「はー」
「リリィ様は、侍従長殿にべったりですねぇ?」
「ヘレンさん、冗談ですよね?」
言われたヘレンはころころ笑う。それに憮然とした表情で答えるミケ。
「べったりでしょう。……姫様は、侍従の間では手のかからない、世話のしがいのない姫様ですから」
「手がかからない!あれが!?」
「だから、べったりですね、と。あたしたちにだって、そんなに甘えることはないんですから、別格なんですよ」
「…………」
ミケは、そっと視線を落としてため息をつく。不安そうにヘレンが彼を覗き込む。
「でも、実際どうでしょうかねぇ」
「侍従長?」
甘やかして、甘えられて。
彼女に懐かれるのが嬉しくない訳がない。
だからこそ。
「……そろそろ、行かなくては。女王陛下がお茶とお菓子をと言い出す時間です」
「ああ、もうそんな時間ですか?今じゃもう、そのベルが時報代わりになってますからねぇ」
「そうですねぇ」
毎日、仕事が終わって着替えて人心地付くと、お茶と紅茶を頼むリリィ。それを持っていくのが決められたタイムテーブルのようになっているが。
……ミケは苦い笑いを浮かべる。それをヘレンは戸惑ったように見た。
「ミケさん?」
「……あのね、ヘレンさん。この習慣、僕が来る前には無かった物でしょう?」
「ああ、そう言えばそうですね」
「……この時間に、最初にお茶とお菓子を持っていったのは、僕なんです」

毎日、同じ時間に。
ねぎらいの言葉と、お茶とお菓子を。
そして、ほんの少しの雑談をしてから、お休みなさいと部屋を出る。
そうして、習慣にしてしまったのだ。

時間になっても来ないとき、彼女が呼ぶようになるまで。

それが当たり前になるようにしたのは、自分なのだ。
「大した事ではないかも知れませんけれどね。……僕に甘えさせてしまいたかったのかも、しれません。彼女の中の予定に、僕を組み込んでしまいたかったのかも。……本当は、僕が彼女にべったりなのかもしれませんよ?」
「……それも、いいんじゃないでしょうかね。姫様は嫌がっているわけではありませんしね。……むしろ、それを聞いたら、お喜びになるかも知れませんよ?」
「まさか。……だから、内緒に、していてください」
逃げられないように。
離れたりしないように。

故意に作り上げたタイムテーブルを、壊さないように。


後書き6
好きな人は、基本無意識に甘やかしてしまうタイプなのだと思います。
っていうか、ここの家の子は、大体みんなそんな感じ。何を厳しくしても最終的には甘やかしてしまう。
甘えられると嬉しくて更に世話を焼いてしまう。
悪循環だなぁ……(笑)