「ミケさん、こんにちは」
「ぅわ」
突然、部屋に現れたリリィは、まっすぐミケに歩み寄り。
「はい」
頂戴、と手のひらを上にしてにっこり笑う。
「?」
「やだ、ミケさんってば。今日が何の日か忘れてます?」
「え、心当たりがないんですが」
「…………」
「…………」
「……………………」
にっこり。
とりあえず、怖くなってきたので、何の日か考えてみる。
そして。
「…………お、お誕生日、おめでとうございます……とか?」
「やだ、分かってるんじゃないですかv」
「……!!!!」
何か貰う動作と、今日は何の日?という質問文から半ば当てずっぽうのような気もするが。
「じゃあ、はい。プレゼントくださいv」
「用意しているわけ無いでしょうが!」
「なんでですか!女の子の誕生日覚えておくのは、基本ですよ!?乙女心の分からない人ですねー」
「ぐっ」
分かるわけ無いじゃないか、とか。
第一何故あなたの誕生日なんか覚えていなければ、とか。
言いたいことは山のようにあったが。
「……その、貴重な、誕生日なんて日に、こんな僕に会いに来るなんて、どんだけ暇人なんですか……」
「うふふ、そんなことありませんよ。あなたに、『貴重な誕生日』に、どうしても会いたかったんですもの」
顔も言葉も。甘くて心の奥まで染みこんできそうな物だが。
「リリィさん」
「はい?」
「……今、素で、鳥肌が立ちました……!」
寒気がした。
怖かった。
猫だったら倍くらいにふくれていたところだ。
「まぁ、酷い。素直な気持ちなのに」
「……今の言葉を、翻訳すると……その貴重な誕生日に来てやったんだから、それ相応の物をよこせ、さもなくば強奪していく、と。そう聞こえたんですけれど」
「うふふ、ミケさんって、想像力が豊かですねー」
絶対、本気だ。
「で、何をいただきましょうか」
「何が欲しい、じゃないんですか!?」
すでに強奪確定系だった。
「じゃあ、何をくれます?」
「何って」
「女の子の喜びそうな物ですよ?」
「い、いやいや、無理無理。これ以上ハードルを上げないでほしいんですけど」
「私、ミケさんの……きゃ、言えないv」
これはもう、嫌だとかそう言う問題じゃない。
目眩がした。
「さ、ミケさん、プレゼント、くださいなv」
じりじり、と寄ってくるリリィの目が、獲物を見つけた肉食獣のようだった。
対する自分は、草食系だろう。囓られるのは、目に見えている。
「…………あ、あの、じゃあ、喜びそうな物を、探してきますね」
じりじり下がって扉のノブを手探りする。あった。
「まあまあvそれでもいいですけど……じゃあ、ミケさんチョイスに期待しますねv制限時間は1刻でv」
「みみみ、短いですよ!?」
「はい、スタートv何もなかったら、…………うふふ」
逃げても無駄よ、という微笑み。
そんなことは充分よく知っているので、とりあえず、部屋を出て、深呼吸して考えてみる。

まず、女の子が喜びそうな物って、なんだろう。

「……そんなことが分かったら、今苦労してないっていうのに!」
恋だの愛だのと悩んだりしないのに。……たまには、女性にまめな兄にでも、今度聞いてみようか。現実逃避気味に考えて、引きつった笑みを浮かべる。
問題は、今だというのに。
「うう、とりあえず半刻で歩けるだけお店でも歩いてみよう……」

頭の中のイメージは。
ちゃんと、存在している。
美しく、穏やかな。
毒のある、冷酷な。

「も、戻りましたけど!」
「あらー、ぎりぎりですね」
手にしていたのは、花束。
「…………月並み」
「他に、女性が喜びそうで、僕に手が届いて、すぐに渡せそうな物なんて、思いつかなかったんですよ!いらないなら、いいです!」
「ええー、やだ、いただきますよー」
突きつけられた花束は鮮やかな黄色や赤の花と白い小さな花と。
「白百合、ですか」
「…………今日の誕生花をまとめてもらったんです!なんで、白百合!?計ったように今日って、意味が分かりません!」
「うふふ、ありがとうございますvヤマユリですね。それから……カンナと、忍冬……金糸桃ですか?」
「ええ」
「……本当に誕生花だけでまとめてきたんですね……芸がありませんよ?」
「…………悪かったですねー!」
本当は、白百合と聞いた時点で止めようと思った。けれど。
「色々まとめて。あなたにあげます。ぴったりだと、思ったんです」
リリィは花束をじっと見つめて。
軽く苦笑する。
「ま、いいでしょう。たくさん悩んだでしょうし」
「当たり前でしょうが!」
「ふふ…………私のことだけ、私のイメージだけ、ずっとずっと考えていたんでしょう?他のことなんか、なぁんにも考えている余裕もなかったでしょう?」
目の前まで浮かんできたリリィはにっこり笑ってミケを見上げる。
「あなたの時間と心は、私の物です。今日は、花束含めてそれでいいですよv」
「…………そりゃどーも」
「うふふ、じゃあチャカさまがパーティーしてくれるって言う時間がそろそろだから、帰りますねーv」
「……暇つぶしに来るなー!」
ころころという笑い声だけ残してあっさり消えた姿に、殺意が芽生える。
おのれ。
「……っはー……ったく」
まぁ、何にせよ。
気に入って持って帰ったなら良かった。あの花束部屋に置かれていたら、せっかくそれでも選んだ手前、イライラするだろうから。
お財布と時間と心にダメージが来たが、それ以上は何もない。僥倖かも知れない。
「まぁ……いいや。ちょっともやもやするけれど。命はあるし、骨は折れてないし、意識もあるし、痛くないし」
ちょっとそれはどうなんだろうかと言われそうな感想を口にして、ちょっと窓から空を見上げる。

忍冬には、良い意味の花言葉しかなかったが……繁殖力が旺盛で、繁殖した先では有害植物に指定されている。
金糸桃は、別名ビヨウヤナギというが、正確にはヤナギ科ではなく、オトギリソウ科だ。

これ以上ないほど、ぴったりじゃないかと思ったのは、確かだ。
多少悪意が籠もるのは、仕方がない。

そして。
ヤマユリの花言葉は純潔、威厳。彼女はどこでもどこへ行っても女王の輝きとイメージそのままで。

……それでもなお。
腹を立てても、やり方が気に入らなくても。殺意さえ芽生えているとしても。
その強い心を、姿勢を、力を。そこにカンナの花言葉である「尊敬」を乗せて。

あなたに、花束を。
あなたの生まれた日の花を。あなたをイメージさせる花を。全てを込めて。
今日くらいは素直に祝ってやろう。

HAPPY BIRTHDAY!!

相川さんからまたお誕生日プレゼントをいただいてしまいましたv
誕生日を知らせるはずもないのに、突然やってきて集って帰ってくとか、なんという強盗でしょうか(笑)
花言葉に込められたリリィのイメージを堪能させていただきました(笑)ほほうなるほど、ミケさんは私をそういう風に見てるんですねー、よーくわかりました(笑)

でも、綺麗でしょうねえ実際、この花束。
綺麗な花束をどうもありがとうございましたv