「……」
「ミケ?どうしたの?」
「ちょっと……寝不足なだけです……」
釈然としない、そして疲れた顔の侍従長に、女王は心配そうな顔を向ける。
「今日は、お休みでも、いいのよ?」
「まさか。……せっかく、仕事しながら、誰にも気兼ねすることなくあなたの側で、見ていられるのに。別の人にその役を譲るのは、嫌です」
「…………、今、わたくしは、凄く良いことを聞いたような気がします」
「……え?」
「寝不足って言うのは、本当なんですねぇ。頭が回っていませんよ?今日は、駄目です。寝てください」
「でも」
「でもじゃありません。……そんなに1人で眠れないのでしたら。わたくしは添い寝してあげますよ?」
「…………けっこーです」
「……そんなに、嫌な夢でしたか?」
「そう、ですね。実は全然覚えていないんですけれど。不快な気分だけが残っていて。苦しくて悔しくて……」
なのに、全然思い出せない。夢というのは通常そう言う物だろうが、それを差し引いてもおかしな位に。
「申し訳ありません、今日のところは寝かせていただきます」
「そうして。目が覚めてすっきりしていたら、お話ししてくれますね?」
「勿論」
頷いて部屋に戻り、服もそのままに倒れ込む。
ごろりと天井を見上げて、手を伸ばす。白い手袋が、嫌に目に付いた。
「……なん、だっけ……」
夢の内容を思いだそうとしながら、ミケは目を閉じる。
眠い。
夢見が悪いではとても片付けられないくらいに、眠くて疲れていた。

どうしてだろうと、考え続ける内に意識が暗転した。

「どういうつもりなんですか!こんな夢を見せて!」
「まぁ、でも、凄く幸せそうでしたし、きゃ、リリィ怒られている理由がわかりませーんv」
「その上、まだ夢の中なわけですか」
「ちょっと呪いが強すぎたみたいで。私も一緒に寝ちゃってるんで、ちょっと解けないんですよ」
格好も、世界もそのまま。
ただ、2人の他には誰もいない。静寂のみの支配する謁見の間。
「自分で解けないって……訳が分かりません。どうするんですか!」
「解く方法は、知ってますよ。……あなたが、目覚めようとすればいいんです。簡単なことですよ。この世界を、あなたが愛する女王を全部拒否すればいいんです」
一瞬、ミケが止まったのを見てリリィは笑う。
「……無意識、ですね。あなたは、自分が大事だと思うものを、完全に拒否できない。あなたを慕う者を捨てられない。それが、私の見せる夢であっても。この呪いを何より強固にしているのは、あなた自身」
「…………そうですね、偽りでも夢でも、この世界は愛しいと、僕はそう思ってるんでしょうね。けれど、起きなければ。夢なんですから」
「きゃ、じゃあ、頑張ってくださいなv」
「あなたは、目が覚めなくてもいいんですかっ!」
「構いませんよー?あなたの持つ全ての世界と引き替えで、私を愛してくれるんですものv全てを知ってなお、目が覚めないのなら。この世界を、私を愛してくれる何よりの証拠。そこまで愛してくれるのなら、一緒に眠り続けてあげますよ」
愛しているから、夢が覚めない。
目を覚まそうとしても、無意識の思いがそれをさせない。
多分、それは夢の中の女王だけでなく、本物の彼女を含むと知っているから、尚更。
……このままなら、彼女を閉じこめておける。

「欲しいのなら」
「?」
「欲しいのなら、僕は自分の力で奪い取る!あなたがなんであろうと、僕のものにしてみせる。振り向かせて跪かせてみせる。そうして誰にも渡さない。…………それはここではなくて、現実でやらなければいけないことです」
「そうですか?あなたは、わたくしを、捨てられますか?」
「僕は、欲張りなので」
静かに、微笑みを浮かべる。
「あなたが、全部、欲しいんです。白百合も、……黒百合も」
「そう」
そうして、リリィも笑みを浮かべる。
「わたくしも、あなたが欲しいの。その命まで、全部」
「そうですか」
そうして、ミケはその白い手袋を外して。

床にたたき付けた。

「では、目覚めさせてください」
「いやですvどうして持って言うなら、わたくしを倒してからにしてくださいね、侍従長v」

目が覚めるのか覚めないのか。
目が覚めても覚めなくても。

無意識の底で、愛したものを抱きしめているのだろう。だから目が覚めない。

……お互いに。

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後書き10-1
手袋を外す時って、なんだろう。

→決闘の申し込み

OK、理解した。任せろ。

……違ったんですねぇ……(笑)