敵じゃない、味方でもない

それは、状況次第、と言ったところか。例えばいちいち命を付け狙っているわけでもないし、狙われているわけでもない。
事情がなければ極力関わり合いになりたくないし、正直面と向かって喧嘩するのは得策でないことも知っている。
でも。
「……ミケさん、眉間にしわが寄ってますよ?癖になっちゃたら大変ですよ」
「放っておいてください」
だから、こうして何故かレストランで相席などという状態でも、喧嘩せずに済むわけで。
「でも、嬉しい偶然ですよねーvこうして、2人で相向かいなんてv」
「……リリィさん」
「はい」
にこり、と何の罪もないかのように天使のような微笑みを浮かべる彼女に、はっと鼻で一つ笑って、冷ややかな視線を向ける。
「僕を案内したウエイターさん。魔法で操ったでしょう?」
空席があるのに、相席など。
「はいv」

敵じゃない、味方でもない。

でも。
「……あなたは、敵じゃないし、味方でもないですよ」
「あら?それじゃあ貴方にとって、私は何ですか?」
「大嫌いなだけです」
「まぁ、素直ですねv」
ざく、とイチゴショートケーキの苺だけ取られて、殺意が芽生える。
彼女は決して味方ではない。
常に敵であるわけでもない。
ただ、そこにあるだけで、僕の神経をひたすら逆撫でしてくる。そういう存在なんだ。
「…………やだ、そんなに物欲しそうに私を見るなんて……食べかけですけど、要ります?」
「食べかけの苺(ヘタ側)なんて、いりませんっ!甘くないからでしょうが」
「口移ししましょうか?」
「いりません!」

無視しちゃえばいいのに。
結局、何があっても無視できない人。腹が立つのに、視線を外せない人。
そんな存在なんだろうなぁと思うのだ。

ついて来るなよ!

「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……頑張りますね」
「何がしたいんですか」
レストランを出て、図書館にでも行こうかと歩き出して。
微笑みながら何故か後ろを着いてくる彼女を知りつつ……可能な限り振り返らずに頑張ってみたのだが。
「暇なんです」
「他行ってください」
「遊びましょうよ~デートデートv」
「他行けって言ってるでしょう」
「分かりました」
意外にあっさり頷かれて、逆に拍子抜けした。
「そ、そうですか」
「はい。たまにはミケさんを尊重して、ミケさんの後を着いていくことにしますvきゃ、奥ゆかしいv」
「貴方と一緒にいたくない僕は尊重していただけないんですか」
「ミケさんと一緒にいるのは前提条件です。さ、どこに連れて行ってくれるんですか?」

確定系でそう微笑まれて、深くため息。振り切れる物なら振り切ってみるのだが、相手は空間すら曲げてくる。……疲れるだけだ。

「図書館に、本を読みに行くんです。魔法の研究しなきゃいけないんです。どうせ暇なのは変わらないでしょう?あなたが僕の知りたいことなんか、全部知ってるんでしょうから」
「そうですね」
するり、と腕を絡めてこられて……即座に振り払う。

これを繰り返すこと30回。

「頑張りますね」
「あのねぇ」
「ふふ、諦めてくださいよ。さ、図書館ですよねv」
「……着いてくるなって、言ってるでしょ!」
「じゃあ引っ張ってあげますv」
「そうじゃなーーーーいっ!」

もしかして、この人はこんなやりとりを楽しんでいる、とか。
聞いたら頷く気がしたので、そっと飲み込んだ。

死なれちゃ後味悪いんだよ

「……あれ?」
やけに静かだな、と思って本から顔を上げる。魔道の研究者として、レポートくらいは提出しないと、流石に除籍されそうで。
先程まで座っていた席にいない。
ほっとしたような、そうでないような。いや、絶対前者だ。
気になって、見回すと……本棚から本を抱えてきた姿があった。
「よいしょっと」
「?」
「はい」
「??」
「そのテーマでレポート書くなら、こっちも読んだ方が良いですよ」
「……はい?」
「で、こっちの論文が参考になると思います。それからね」
「いや、……何のつもりですか?」
「お手伝いです」
意味がつかめない言葉に真剣に悩む。……お手伝い、ってなんだっけ?
「やっぱり、凄くつまんないです。ぱーっとテーマ見て使えそうなものは選んであげましたから、借りて帰りましょう?で、もっと楽しいところに行きましょうv」
「余計な、ことを」
「ヒントもなく本を読んでレポート書いていたら、時間なんていくらあっても足りませんよ?それに」
にこり、と笑う。
「昼間、余分な体力使って、夜もリリィと遊んでもらって……それで過労で死なれたら、つまんなくなっちゃ……ううん、後味が悪いじゃないですかvお手伝いしてあげますから、省エネでv」
「勝手に夜の予定決めないでいただけますか?」
とことん、彼女は勝手で。
人のことなんか、気にもしないで。
「…………」
持ってきた本をぱらぱらと斜め読みする。……腹立たしいくらい、今読みたい資料だ。
パン、と音を立てて本を閉じて……席を立つ。
「ミケさん?」
「……もういいです。借りて帰ります。ありがとうございました」
一応、礼は言っておく。
こう言うときに、彼女は自分が足元にも及ばない魔導師で、知識が深いのだと思い知る。
それが、羨ましくて腹立たしくて妬ましくて。悔しい。
「はいっ!じゃあ、デートしましょv荷物なんか魔法で宿に放り出しておいてあげますから」
「本当に、今日はあなたは何がしたくてそこにいるんですか!?」
「やだ。デートしたいんだって、言ってるじゃないですか」

嘘くさい。

心底そう思った。

意外と可愛いところもある

「……はい」
「はい?」
「いいからっ!」
むりやり押しつけられた紅茶に、リリィはきょとんとしながら口をつける。
「資料のお礼ですっ!お礼も言ったし、これ以上は何も出ませんからねっ!」
「やだ、ミケさんったら」
くすくす笑って、ベンチでミルクティをすする彼の横に、寄り添うように座る。
間が開けられて、それを詰めておく。
不本意そうに眉をしかめ、苛立ちを隠さない口元が引きつったのを見て、満足した。
「私相手でも、お礼をしなきゃ気が済まないなんて、難儀な性格ですねー」
「うるさいです」
「しかも、こんな安い紅茶で」
「んじゃ、飲まなきゃ良いでしょ!」
「あなたが私にお茶をご馳走してくれるなんて、滅多にないことですから、いただきます」
「そんなにちょくちょくあなたとお茶を飲んでたまりますか」
「ミケさんの部屋の紅茶は、結構好きなんですけど」
ご馳走してくれるなら、あれがいい。
そう囁けば。
「次に何か、恩を売られて、返さなきゃいけないときが来たら」
「お茶、入れてくださるんですよねvうふふふ、2人きりでお茶ですね」
「茶葉だけで良いですか?」
「ダメですよ。ちゃんと入れてくれる人もセットで……甘いお茶菓子になっていただかないと」
「玩具になれと」
「はいっ!」

でも、多分、私が彼を可愛いと思うのは。
そうやって殺意を覚えながらも、押さえ込もうって無駄な努力をしているときの顔、かな。

視線が絡む

何のつもりだろう。
イライラする感覚を押さえ込もうとするのはもう無駄だと思って止めた。
腹が立ちながらも、自分の手を引きながら引っ張って歩くリリィの、頭を見つめる。
……本当に、どういうつもりなんだろう。
段々苛立ちよりも、そんな疑問の方が大きくなって。
「でね、ミケさん。……聞いてます?」
くるり、と振り向いたリリィと目が合う。
まっすぐに絡んだ視線。
「やだ、そんなに穴が開くほど見つめられたら照れちゃうv」
「……寝言は寝てからお願いします」
「腕枕してくださいます?」
「嫌です」
言葉がとことんまでぶっきらぼうなのはもう、どうしようもない。
……いきなり振り向かないで欲しい。
立ち止まって、自分をしたから見上げてくるその目が……この上なく楽しそうで。
「……なんですか?」
「まっすぐ、ですね」
「何が」
「普通、いじめられっ子っていじめっ子の目をまっすぐ見ないものなんですけどね」
「自覚あるんですね」
「そりゃもう」
にっこり、と笑った彼女の目から、視線がそらせないのは。
「本当に無鉄砲で……自虐的ですねv怖い癖に」
「放っておいてください!」

多分、斬りかかってくる相手から視線を逸らしてはいけないのと一緒だ。
しっかり見据えていないと、斬られる。その行動を見極めてかわしたいと思うなら。
絶対に逸らしちゃいけない。

でも。

「そんなところも、好きですよ」

この女は油断していなくても斬りかかってくるから。あっさり斬られるから。
……俯いてため息を吐く振りをして……そっと視線を外すのだ。
「きゃ、照れてます?照れてます?」
「うるさいなっ!本当に、どこかへ行ってくださいよ!」
だから、僕はこの人が、大嫌い。

助けるつもりなんてなかったんだ

深い深いため息。
やっと、静かになって……とりあえず喫茶店のテラスでお茶を飲む。
先程まですぐ横にいたリリィがいないと、静かになる。……ただ、いつもなら落ち着くはずなのに、急に何か足らないような気がして。
(そんなはず、ない)
即座に打ち消す。
大丈夫、ちょっと気が高ぶっているだけ。すぐに落ち着く。すぐに……。
「きゃーvミケさんっ、助けてー♪」
「はわわわわ!?」
テラスの柵を越えて、抱きついてきたリリィに悲鳴を上げる。
「なななな。何ですかっ!」
「それがですね」
「逃げなくてもいいじゃないか、お嬢ちゃん」
「そうそう、ちょっと遊んでくれるだけで良いんだよ、なぁ?」
「月並みでしょ」
「月並みですが」
ぼそりと耳元で言われ、ぼそりと返しておく。
「ほんっと、あなたって耳も悪いようですが、目も悪いんですね!引っかけてくるにしても、もうちょっと選んだ方が良いんじゃないですか?」
「やだ、目が良いからあなたがお気に入りなんじゃないですか」
「絶対、嘘くさい上、目が悪いとしか思えませんね」
吐き捨てるように切り返しておく。……からかうにはきっと最適なんだろうなとは、思ったが。
「いいじゃないですか、せっかく引っかけたんですから遊んでいらっしゃいよ。……僕を、巻き込むな」
「そんな!……でも、確かにたくさんの人とって言うのも、イイコトは良いんですけど、人数増えても、……もうちょっと上手そうなら遊んできても良いですけど明らかにヘタそうじゃないですか。ミケさんとの方が多分、幾分かは気持ちよくなれますって」
「「「なんだそれ!?」」」
ツッコミは男性陣から。
「なんだ、下手そうって!」
「ふざけやがって!いいか、お前は」
「今のは、あなたが悪いと思うんですが」
「まぁ、きっと図星ついたから怒ってるんですね」
「火に油を注いでどうするんですか」
「助けて、ミケさんv」
話も聞かずにひそひそと、睦言に見えるような女の子同士の内緒話に見えるようなをして。
自分よりも遙かに強い癖に。
そう口にするより早く、向かってきたチンピラの手には、何か光るもの。
「すみません、お代はここにっ!」
「きゃ」
銀貨2枚を置いて、ミケは席を立つ。
「風を纏いて踊る、麗しき乙女たち。我らにその衣、貸し与えよ」
ふっと体が軽くなって。裏路地を駆ける。
「ええええ、ミケさん、逃げちゃうんですかっ!」
「当たり前でしょうが!」
咄嗟に掴んで引っ張ってしまった自分よりも華奢な手。
「余計な戦闘は、嫌です!僕、弱いんですからっ」
「んもー。でも、ふふっ」
振り切った先、人気のない路地裏でぜーはーと荒い息を吐く自分と、途中から宙に浮いて、自分に引っ張ってもらっていたリリィと。
「横着して……胸以外に肉が付いても知りませんよ!?」
腹立ち紛れに口にした言葉には、小さなボールくらいの氷の固まりが腹部に直撃したけれど。
「……はーもー、振り切ったんだから、どこにでも、見つからないようにしながら、行ってくださいよ」
「……ミケさん。素直にもう大丈夫だよとか言えないんですか」
「僕が大丈夫じゃない」
「んもー。でも」
息を整えているミケを引き寄せて。
「助けてくださって、ありがとうございますv」
軽い音を立てて頬に唇を押しつければ、真っ赤になって。
「たっ、助けた訳じゃ!」
「でも、手を引いて逃げてくれたじゃないですかーv本当は格好良く倒してくれるともっと面白かったのに」
「面白い!?……ああ、もう。助けた訳じゃないんですっ!火の粉を振り払ったら、たまたま」
「たまたま、私の手を取って?たまたま、魔法を私にまでかけて?」
「…………」
やめよう。
口で勝てると思っていないけれど、口を開くと余計な言質が取られそうだ。
背を向けて、ざくざく歩き出す。
「えー、ミケさーん。そこで逃げるんですかー?」
敵前逃亡でも良い。
今は、とにかく。
完全敗北だけは、避けたい気分でいっぱいだった。

ぶつけたお互いの拳

「てか、なんで僕まで」
「いいですけど、出て行っても」
チンピラは仲間を呼んだ。チンピラが5人増えた。
「なんか、壮大な鬼ごっこになりましたねっ」
「なんで、こんなことになっているんだか」
あれから今度こそ宿へ戻ってレポートを書くぞ、と意気込んで(後ろにはリリィがいたけれど)歩き出したときに、彼らを見つけた。
女2人組(!?)に逃げられてしまったチンピラは、何か言いながら自分たちを捜していることに。
「……リリィさん。つかぬ事をお伺いしますが」
「はい」
「…………まさか」
「やだぁ、私が何か彼らにしたって言うんですか?」
「あのとき持っていた、光っていたのって、ナイフだった気がするんですよ。だから、連れて逃げちゃったんですけども……」
じと、と見つめれば、リリィはくすりと微笑む。
「そりゃ、麻薬取引なんて現場、ちょっと見ちゃいましたけどv」
「偶然にしちゃ、出来過ぎですよね、タイミングが」
「やだ、あんなところで取引している人が悪いんですよ。いくら私でも、流石にそこまでは仕組んだりしませんよ。予定ではミケさんの部屋で、今頃くつろいでいる予定でしたから」
「何の予定ですか」
つっこんでおいて、そっと物陰から覗く。
まだ、いる。
幸いにしてこちらには気がついていないし、ここは裏道で人通りもない。多少騒いでも喧嘩など日常茶飯事であろう。
「明日からもヴィーダにいるには、やらなきゃいけませんよねぇ。でも、いっそ逃げちゃおうかなー。僕の顔なんか、印象に残ってないと思いますし」
「そうでしょうね。絶世の美形って訳じゃないですしね。いいんじゃないですか、それも」
「他人事みたいに言いますけど、巻き込まれたの、僕なんですからねっ!?」
「私を連れて逃げちゃったりするからですよ。どうして、見捨てて逃げなかったの?」
からかうような言葉に、ミケは。
「…………なんとなく、じゃないですか?分かりませんよ、僕にだって」
憤慨して答えると、リリィはくすくす笑った。
「それはね」
「愛じゃないことだけは確かですけれど」
いつもの台詞を言われる前に、答えてやった。
「素直じゃなりませんね」
「この上なく正直ですよ、僕はね。……とっとと、行きますよ」
「はい」
「……なんですか」
わくわくしながら自分を見ているから、そう聞いてやれば。
「うふふふふふふ、ミケさんと一緒にいると楽しいですね。手伝ってあげますよー?逃げるのも戦うのもご自由にv」
「あのですね。誰が、持ち込んだ問題ですか?」
「ミケさんです」
こいつは。
思ったけれど、睨んでおいたけれど、そんなものが堪える人ではないことを、良く理解している。
「倒して突き出して、生活費に充てましょう」
「まぁ、紅茶にお茶菓子が付くかしらv」
「もう、なんでも……いいですけどね」
諦めて、そっと拳をあげれば。
にこりと笑ってその手に自分の拳を当てて。
「うふふ。共闘は、初めてじゃないですか?」
「ああああああああ、なんでこんなことに」
「決まってるじゃないですか」

「ミケさんが悪いんですv」

背中は預けたぞ

「冗談じゃないですよ」
「やーんv」
更にチンピラが増えて。完璧に囲まれている。
「……予想、してたでしょう?」
「それは、ミケさんもでしょう?あんな事件目撃して目撃者が逃げたら、5人ばかりで済むわけ無いじゃないですか」
気が重くなりながら、一歩下がる。とん、と背中に当たる小さな背中の感触。
「どうしたいですか?」
「殲滅したいですね」
即座に返ってきた答えに背中で満足そうに微笑む彼女が感じられる。
「じゃあ、お手伝いしてあげますよv」
「上機嫌ですねぇ?後が大変怖いのですが……抜かれないでくださいよ?僕はあなたと違って、か弱いんですから」
「やだぁ、ミケさん。誰に向かって言ってるんですかー。もー、その台詞は、私がミケさんに言うべきじゃないですか?」
「あ、むかつく……」
リリィも見なくても分かる。彼が眉をしかめているであろう姿が。
「うふふ、こっち側は即殲滅しちゃいますから、頑張ってくださいねv」
「言われなくても」
向こうの口上など、聞く耳持たず。
2人は魔力を集中させた。

世界で一番、信用できないけれど。
その実力は、恐らく誰より信頼できる。

向こうはそうは思っていないけれども。
そこまで考えて、深く深くため息を吐くのだ。
「……絶対に。追いついてやるんだから」
「独り言ですか、寂しいですねー、ミケさん」
「うるさいっ!誰のせいだと!」

時には休戦

「うふふ、今日聞いた『借りができて返すとき』がすぐに来て、嬉しいですねv」
「時々、あなたの行動全てが計算ずくじゃないかと思いたくなる……」
紅茶(秘蔵)を入れるミケの顔は、既にげっそりしているが。
「ミケさぁん、スコーン食べたいですー」
「自分で焼け。または買ってきなさい。この部屋にはありません!」
とん、とティーポットを置いて、砂時計を返す。
「で、なんでまた、今日は一日あなたに付き合うことになったのか、説明してもらえます?」
「だから、デートしたかったんですってば」
「あなたは、いつでも短時間遊んで帰るでしょう。こんなに長時間付き合わされたのは、初めてです」
ちょこっとやってきてはからかってからかって、魔法で死なない程度に大怪我させて帰ったりするのがいつもなのに。
今日に限ってこんなに一緒にいるから。
「誕生日なんです、きゃv」
「へー、おいくつに?」
「女は16から年を取らなくなるんですよ」
「ああ、らしいですね」
先生の言葉を思い出して、それ以上の追求を止めた。
「……私は15歳ですけどねv」
「そうですね」
一応、体は。
「……それはそれは。お誕生日おめでとうございます」
「はい。というわけでプレゼントくださいv」
「……貴重な僕の一日を、どうしてくれるんですか、あなたは」
「いいじゃないですか、研究は進んだはずですよ」
確かに、必要な本は揃ってるし。
でも。
「僕の、今日の胃の痛みは!?」
「知ったことじゃありません。ね、プレゼントは?」
「……何が、欲しいんですか?」
それには答えずに、リリィはにこりと笑った。
凄く、絶望的な気分になる。
「あら、続きを聞かなくて良いんですか?」
「聞きたくなくなりました。僕には渡せません」
「やだぁ、減らないですよぅ」
「減るから嫌です」
カップに紅茶を注いでやりながら仏頂面のミケに、満足したようにリリィは笑う。

「あなたが、欲しいんですよ。とりあえず今日一日。楽しませてもらっていますよ、今のところ」
「帰れっ!楽しくも何ともないですよ、僕は!」
「波瀾万丈でスリルいっぱいで、いいでしょう」
「いっぱいいっぱいです!」
「そんなこと、言ってー。まだまだ余裕でしょう?」
彼の手からポットを取り上げ、ミケのカップに注いでやる。
「さ、お話ししましょう?あなたとのお話、私は大好きですよ」
「僕は、大ッ嫌いですよ!」

スコーンはないけれど、クッキーくらいは出してやれる。たたき付けるように目の前に置いてやれば、「ほら、やっぱり出してくれる」とばかりに不敵に微笑むから。
うかうかと彼女に乗せられている自分が、嫌いになる。

「ああもぉ……調子が狂う……」
「まぁまぁ、紅茶でも飲んで落ちついてくださいなv」
「だから、誰のせいだとっ!」

ナイスコンビネーション

「仲が良いんですね、ミケさんたち」
「誰が仲が良いって?」
アカネのからかいの言葉に、ミケはぎぎぎっと顔を向けて、ずっとしわができている眉間をもみほぐす。
「ね、仲が良いんですよvきゃ」
「黙れ魚」
「いやーん、人種差別ですー。ミケさん、それはマーメイドに大して大変酷いことを言ってるんですよ?謝ってください」
「あなた以外には土下座してもいい」
「まぁ、じゃあリリィにはこの傷ついた硝子の心の責任を取ってくれるんですね?」
「何ですか、責任って」
「やだぁ、知らないんですか?男の人が責任を取るって「アカネさん、接着剤を彼女にやてくれます?」
くるりとこちらを向くミケに、アカネは笑う。
「本当に、仲良しですね」
「良くない」
「そうなんです」
同時に。
「らぶらぶですねぇ」
「どこが!?」
「ですよねーv」
それもまた、同時に。
アカネはちょっと苦笑して、2人を見やる。
喧嘩と言うよりは一方的にミケが文句をつけ、リリィが受け流し。たまにリリィから制裁が飛び。更に口喧嘩を。
見ていて気持ちの良いくらい、ぐだぐだでらぶらぶな2人に見える。
当事者以外には、腹立たしいバカップルに。
(でも)
2人は恋人同士などではない。けれど、これだけは。
(意外に、似たところがあって。良いコンビなんでしょうね)
更に発展していく口喧嘩。それとは関係なくトランプのゲームは続いていて。
この会話がデフォルトとは。
「はい、勝ちー」
「うがっ、むかつく……もう一回っ!」
「いいですけど……そうですね、次に勝ったら何かもらおうかなー○○○とかv」
「……。止めておきます」
「あら、逃げちゃうんですか?うふふ」
「…………いいです、それで」
「えええ、そこは食いついてくるところでしょう!?」
「勝っても負けても、なんだか危険なことになりそうで」
「うふふ」

でも、結構この2人の口喧嘩は見ていると面白いから。
アカネはストローを2本刺したジュースを差し入れることにした。

今後の展開が、読める気がする。
奇数にした茶菓子と共に、テーブルまで行く。
「『この胸のときめき』です。よろしければどうぞー」
リリィの楽しそうな笑顔と。
ミケの呆然とした表情を見て。
アカネはカウンターへと戻る。そして、2人の観察を続けるのだった。

相川さんからお誕生日プレゼントを頂きましたーv10のお題というから別々にページを作ろうかと思ったら、10個通して一つのお話になっていましたので全部一つのページにしましたvうふふ、来ましたよー背中合わせ(笑)すごいすごい嫌そうな顔をしているのに目が離せない、なぜかつっかかってしまう、そして最後には思い通りにされちゃうミケさんに激萌えですv(笑)リリィも楽しそうだなー、いい誕生日プレゼントになったことでしょう(笑)もちろんあたくしも大変楽しませていただきました、どうもありがとうございましたーv