女の身体は、華奢で柔らかい。
自分より年上を相手にすることが多かったが、それでも、自分よりずっと小さくて儚いように錯覚させる。
柔らかく指に絡みつく髪は、触れれば甘い香りがして情欲を誘う。
押し付けられる柔らかい肌は、自分のそれとはあまりにも違う感触で。
何か別の生き物でも触っているかのようだ。

要するに、女の身体というものは、そういうもの。
それ以上でも、以下でもない。
触れれば熱を帯び、腕に抱けば甘い声を上げる。
ただそれだけの生き物。
そう思っていた。

お前に会うまでは。

座って本を読んでいるお前に、背後から腕を伸ばして捕らえる。
「エリー?」
特に驚いた様子もなく、顔を上げてこちらを見ようとするお前。
細い身体は無駄な肉付きがなく、腕にすっぽりと収まる。
少し力を込めれば折れてしまいそうなくらい、華奢な身体。
綺麗に流れる銀の髪に鼻をうずめると、柔らかく鼻をくすぐる細い糸の隙間から甘い香りがこぼれる。
「エリー?どうしたの?」
くすぐったそうに身をよじって、お前は苦笑する。
俺は無言で、そっと腕に力を込める。

初めて、知った。
吸い付くようにきめ細かい滑らかな肌が。
髪からこぼれる甘い香りが。
力を込めればささやかに返ってくる、柔らかい感触が。
こんなにも、胸をざわめかせ、締め付けるものだということを。

初めて腕に抱いたときの衝撃は、忘れられない。
今まで抱いたどの女とも違う。まったく別の生き物なのかと思ったくらいだ。

一向に何も言わない俺に焦れたのか、お前は窮屈そうに体勢を変えて顔をこちらに向ける。
「もう…何?いきなり」
そう言って苦笑するお前に、思わず笑みがこぼれる。
「…いや。特に理由は無いが。……嫌か?」
問えば、少し頬を染めて、視線を逸らす。
「……いや、じゃ、ないけど……」
俺はまた、笑みを浮かべて腕に力を込める。

ああ、違ったんだな。
お前が別の生き物なんじゃない。

俺が、別の生き物になってしまったんだな。

2006.6.28.KIRIKA