『リリィさんが力を付ける前まで時間が遡れたら、倒せそうな気がするんですけど、なーんてね』
『あらぁ、それじゃ我がその願いを叶えてあげるわ☆』
『って、ちょっと、その金色に光るのはーーーーーーーっ!!!!』

「……いわしの頭って言うのは、凄い効果があるんですねぇ」
幾分呆然としながら猫の喉に付いた金色のいわしを見やる。時を見事に遡ったらしく……場所は記憶の中と端々が違うリゼスティアル。
「流石、ウナイさまです……神さまだけのことはありますね」
白百合姫が帰ってきて、国を治めている。どこか国中が暗くてびくびくしている。……話に聞いた「白百合姫の呪い」と同じだったから……記憶の限り彼女の暴政と追い出そうとする方の策略も止めてみた。
……はっきり言って、凄く嫌な予感はしなくもない。でも、戻る術も分からないし、目の前で起きる惨事は止めたいし。結局、彼女とチャカに喧嘩を売っているような状況で、怖い。
「御主人様、ウナイさまから着信アリです」
「連絡付いたんですか!?」
猫に延々「いわしを通じてウナイさまに連絡を取れ」と言い続けて……どうやらようやくそれが叶ったようだ。
『やっほー☆調子どう?』
「良いわけないでしょう!どうやったら帰れるんですかっ!」
『ああ、通信できるって言うことは、いわしの力が回復したのよ。今願えば、帰ってこられるわ。で、リリィちゃんとやらは倒せたの?』
「城の中で玉座に座っている人相手に、どうしろっていうんですか!ここ海の中ですよ?溺れますよ!?」
『んー、それはしょうがないわねぇ。……根性なし』
さくっと心がえぐられた。
『満月には力が溜まると思うから。頑張って戻ってきてねーv』
ぷつ、つーつーつー。
その音にミケは。
「ぅわー、もうっ!これだから、女の人って苦手ですっ」
泣きそうになりながら叫んだ。

「よし、明日が満月ですね……。ふぅ……まぁ、会えなかったですけれど……その方が平和でいいですよね」
大きく伸びをして月を見上げたミケの背に、柔らかな声がかけられる。
「誰に会いたかったんですか?」
それはもう、忘れたくても忘れられない声に、口元が引きつった。そーっと振り返れば、記憶の中よりも幾分幼げな表情だが、既に黒百合の魔女という名に相応しい何かを持った少女の姿。
「リ……リリィさん……」
「あら?わたくしが誰だか、知ってるんですか?せっかくドレスを脱いできたのに……んー、しかも愛称で呼ぶ人なんて心当たりがありませんけれど。もしかして、ファンの方?きゃ、照れちゃうv」
(うわー、本物だ)
心の中に普通に感動した自分がいた。
「……わたくしも、あなたのこと、存じていますよ?……さーんざん、街の中で色々やってくれた人間さん、でしょう。邪魔しなければもっと早く色々起きて、チャカ様の所へ行けたのに」
「あー……あはは、やっぱり、バレてました?」
「勿論ですvリゼスティアルで人間なんて、目立ちますよ?」
それはそうだ。
自分で苦笑する。……せめて、もうちょっと時代や場所が別なら。
「それで、魔導師殿?誰に会いたかったんですか?」
「……あなたに」
ため息混じりにそう告げた。普段はあんなに会いたくない相手だというのに、いざ会おうとしてみるとこんなに難しいとは。普段からチャカの下にいる彼女がどこで何をしているかなど、知るよしもない。
(せっかく来たんだから会いたかった……いや、違うな。もしかしたら、純粋に彼女に)
「……何故です?わたくし、あなたに恨みを買うようなこと、しました?あなたにはとんと覚えがないのですけれど」
(この先に、山のように売りつけたくせに)
口から出かけた言葉を飲み込む。この場の彼女にはそれこそ関係のないことだ。
ある時は魔法で瓦礫の下敷きにされ、あるときはからかいに来て、ある時は……。
それはそれで、腹が立ってきた。目の前のリリィとは別であるにもかかわらず。
あんなに普段は無理矢理関わってきたりするくせに……毎回邪魔するくせに。
……気が向かなければ、会いにも来ないくせに。
いつも、こっちの事情なんか関係なしに出てくるくせに。
「んー、まあいいですけどね。もう邪魔しないでくださいね。次に邪魔したら知りませんからね」
にっこりと、それはそれは綺麗に微笑んだリリィに、ミケもゆっくりと笑みを浮かべる。
「待って。僕はあなたに……会いたかったんですから」
「あら?あらあらあらー。それであんなおいたをしたんですか?駄目ですよー。めっ」
一見、慈愛に満ちた笑顔でそう言うリリィに、ミケはゆっくりと呪文を唱える。
「……ああ、なんか悔しいな……。このまま別れたら、あなたはきっと今日のことなど忘れてチャカさんと生きていく。どうせなら、覚えて欲しいですね、今日のこと」
風が、形になる。鋭い刃に形を変えていく。
リリィが驚いたように、きょとんとしてミケを見やった。
「あらあら。街中の噂では、争いを憂うお優しい魔導師殿が事件を治めたり人を宥めたりしているって、聞いたんですけども。そんなあなたが、わたくしに剣を向けるのですか?それは、何のために?」
言外に、国のため民のためかと聞いてくるリリィにミケは笑った。
「言ったでしょう。……このまま言葉を交わしただけじゃ、あなたは僕のことなんて忘れて面白おかしく生きていく。……それが凄く、腹が立ちます。あなたに会っておきたかった。出会わないまま、あなたが僕を知らないままで終わるのが嫌だったから。ここで、出会って……何か一つでも良い。あなたに、僕のこと覚えさせてやりたい。それだけです」
「それはそれは……なかなかのお返事ですね。いいでしょう」
にこり、と微笑んで、一つ文字を書く。……邪魔をされないための結界。
「随分と、利己的ですね。でも、そういうあなたは嫌いじゃありません。さっきまでの目よりも、ずっといいですよ、魔導師殿」

随分と、派手にやっちゃったな。
そんな想いがちらりと頭を掠めた。事実周囲は破壊され尽くし、この場に吹き荒れた魔法たちの乱暴さを物語っている。
「……はぁ……あら、とどめは刺さないのですか?」
「ええ。もういい」
木に叩きつけられて口から……そして肩から斜めに風の刃で切られて溢れる血で白いドレスが見る間に染まっていく。その彼女に傷を付けた当人がそっと回復魔法を唱える。
「……あらあら。紳士的ですのね」
「……それほどでも、っと」
やはり魔法の力を手にしたばかりならば、勝てなく無かった。彼女はこの先魔道の腕を磨き、経験を積み、自分ではまだ掴めない高みにいることになる。
「……回復の腕はこんなものですか?」
「だって、全部治しきったら……何も残らないじゃないですか。その傷くらいは刻んでおいてもいいでしょう?やなら自分で後は治してくださいよ」
消えない程度に傷を残してミケは回復魔法を止める。……ふと、何を執着しているのかと笑いたくなる。
「くすくす、確かにわたくしに刻みましたね……あなた自身を。ふふ、最後の一撃の時に見せた瞳、この傷……確かに忘れそうにないですよ」
「当たり前です。僕を忘れさせないために……初めてですね、女性に傷を残そうだなんて思うのは……。ええ、そのために僕はあなたに傷を残した。……僕があなたに傷を受けたように……僕があなたを求めたように」
するりと口をついて出た言葉に、自分で酷く納得した。
彼女をこの手で倒して……忘れさせないようにしたい。心の底で無意識に……軽く扱われる事に憤りを感じるのは……こんなにも心を乱すくせに当人は遊んでいるだけだから。
……彼女に、自分自身を刻んで。この心に波が起こるように……忘れられないように。求めるように。
彼女自身にもこの気分を持たせてやりたい。
……彼女が、欲しい。
「あなたが、私を?」
きょとん、として緩く首を傾げたリリィに笑ってやる。
「そうですね、もし僕のことを覚えていたら、僕を捜せばいい。いつか、また……あなたの御主人様の気が向いたりしたら。会えるかもしれませんから」
「強引に傷物にしたくせに、今更謙虚ぶっても、遅いです」
「……傷物って」
「傷が残っちゃったんですよー?どうしてくれるんです。女の子を傷物にしたら色々大変なんですよ?」
いつもの口調でからかいの言葉。それに何故か安心した。
「あー、じゃあ慰謝料取りにいらっしゃいよ」
「そうします。で、傷だけで名前も残さない気ですか?それは礼儀に反しません?あなたはわたくしを知っているのに」
「……ミケと皆は呼んでいますね。……僕の知っているあなたも、そう呼ぶから」
「ええ、覚えておきます。覚悟していてくださいね?」
……初めて会ったときは、覚悟も何も。ただこてんぱんにやられた挙げ句、瓦礫の下敷きにされてちょっと傷が残ったけれど。
心の傷は今も増えているけれど。
「さてと。もう時間が時間ですから帰りますね」
「そうですね、わたくしも城でやらないといけないことがいっぱいありますもの。早くこんな国潰して後を追いますからね」
「追いつきませんよ。会えるのは当分先ですから」
「……まぁ、それじゃ未来が楽しみですねvそれでは、ごきげんよう」
ひらり、と手を振ったリリィに背を向けて、ミケはどうにか宿まで帰る。もうすぐ夜が明ける。
「……だから、死ぬほど嫌がらせを受ける羽目になったりするんですかね……自業自得?」
ちょっと苦笑して。
寝台に倒れ込んだ。
「月が出たら、帰ろう……向こうのリリィさんを倒して、今度こそ傷の一つでも……僕の知っている彼女に……刻んでやるんだから」
好きだなんて、認めない。
けれど、一つだけ。
「彼女が、欲しい」
その気持ちだけは素直に認めよう。……そう決めた。

「わたくしに傷を刻んだひと。当分先?ふふ、上出来です。いつか……あなたに刻み返さないわけにはいかないですね。覚悟してくださいね、ミケさん☆」

「ってー、なんてことするんですか、ウナイさまっ!もー、帰れないかと思って怖かったじゃないですか!」
「我のせいじゃないもーん。でもまぁ、やることやって満足したかしら?」
「……やることは、やりました。満足っていうかなんていうか……いや、なんか色々自分の心に気がついて、痛いです。勘弁してください」
「悩みなさい、青少年。それが成長するのに必要な事よ」
「……ありがとーございます」
「はい、お布施はここね」
「…………ハイ」

「やほーミケさんv」
「ええ、こんばんは」
「えー、つまんないですー。もっと動揺しましょうよー」
「パターンが決まってきましたから。出直してください」
「……分かりました。明日はアブノーマルな世界に」
「遠慮します」

変わらない日常。
変わったのは。
「悔しいな……絶対にあなたに魔法で勝つんですから、覚悟してくださいよね!」
「あらあらー。私に傷を付ける前に、ミケさん、傷だらけになりますねー。頑張ってくださいよね」
(絶ッッッ対、この傷は刻み返してやるんだから)

先の遠い誓いを。
認めた気持ちを。
糧にして、この魔女に今度こそ。

…話せば長くなるんですが(笑)
もともとは、「遥かなる時空の中で3」の、平知盛エンディングで二人で激萌えしてて、なんだっけ、ミケさんが「こんなセリフなら言われてみたい」かなんか言い出して、「そんなこと言ったら魚(リリィ)に『私もミケさんのすべてが欲しいですー』とか言われるわよ」というところから妄想が始まったんだと思うんですがうろ覚え記憶(笑)
そして、神子と知盛をリリィとミケさんに変換してパロ小説を二人で書こう!とそこまで萌えが広がりました(笑)そして相川さんは次の日に送ってきました(笑)相変わらず電光石火な(笑)
相川さんは、神子=ミケさん、知盛=リリィという変換で書いてくださったので、あたしは神子=リリィ、ミケさん=知盛で書く予定です。
いやー、元セリフを知っていると楽しみ二倍なのですが、もう!!相川さん!良すぎ!(笑)ミケさん超かっこいいー!!激萌えです!うちのリリィもがんばらなくちゃ!(笑)

…がんばります(笑)ありがとうございました(笑)  → 私の作品はこちら