「侍従長、次の仕事なんですけれど」
「はい」
「書類は?」
「ありますが、お渡ししたくありません」
「はい?」
けろりと言った言葉にリリィは訝しげに侍従長を見る。
「どういう事ですか?」
「……どういうって。あなたの方がよく分かってらっしゃると思いますが?」
にこにこ、と笑っているミケが、そこまでいってふと真顔に戻る。
「具合が悪いんでしょう。いい加減、無理するのは止めて欲しいものですが」
「でも、仕事をしなければ」
「緊急以外の仕事は、後に回していただきました。だから、今日の仕事はおしまいです。寝てください」
「侍従長。命令です、書類を」
「お断りします」
命令の声にも、気にした風もなく彼は断る。
「あなたが、僕らにも見せないように無茶をしようとするなら、僕らもあなたが無茶をしようとしていることに気がついたら止めても良いですよね?」
「……わたくしは、女王です。仕事ができないのなら、1人で立てないのなら、女王として認めてもらえないでしょう!いくら、お飾りの女王だって……」
「お飾りの女王だったら、最初から書類なんか回しません!無理して倒れた方がよほど仕事に穴が開きます。あなたがまるっきり仕事ができなかったら、国政が滞るんですから。もっと、他の人を頼ってください。ご自分を大事にしてください。あなたはこれからも女王として毎日仕事するんですから。……今日くらい、半日休んでも大丈夫です」
「……ミケ」
「はい、女王陛下」
「だるいです。気持ち悪いです。頭痛いです。ふらふらするんです」
「……ちょ、重症じゃないですか」
「辛いです。苦しいです。……あなたが側にいてくれたら安心するから、寝るまでで良いから側にいてください」
「分かりました。じゃあ、すぐに女官の方を呼んで着替え……」
待って、と立ち上がって……ぽす、と腕の中に転がり込んだリリィに目を丸くする。
そんなに、立っていられないほど具合が悪かったのか。
「あなただけ、いればいいです」
「はぁ?何言ってるんですか?」
「着替えくらい、1人だってできます。脱いで楽な服に着替えるだけですし、後ろの紐ならあなたがやってくれたらいいでしょう?」
「……ええ、まぁ、そうですが」
「脱がしてくださる?」
「…………とりあえず、どういう意味かは深く考えませんけども」
「うふふ、それなら、休んであげます。側にいてね?」
「命令ですか?」
「可愛い彼女からのお願い、ですvね、ミケ」
力のない微笑みで見上げてくる女王の頭を撫でて、苦笑する。
「それじゃあ、しょうがないですね。そのくらいの我が儘なら僕も聞いてあげます」

あなたのそのお願いを聞くのは、僕だけにしてくれるなら。


後書き5
無理しがちな女王陛下の無理無茶は遠慮無く蹴り飛ばす。それこそがミケの忠誠だと(笑)
いつもと変わらないと言われたらそれまでかも知れません(笑)やりたいこと、正しいと思ったことはやってしまう、それが長所で短所(苦笑)