彼女は、意外に可愛いものが好きだ。
そして、自分にはそれが似合わないと思っているらしく、めったにそれを表に出そうとしない。
が、ふとしたところで自分好みの可愛らしいものを見つけると、ぱっと花が咲いたように表情が変わる。
視線がそれに釘付けになり、周りへの注意も薄れてしまう。要するに、それに夢中になってしまうのだ。

久しぶりにそれが表れたのは、とある町で立ち寄った雑貨屋でのことだった。
いつもは必要なものだけ買ってすぐに店を出る性質である彼女が、店の隅にある一角に立ち止まったまま、一向に動こうとしない。
首をひねって傍に行けば、彼女の前に陳列されていたのは、小さな鴨のぬいぐるみ。
ふわふわとしたやわらかそうな素材で出来た小さな鴨が、池のジオラマの上に、鴨の家族という風情で点々と並べられている。
そして、彼女は目を輝かせてそれに見入っていた。

ふ、と彼が表情を崩せば、それに気付いた様子でこちらを向き、ばつが悪そうに言う。

「あ、ご、ごめんなさい。もう少しだけ…ここにいていい?」

彼は微笑を返して、言った。
「別に、急がないだろ。俺も見たいものがあるしな」
ここで「待ってるから」と言うと、彼女は気を遣ってしまうだろう。
踵を返して、そこにあるものを品定めするふりをする。
そうして、横目で彼女を見てみれば。
また、先ほどのように目を輝かせながら、本当に何が楽しいのか判らないが飽きることなくジオラマを眺めている。

買ってやろうか、などと言えば、またあたしには似合わないだの旅をするのに邪魔だの妙な理屈をつけて意地を張るのだろう。
だから、もう少しだけ。

もう少しだけここで、可愛らしい彼女を飽きることなく見ていようと思う。

2006.6.9.KIRIKA