「陛下、仕事はおしまいでしょうか?」
「ええ、侍従長」
にこり、と微笑んだ女王に、侍従長はため息。
「そうですか。では、下がらせていただきます……っ!?」
「駄目ですよぅ。仕事は、終わりですよ?これから何しましょうか?」
腕を掴んで、更ににこにこと笑う主君。
「……後は着替えて湯浴みでもして寝てください」
「いいじゃないですか、遊んでくださいよぅ。チェスでも読書でも良いから、付き合ってくださいなv」
「まったく、ここから先は僕じゃ側にいられないんですから」
「どうしてですか?」
けろっとした顔で聞く彼女に、ミケは苦い顔をする。
「……僕は、人間ですので、あなたが海側の区画にいたら側にはいられません」
「別にわたくしがこっち側にいたら問題ないじゃないですか」
「……今、夜なんですが?少なくとも、あなたは自室にいる時間じゃないんですか?休む時間です!」
「じゃあ、わたくしがあなたのお部屋にいくとかここで過ごせばいいじゃないですか。やすんであげますよ、ご休憩v」
「ご休憩とか、どこでそんな言葉を……。あのですね、そう見えないかも知れないんですけど、僕、男なんですよ!?こんな時間に一緒にいていいとは思えません!」
一番切実な発言は、あまり言いたくなかったのだけれど。
「まぁ!……身の危険を感じないんですけど」
「……ていっ」
「きゃう」
侍従長の放ったチョップがヒットし、女王は頭をさする。

主君と従者としては、明らかに間違った言葉。行動。

「いい加減になさいっ!」
「んもー、不敬罪で死刑になりかねませんよ?」
「するんですか?」
軽く肩をすくめた侍従長にリリィは苦笑する。
「しませんよ。だって」

「人目がないときには、女王扱いしないで。他でもない、あなたにだけに許す例外ですもの」

楽しそうに笑った彼女を初めて見たのは、街中。
普通の町娘だと思って接していたままの言葉と行動は、侍従長となった今でも許された関係。
この国で、たった1人だけ許された特権。
「……別に、仕事外でも、言ってくださればいつでも、ちゃんと女王扱いしますから、言ってくださいよ。本来、あまりいいことじゃないんですから」
「……言わなければ女王扱いしないっていうなら、いいんですけどねぇ。ミケさんは今でさえ女王扱いですよ?」
仕事は、終わりなのよ?と言われて、ため息。
「リリィ」
「はぁいv」
「夜、男の部屋に来るのは駄目ですから」
「あら」
「駄目に決まってるでしょうが!僕のだけじゃなくて、どんな男性のでもです!」
「……ミケ、あのねぇ」
「はい?」
言っても無駄、という顔でリリィはちょっとため息。
「わたくしが、どうしてこんな時間に、他の男の人の部屋に行く用事があるんですか?」
「まぁ、普通はないですよね。それは僕でも同じでは?」
「違います」
やっぱり分からないのねぇという感じに首を振って、リリィはミケを見上げる。
「夜、他の女性を部屋に入れちゃ駄目ですよ?わたくしだけにしてくださいね?」
「あなた以外に誰が遊びに来ると」
「そうじゃありません。……もういいです、疲れたのであなたの部屋で寛ぎます」
「え、あなたは!人の話を聞いていたんですか、ちょっと!」

そうして、彼の部屋にいるのは、自分だけに許された特権だと、リリィは思うことにした。


後書き1
そもそも、例外だらけの2人のような気がして(笑)
ミケの例外は、女王に何を言っても大丈夫なところ。
リリィの例外は、侍従長の全てが自分のものと言うことで(笑)