちまぎれに言ってみる。
「僕だって左団扇とはいえない冒険者家業なんですから、たまには自分で何か持ってきたらどうなんですか。茶葉だってタダじゃないんですよ」
リリィは顔だけ振り返って、驚いた表情を作って見せた。
「あらやだ、ミケさん。私が持ってきた物を口に入れるなんて、勇気ありますね」
「……やっぱりいいです」
「そうですか。じゃあ、遠慮なく」
ああもう。
どんなにやったって勝てる気がしない。
魔道で簡単に湯を沸かしたリリィは、慣れた手つきでポットに茶葉を入れ、お湯を注いでいく。
蒸らしている間に、カップに湯を入れて暖めて。
しばらく待ってから湯を捨て、ポットの紅茶を二つのティーカップに均等に注ぐ。
「…いつも思いますけど、お茶、入れるの慣れてますね」
何の気なしに言った言葉に、リリィは作業を続けながら微笑んだ。
「お茶飲むの、好きなんです。城にいたときも、お湯と茶葉とティーセットだけ持ってこさせて、あとは自分で入れてたんですよ」
「……へえ…」
城、という何気ない単語に、微妙な気持ちになる。
彼女が闇に堕ちる前に、女王として暮らしていた、海の中の宮殿。
闇に堕ちてもなお薄れることのない優雅で美しい立ち居振る舞いは、そこで身につけたものなのだろう。
「はい、どうぞ」
カップをティーソーサーに乗せ、やはり優雅な手つきでミケの前に置く。
向かいの席にも置いて、そこに自分が座って。
「いただきます」
カップの取っ手をつまんで、目を閉じて紅茶を口にする。
その仕草の一つ一つが洗練されていて、やはり彼女は王であったのだと実感した。
「…どうしました?ミケさんのお茶を使ったから、何も入ってませんよ?」
「…え」
その様子をじっと見ていたことに、声をかけられて気付く。
リリィはくすりと笑った。
「なんですか、私に見惚れちゃってました?」
む、とミケは口を尖らせて。
「……そうですね、綺麗だな、と思って」
「あら」
その答えは少なからず彼女を驚かせたようだった。
「どうしたんですかミケさん、今日はいやに素直ですね」
「あなたはもう少し謙遜という言葉を覚えた方が良いですよ」
「事実を否定してもしょうがないじゃないですか。……で?」
「で、とは?」
「綺麗だなんて、どうしちゃったんですか?」
嬉しそうな微笑み。
ミケは嘆息した。
「いくら嫌いだからって嘘はつきませんよ。あなたのことは、綺麗な人だな、と思ってます」
「へえ、意外ですね」
「そうですか?」
気のない表情のまま、ミケはそれで話を打ち切った。

嘘はつきません。
あなたは綺麗な人です。

あまりにもきれいすぎて、手が届かないと思うくらいに。

このお題は絶対こういう風には(以下略)
だって、わざわざ読点で終わってるんですよ?(笑)うつくしすぎる「○○」っていう風に入るのが前提のお題じゃないでしょうか(笑)
ミケさんは普通にリリィの美醜については美だと思ってると思います。
口には出さないけど(笑)