「っていうか、いい加減起きてください。僕の責任問題になります」
「ミケ」
「具合でも悪いんですか?」
「そうじゃありません」
「じゃあ、何ですか!?」
特別なスケジュールがあるわけではないが、いい加減起きてもらわないと、朝の仕事に差し支えるというのに。
「ん」
「?」
「お姫様は、王子様のキスがないと起きられないんですv」
「…………はい、そんな人はいないんで、今すぐ起きる!」
「やですー」
「どこに、王子なんかいるんですか!」
どう考えても、自分はそんな役回りでないと分かっているから、彼女の出した無茶な要求を蹴る。やーん、と抵抗していたリリィだが、そう言うと、もそ、とシーツから顔を出して、見上げて呟いた。
「……目の前です」
「……はい!?」
「キスして?」
「っ!」
「……って言ったら、信じます?」
「…………。分かってました。ええ、分かっていましたとも。分かっていて動揺した自分が一番愚かだと思いますとも。そんな柄じゃないって、ちゃんと分かってましたよ……」
「ミケ?」
「起きてください。ちょっとこれ以上、付き合っていられないんです」
分かりやすくテンションダウンして背を向けたミケにリリィは手を伸ばす。
「やだ、気にしてました?」
「します。本来あなたの相手はどこかの王子様なんですから。僕が『恋人』なんて地位にいる事自体不思議だというのに」
「……わたくしは、気にしていませんけれどね?そもそも、王子がみんな完璧な人だとしたら、怖いでしょう?王の子だから王子なんですから。わたくしが完璧な姫に見えるんですか?」
「表向きは」
「まぁ、失礼な」
くすくす、と笑う少女の方を向いて、ミケは深くため息。
「で、いい加減、本当に起きてくださいよ」
「だから、キスしてくれたら起きますって」
「王子様が必要なら、それらしい人を見繕ってください。誰がどう見ても、それは僕じゃない」
冷たい声に、リリィは流石に苦笑する。
「やだぁ、女の子にとって、恋人はみんな、『王子様』ですよv」
「……まぁ、男から見たら恋人はみんな『お姫様』でしょうしねぇ」
「そういうことです。だから、わたくしの。わたくしだけの、王子様。キスして起こしてくださいなv」

あーもー、敵わないな。そう呟いてため息と共にその額に一つキスを落としてやると。
「ちょ、ミケさん、それは無いと思いませんかっ!せっかく目を閉じて待ってたのにっ」
「うるさいっ!いいから、起きなさいっ!」

多分、色々な意味で目を覚まされたのは、彼の方。


後書き2
別に自分が王子でも、いいのかとふと悟る(笑)
女王陛下のお目覚めが、大変ハッスルしてしまったような気も……(笑)