「はー、面白かったですよv」
「ぐ」
げほ、と咳き込んだ。既に慣れた錆びの味。慣れすぎて頭の中では酷く冷静に「まぁ、この程度なら回復魔法をちゃんとかければ全然平気だな」という把握もできてしまうほど。
向こうは、と言えば余裕の微笑みで、髪など直している。
「ほんっとに、ミケさんも懲りませんねー。私に魔法で勝負挑むなんて」
「……ぅるさい……」
魔法で、人の身を超えた魔女を超えるのは、難しいことくらい、最初からちゃんと知っている。知っていて尚、魔法で勝負を挑んでしまうのは。
「く、やし……っ」
言葉は血の混じった咳に遮られてしまった。けれど、彼女にはしっかり届いたようだ。
「どうして、また、魔法で私に挑もうとするんですか?」
肉弾戦になれば、彼女は簡単に倒せる。それもまた、知っている。……もっとも、魔法しか使えない自分には縁のない方法なのだが。
「そうでなきゃ、意味が、ないでしょう」
「そこに、どんな意味があるんですか?」
心底不思議そうな顔で覗き込まれて、ミケは彼女を睨む。
「なんでも、いいでしょうが!」
「えー」

あの一瞬。
初めて戦ったとき。自分に魔法を放って。……その魔法の威力は、仲間のフォローがなければそれで戦闘不能になりうるほどのもの。
だから、すぐに彼女は自分から視線を、意識を逸らした。
事務的に邪魔なものを排除して、次にどこへ行こうかと、それを考えていて。
その後の戦闘でさえ、ほとんどこちらへ意識を向けることはなかった。脅威になるのは仲間の方であることは、自分でもきちんと理解していて、それでもなお。
それが、悔しいと。
悲しいと。

何も、問題にならない。害にならない。だからほったらかしで良い。いつでも殺せるし、どうでもいい。
そして、それが彼女から今の自分への評価で、正当な物だから。

「絶対に、あなたに魔法で勝たなきゃ意味がないんです」
あなたが、無視できないように。
「そうしたら、あなたにぎゃふんと言わせられる気がして」
彼女と同じ土俵で戦って。
もっと力を付けて。
そうしたら、彼女はその評価を変えてくれるだろうか。
自分を、見てくれるだろうか。
その、どうでも良いと言わんばかりの慈愛のようなものを浮かべた笑みではなく。
もっと、違う顔で。
「……僕は、あなたを、倒したいんだ」
「……酔狂ですねぇ」
「その通りです。分かってますよ、そんなこと」
「そうですか。あ、そうだv……ぎゃふん♪これで、満足ですか?」
「そうじゃないっ!」
へらっと微笑んで言われて、腹が立った。
どうでも良いと思っているくせに。
自分のことなんか、どうでもいいと。

取るに足らない自分だ。
それでもいいと、少しずつ変えていけばいいとどこかで思っていたけれど。
…………対峙したあの時から、そのたった一人に自分を見て欲しいと、願っている。
そのたった一人には、そうは思われたくないと……思ってしまった。
他の誰に言われても分かっていると諦めが付くのに、彼女に言われるのは我慢ならない。

「……じゃあ、また遊びに来てあげますv今度はもっと、長く遊んでくださいねv」
「……悔しい……っ!覚えて……っげほげほ」
「はいはい、お大事にーv」

もっと、力が欲しい。
もっと、もっと。

その、視線の先を、捕らえられるように。

多分、負けたのが悔しいんじゃなくて、存在そのものをどうでもいいと思われているんだろうというのが悲しくて悔しかったんじゃないかなぁと。あのときメインはエルダリオさんだったから(笑)
いや、戦闘になって目の前にミケとエルダリオさんがいたら、私も迷い無くミケはどうでもいいです、戦略的には(笑)作者的にも(笑)もう、充分活躍したし(笑)
PL的にも戦闘で活躍させるように作った気はないのですけれど(笑)
それでも、自分の存在意義を探して旅に出て、まるっと無視されたりどうでもいいと思われることを気にしていたのかな……と初めて気がつくPL(笑)

ちなみにですね。

ユリのイラストを見た時点ではなんらときめきを感じなかったのにリリィのイラストにはときめきを感じたので、多分一目惚……うわ、ちょ、なにをするー(笑)どこに敗北感って、一瞬でも見とれた自分に敗北した気が(笑)

……黒百合の後書きとかを見る度に、リリミケの原点を考えていたんですけれど。ミケの中でリリィを意識したのは、初めてリリィに会ったとき、戦闘したときに根があるのかなーと思いました(苦笑)