「………っ!」

声にならない叫びを上げて、跳ね起きる。
耳障りな自分の鼓動。張り付く汗。息苦しさに上下する胸。
ついさっきまで自分を苛んでいたものが、ただの夢だと理解するのに、数秒。
胸をぎゅっと抑え、息をつく。胸に広がる安堵感。
「……あ、れ」
そこで初めて、横で寝ているはずの想い人がいないことに気付く。
「…エリー?」
掠れた声で名前を呼び、辺りを見回す。返事はない。
再び、胸を締め付ける不安。
寝具から降りて、二歩、三歩。
「エリー……エリー?」
不安げに名前を呼びながら、歩く。
「……っ」
抑制できない衝動のままに、駆け出してドアに手を伸ばす。

がちゃり。

「…っ。どうした?」
自分がドアノブに触れるより早く、開いたドアの向こうには驚いたような表情の彼がいて。
不安を拭いきれない驚きの表情で、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「…どこ、いっ…てた、の?」
「…トイレだが」
夜中に起きて行くところはそこしかないだろう、という顔で、彼。
そこで、初めて今度こそ、ほっとしたように息をつく。
「…どうした?」
肩に触れて、優しく問うてくる彼。
そのまま、もたれるように彼の胸に額を乗せる。
「……嫌な夢を、見たの」
目を閉じて、呟く。
「あなたが…いなくなる、夢」
彼が手を肩から背に回したのに、つられるようにして腕を回す。
頭の上で、彼が苦笑するのを感じた。
「…俺はここにいる。お前らしくないな」
「…ええ。あたしらしくない」
言ってから、彼の胸に額をこすりつけて、背に回した手に力を込める。
「でも……心臓が、つぶれるかと思ったの」
頭を優しく撫でていく手の感触に、初めて自分の身体がこわばっていたことを知る。
黙って身体を暖めてくれる熱に、不安が溶けていくのがわかる。

でもそれは、それだけ不安を感じていたということ。

ずっと、一人でいることに疑問はなかった。
寂しいと感じたこともなかった。
けれど、得られたこのぬくもりが、一人は寂しいのだということを教える。

それが不安で、でも心地よくて。

「リー」

名前を呼ばれて上を向けば、唇に唇が優しく押し当てられる。

「…寝るか」
「……ええ」

優しい笑顔に、やっと笑顔を取り戻す。

一人でいないことの喜びと。
一人でいることの寂しさと。

両方を教えてくれた、大切な、人。

2006.6.7.KIRIKA