「…じゃあ、止めないなら行きますね」
再び楽しそうに微笑むと、彼女はそう言った。
「……」
無言のまま、彼女が踵を返すのを見守る。
本当に帰るつもりなのか。
引き止める自分を待ってのポーズなのか。
見極められない。肯定の言葉も否定の言葉も投げられない。
もしか、本当に帰るつもりだったとしても、自分にそれを止める理由なんてない、むしろ清々するはずなのに。
言葉が、出ない。
とす。
普段はあまり聞こえない小さな足音が、いやに耳につく。
扉へと向かう彼女の動きがスローモーションで見えるのは、わざと歩みを遅くしているのか。それとも。
きい。
ドアを開け、彼女は顔だけ振り返ると、薄く笑った。
「…それじゃ」
それだけを言い残して、彼女は扉の向こうへと足を進め…

「待ちなさい」

ぴた。
ミケの言葉と共に、足を止めるリリィ。
ミケは苦々しげに目を閉じた。
ああ、もう。
どうして。
答えの出ない、否、出したくない問いを、心の中で繰り返す。
どうして自分ばかりが、堕ちてゆくのか。
それでも。
「…あなたが帰れば、怒りは消えますけど」
口をついて出た言葉を、止めることはできなかった。
「……帰って欲しいとは、言っていません」

桜色の衣が、ふわりと翻る。
「……そうですか」
改めて目を開けば、彼女は満面の笑みをこちらに向けていて。
わかってはいたけれど、苦い思いが胸いっぱいに広がった。

その苦い思いの中にかすかに漂う、理解の出来ない感情は。
…やっぱり、認められないけれど。

相川さんのほうでも触れられていますが。
こいつ、歩かないしドアからも出ないんですよね(笑)
だから、帰るそぶりはわざとだと思われます(笑)
けど、ミケさんが止めてこなくてもそのまま帰ったんだろうな。ドアの外に出てから移動術で。
ミケさんには申し訳ないけど、そんな感じです(笑)