ふと、リリィが目を開ける。
「……ああ、起きましたか?」
「あら、ミケさん。おはようございます」
「おはようじゃありません」
苦い顔のまま、読んでいた本を、投げ出す。ぽす、と幾分重い音を立てて、ベッドの上で弾んだ。
「で、ミケさん。私、残念なことに全然覚えていないのですけれど。……どうして、膝枕なんかしてもらっているんでしょう?きゃ、ミケさんてば私が」
「あれだけ迷惑かけておいて、やかましいですよ」
膝の上の少女の髪をわしゃっと乱して、ミケは底冷えする声でそう言った。

その日の夕方。ミケは魔道書を読んでいた。
そこへ。

どさっ!がたん!がちゃ!

「ぅわ!?」
後ろで立った物音に、びくりと身をすくませて振り返ると、そこには家具を巻き込んで倒れた少女の姿。
そして血塗れだった。
「って、またー!?いい加減にしてくださいよ、この部屋、借りてるんですよー!?」
酒場も経営しているご夫婦の好意で部屋を貸してもらっているというのに、なんだか知らないがこの女は乱入してきて魔法使ったり、家具壊したりと大変な思いをしているというのに。
苦情交じりに駆け寄ると、不倶戴天とも天敵ともいえる彼女は。

ミケのローブを、縋る様に掴んだ。

それを、振り払えず、床だと痛いから魔法で浮かせてベッドに寝かせようとして、気がついた。その、握り締めた手に。屈み込んだときに掴まれて、位置的には立つにも座るにも難しくて。

「ああ、なるほど。ちょっと間違ってミケさんとこにきちゃったんですねぇ」
「ちょっと間違わないでください。部屋を血塗れにされたり、家具壊されたりとか、僕の被害が尋常じゃないんですよ!?」
「まぁ」
膝の上で未だに横になっているリリィを見下ろしながら、苦い顔で言う。
「で、いい加減起き上がってください。もう、傷は治っているはずですよ」
「そんなこと、ありません。すっごい、痛いです」
「ほう、意識が戻ったなら自分で治せばいいと思うんですが?」
「無理です、痛いですから」
そうして、ミケの膝の上に頭を乗せたまま、ころりと丸まる。
「ちょ」
「貧血でつらいです。もう少し休ませてくださいな」
「嘘をつけ!」
「それから、髪は綺麗にしてくださいね?」
「何を、言って」
「ミケさん」
リリィはにっこり笑って。
「ありがとうございますv」
「…………」
引きつった顔をしたミケをよそに、そのまま目をつぶった。
きっと、彼はこのままにしておいてくれるだろう。髪も整えられているはず。
そう確信しての笑みは、ミケにも見えたようで。

「出てけー!!!!」
「いやですー」

それでもやっぱり放り出さなかった彼に、リリィはころころと笑ったのだった。

おしまい

群馬に行った時に、あたしとヨネさんがお絵描きしてる横で相川さんにあたしのパソコンを使って書いてもらったものです(笑)書いてもらったというか、割と無理やり書かせたような…?(笑)
東北旅行があまりにも怒涛すぎて、パソコンの中にあったことさえ忘れていました…お、遅くなって申し訳ない。
ミケさんはつくづく貧乏クジを引くタイプというか、こういうところが女難の相を引き寄せるんだろうなとか(笑)そんなほのぼのとした気持ちにさせられました、どうもありがとうございました(笑)