「…だから、なんで毎回毎回来るんですか」
「ミケさんもいい加減往生際悪いですよね。事象はあるがままに受け入れたほうが楽になれますよ?」
「受け入れるくらいなら死んだ方がマシです」
「死んでもいいくらい私の事が好きだなんて、ミケさんったらだいたーん」
「落ち着け…落ち着け僕……逆上したら最後です…」
「最近ミケさん思うようにノってきてくれなくなりましたよね。リリィ寂しい」
「人間は学習する生き物ですから」

とか言いつつも、いつものやり取りを繰り広げる2人。
リリィが気まぐれにここにやってくることも、文句は言いつつも驚くほどのことではない位に当たり前の光景になっていた。
気まぐれにここにやってきて、ミケをからかって逆上させ、怒るのを面白そうに笑って見て。
そんなやり取りが当たり前になってしまった――しばらく姿を見ないと落ち着かないと思うほどには、という意味で――それもやはりまた微妙に腹立たしい。
だいたい、なぜ自分がこんな目に遭わねばならないのか。甚だ不本意だ。
気まぐれにやってきて挑発し、思う通りになろうとなるまいと最後には自分をさんざんに蹂躙して…いろいろな意味で蹂躙して、満足して帰っていく。
好きなようにいたぶられて、今度こそは相手の思うようにはなるまいと言い返す言葉を考えてみたり、無視を決め込んだりしてみるが……相手はそれすらも楽しんでいるようで全く歯が立たない。
自分ひとりばかりが負けこんでいるような今の状況は、生来負けず嫌いな彼にとっては全く以って不本意以外の何者でもなかった。
だいたい、彼女には命を投げ出してもいいくらいに愛する主人がいるというのに――
(……って、そうじゃなくて)
心に浮かびかけた文句を振り払うように、ミケは目を閉じてかぶりを振った。
それでも、無意識のうちに「今度」を考えてしまうあたり、もはや末期と言えようが…彼はそれには思い当たらないようで。
「どうかしたんですかー、ミケさん?」
そんなミケの内心を知ってか知らずか、リリィは楽しそうにニコニコ笑いながらそんなことを言ってくる。
いや、多分判っていて言っている。これはそういう顔だ。
それがわかってしまう自分にも、おそらくそれも判っていて楽しんでいるであろう彼女にも、もうともかく何もかもに腹が立つ。
「怒ってばかりだと皺が増えますよ?ほら、笑って笑って」
「うるさいです」
近寄って眉間の皺に手を寄せてくるリリィを、煩そうに振り払って。
しかし彼女はそれさえも、楽しそうに目を細める。
「もー、ミケさんたら、そんなに怒って神経すり減らさないで楽しく生きましょうよ」
「あなたが帰ってくれたら、怒りもどこかに消えますよ」
ふい。
そっぽを向いて、いつもの軽口。
返ってくる返事は『嫌です』か『じゃあミケさんが○○してくれたら~』か。いずれにしても素直に自分の言葉に従うものではないだろう。
そんなところまで勝手に考えてしまう自分も嫌になる。
が。

「そうですか、わかりました」

返ってきた返事は、自分の予想の真逆だった。
「えっ……」
拍子抜けした顔で振り向くと、彼女はちょうどくるりと踵を返したところで。
勝手に、体が動いていた。
「…ちょっ……」
がし。
足を踏み出しかけた彼女の手首を取って、引き止める。
足を止める彼女。
その手首を取った自分の手を、信じられないように見つめる。
意思に反して勝手に動いてしまった、自分の手と。
「………」
普段は袖に隠れて見えない、細い手首。
袖越しにこれだけ細いのだから、実際はもっと細いのだろう。
いつも自分を叩きのめし、ねじ伏せるこの腕は……紛れもない、生まれて15年で絶望のあまりに時を止めてしまった、一人のか弱い少女の腕だった。
「……ミケさん?」
彼女の声で、我に返る。
「どうかしたんですか?」
言って浮かべた笑みは、先ほどのからかうようなものでなく…愛しむような、優しいもので。

見惚れてしまうのも仕方がないと、頭の片隅で、思った。

妥当なラインで、手首を掴んでみたらあまりの細さにびっくりしちゃったな、という感じで攻めてみました。
積極的に掴むとそんなことは気に留めなさそうだから、思わず掴んじゃう感じの方が良いかな、とか。
リリィは体力的には3なので(笑)か弱い乙女なんですよ、と(笑)