「ミケさーん?」
改めて名を呼ばれ、再び我に返る。
どのくらいそうしていたのか。リリィの手首を掴んだままだったことに今さらながら気付いて、ミケは慌てて振りほどいた。
くすくすと笑って、振りほどかれた手首をさするリリィ。
「どうしたんですか、ミケさん?帰ってほしいんじゃないんですか?」
「…っ、なんでもありません」
ふい、と再び視線を逸らす。
リリィはにこりと笑った。
「目を逸らした先に…何かありますか?」
「は?」
眉を顰めて、視線を戻す。
先ほどと変わらない、柔らかい笑顔。
「そうやって目を逸らして、その先に何かあるんですか、って訊いてるんです」
む。
ミケの表情が険悪なものに変わる。
リリィは続けた。
「いつも言ってるでしょう?目を逸らし続けても、自分自身に嘘はつけませんよ、って。
今私を掴んだ手は、紛れもなくミケさん自身です。
そこから目を逸らしても、ミケさん自身を消すことは出来ませんよ?」
「うるさいです」
噛み付くように言い返して。
しかし、彼女の言うことに反論も出来ない。
胸の中には、言葉にしがたい憤りが渦を巻いたまま。
それでも、目の前の彼女は涼しい顔で微笑んでいて。
その綺麗な顔を、目一杯ひき歪ませて、壊してしまいたい衝動に駆られる。
「……認めない」
搾り出すように呟いて、ぎ、と彼女を睨む。
認めない。
彼女を引き止めた自分の手。
柔らかい笑顔に見惚れてしまった自分。
彼女に言葉を返せないこと。
全てを認めずに、彼女にきつい視線を送る。

そうしていないと、目を逸らしてしまいたい自分に勝てない気がしたから。

壊したいのは、彼女なのか。
それとも。

このお題は、絶対こういう風に使うものじゃないと思いつつ(笑)
じっと見詰め合ったら、絶対に目を逸らすのはミケさんだと思うんです(笑)
その辺を掘り下げてみました。