「うー、うーん……?」
眩しい。
どうしたんだっけ?
そうだ……。部屋で着替えて出かけようとしたら……
「あら、もう起きちゃいました?うーん、最近、抵抗力が上がってきたとか」
がば、と起き上がると、リュウアンドレスを纏った、リリィ。
「って、いきなり魔法かけて寝かせる人がどこに……!」
叫ぼうとして、腕が涼しいことに気がつく。
「な」
「いやーん、まだ終わってないんですよ」
「なんですか、これー!?」
「脱がしちゃったv似合うと思ったんですよ、ミケさんにv」
半裸に近い状態でリュウアンドレスを纏う自分を見下ろして、怒りがこみ上げてくる。
「こ、の」
「魔法で、街の真ん中に飛ばして良いですか?」
「!?」
「その格好で、街を通って宿まで帰りますか?」
やると言ったら普通にやるだろう。人通りの多いところへ魔法で転移することくらい。
それを知っているから、ミケは音がするほど強く奥歯を噛んで、怒りを飲み込む。ただ、そのめは呪い殺してやれそうなほど憎悪を湛えていたが。
「うふふ、着せ替えごっこして遊んでくださいv」
「…………僕は、玩具じゃない」
その言葉にも、リリィはくすくすと笑った。
知っている。十分に。
自分は彼女の玩具なのだと。
冗談じゃない。
「僕は忙しいんです。遊びたいのなら、他を当たってください」
「まぁ、どうせ大した用じゃないでしょう?良いじゃないですか」
す、と指を突きつけて。
「封・身」
「うぐ」
「さ、着せちゃいましょうね~v」
すい、と半裸の体にすり寄って、服に手をかける。その表情が羞恥と怒りで薄紅色に染まる。その顔の変化を楽しみながら、リュウアンドレスを着せていく。
「っ」
「うふふ、すべすべで色が白くて、綺麗ですねーv」
「着せるだけなら、とっとと着せればいいでしょう!?」
喉から鎖骨へ指が滑る。そしてドレスから覗く膝からゆっくりと内ももを辿って。
「んふふ……可愛い」
「ふざけるな……っ!」
ちゅ、と音を立てて頬に一つキスを落とすと、戸惑いと動揺が表情に加わって、楽しくなる。そのまま元々それほど面倒ではない服を、さっと着せてしまう。
「んー……髪とお化粧しましょうか」
「……いい加減に」
「うふふ、ミケさんの髪は長いから、イロイロできそうですね!」
楽しそうに鼻歌まで歌いながらリリィは髪をとかしていく。……自分が本当に着せ替え人形なのだと知って、心の底からこの女をどうにかしてやりたいと思う。思うだけで指一つ動かせないのだが。
触れられてほんの少し生まれた熱が、消えない。
悔しくて腹立たしくて、
「……呪われろ」
「まぁ、素敵v」
吐き捨てるような言葉さえも、全く意に介した様には見えない。
「こんな、感じかしら」
あーでもないこーでもない、と髪をいじる指先。
「ところで、ミケさん」
「……何ですかっ!」
「……髪は結構性感帯ですが、気持ちいいですか?」
「は?」
「こうやって、優しく触られると、気持ちよくないですか?」
完全に安心していられれば、とても気持ちいいのかも知れない。
母親が子の髪を梳くように。
「……正直に言うと、好き放題触らないで欲しいと思いますが、心底」
「まぁ、逆なでされた猫みたいなこと、言わないでくださいよぅ。ちゃんと綺麗にしてあげてますっ!」
「まんま、逆なでされている気がしてなりません!いい加減にっ」
「髪、乱暴に引っ張っちゃっても良いですか?」
「嫌に決まってます」
きっぱり答えてやれば、ころころ笑う声。
「ま、こんな感じでvじゃあ次は」
「まだ、やりますか」
「……この程度で満足すると、思ってます?」
真っ正面から目を覗き込む彼女はどこまでも上機嫌に笑っていて。

……心底、むかついた。

「じゃーん☆」
「……」
大量の化粧品に、ミケは目眩を感じる。
「なんですか、そのどん引きした顔。王宮でも通用するロイヤルメイクができるんですよv」
「何年前の流行のメイクですか」
「フォーマルにそんなに大きな変化はありません!女の子は流行くらい追っている物ですよ?」
「あ、そ」
思い切りため息。
「好きにしたらどうですか?抵抗できないんですから」
「勿論ですvでも、目は閉じていてくれた方がもっと楽ですv寝かせずに済みますからv」
こうなったら、とっとと気の済むようにして終わらせた方が楽だと判断して、目を閉じておく。
眉間にしわが寄るのは避けられなかったが。
「うふふふふふふふふ。素直なミケさんも大好きですよv」
(怖っ)
彼女が上機嫌なのは、激しく怖い。
「早くしてくれます?」
「……ミケさん。女の化粧は1/4刻かかるんですよ」
「……マジですか」
「マジですよ」
自分の師を思い浮かべてみる。そういえば、化粧には結構時間がかかったような。「時間がかかった割にノーメイクじゃないのか」と問うて「ナチュラルメイクよっ!厚化粧派なの、あんたはっ!」と怒られた記憶はある。
「ん。後は口紅くらいですから、目を開けていても良いですよー」
散々塗りたくられたような感触の後、そう言われて目を開けて。
目の前にある笑顔に、驚く。
「動かないでくださいよ。はみ出たらどうするんです。私のせっかくの作品が台無しになっちゃうじゃないですか」
「……っ」
心臓に良くないので、目を閉じ直しておいた。
「ミケさーん?うふふ」
チークは塗っていないのに色づいている頬に、それこそ楽しくなってリリィは笑う。
「さて、塗っちゃいましょうかvところで、ミケさん」
「何ですか」
紅を塗るために少し仰向かせて。
「……キスを待つ乙女って感じですよv目なんか閉じちゃって、可愛いv」
「……空と大地をかける、風の」
ぎっと、怒りに満ちた目を向けて、迷いもせずに唱え始めた呪を。
「あら、じゃあ少し手を抜いて口紅塗らなきゃ」

リリィは唇を押しつけて封じる。

しばらくじたばたするのを楽しんでから、離す。
「うふふ、こうやって塗って欲しかったんですか?」
「あーなーたーはーっ!」
「2者択一です。どうします?」
射殺しそうな視線で、しばらく睨んでから、ミケはそれでもどうにか怒りを抑え込んだようで。
「……頑張りますね」
「誰が頑張らせているんですか?」
「リリィのためですねvきゃ、愛されてる」
「……おのれ」
まっすぐに見つめてくるその視線を嬉しそうに受け止めながら、最後に口紅を塗って。
「封・解」
「よくも……っ!」
解いた瞬間に離れたミケに、姿見を突きつける。
「…………!?」
「綺麗にできたと、思いません?」
「な……なに、これーーーーー!?」
緩やかにウエーブする髪。落ち着いたメイク。
紛れもない『美少女』っぷりに、開いた口がふさがらない。
「ミケさん、可愛いからお化粧しがいがありますよー」
「ちがう。ちがうちがうちがう、僕は、男でっ!」
「……どの辺が?」
「どの辺って」
鏡の中のちょっぴり涙目の『美少女』に、がっくりする。
「……僕って、女顔なんですね………」
「今更ですか」
何か、自分の根底が崩れた気がして、怒りよりも脱力感の方が強い。
「ほら、泣いちゃダメですよ、お化粧が落ちますから。こすってもダメです」
「ああああ、もお」
髪を崩さないように、ミケの頭を撫でてやって。
「さ、元気出して。これからお出かけですからv」
「……はい?」
怪訝そうに問い返されて、リリィは。
「だって、上手にできたんですものv見せたいじゃないですか?きっと2人でいたら、いっぱいナンパされちゃったりしてーvきゃ、楽しみですね」
「この格好で街に出ろと!?」
「デートしましょうよーv」
「するかーーーーっ!」
「照れちゃって、もー」
「照れてないっ!」
「せめて、声は魔法で変えておけばミケさんだなんて気がつきませんよv」
「出かけるのは前提で話を進めるのはやめてください!」
びし、と指を突きつけて言い切れば。
「宿の中で攻撃魔法なんか使ったら、即、追い出されますよね」
「う」
「外で魔法使ったとして、その格好で私に負けて、倒れたまま放置したら、良くて病院に運ばれてさらし者、悪くてどこかに連れ込まれますね」
「うっ」
「……ね、リリィとデートしましょう?少なくとも、おとなしくしていたら、変な人の毒牙にはかからないと思います」
…………。
「はぁ……本当に、勘弁してください」
「あら」
「あなたの毒牙でなければ、どうにかなる気がするんですが」
色々諦めた顔で。
「……付き合いましょう」
「きゃ、嬉しいvじゃあー、まず、ウインドウショッピングしてー甘い物食べ
てー。うふふ、最近チャカ様がこういう女の子らしいお出かけ、してくれなくてー」
「あーそうですか」
「うふふ、女の子同士じゃないとなかなか楽しめないんですよー」
「待てい」
「じゃあ、まず下着見に行きましょうかvこの間、可愛いお店がオープンしたん
ですよv」
「…………待たんかーいっ!どうして僕が女性物の下着のお店とかっ!」
「跳・飛v」

そんなこんなで。
ヴィーダはデート日和でした。

「って、嫌がらせですかーーーーっ!」
「半分くらいはv」

らくがきでミケさんとリリィのおそろいチャイナを描いたら何か書いてきてくださいました(笑)
「とりあえず健全な感じにしてみました」と仰いましたがこれで健全と言い切ってしまうミケさんの精神状態がすごく…心配です…(笑)リリィがすごく楽しそうですねー…楽しいでしょうねー(笑)下着屋さんに行った後も2人のやり取りが目に浮かぶようでニヤニヤしてしまいます(笑)
相川さん、美味しいものをどうもありがとうございましたv