「ミケは、いつ産まれたの?」
「なんですか、急に」
女王の言葉にミケは振り返る。執務も終わり、お茶とねぎらいの言葉を届けに来て、急にそう聞かれてちょっと首を傾げた。
「あれ、もしかして僕に興味を持ったとか?」
あはは、と冗談めかして聞けば、うふふと女王も笑った。
「勿論ですよーv興味のないひとを侍従長に据えてどうするんですかvで、いつなんですか?」
「ミドルの月ですよ。もう終わっちゃいましたけど」
「あら、残念。お祝いくらいはしますから、先に言っておいてくれたら」
「それはそれは、光栄ですね」
あなたも座って?と促されて、戸惑いながらも座る。……侍従長が椅子に座ってどうすると言われそうだ。
「ふふ、もっと色々聞かせてくださいよー。私は、あなたのこと、もっと知りたいですからv」
「……といわれても。んー……大雪の降った寒い日だったみたいで、もともと身体の弱かった母が難産で、医者を呼びに行くのが大変だった、とか」
「……雪、ですか」
「……ああ、そうか、陛下はもしかして雪をご覧になったこと、なかったりしますか?」
「まぁ、ここでは降りませんから。絵とかで見たことはありますよ」
視界を埋め尽くす真っ白な世界。
全てが白銀に染まる美しい光景。
言葉を尽くしてもきっと伝わらないし、どうせなら本物を見て欲しいものだ。きっと、そんな雪深い時期に他国へ行くことなど、あまり無いだろう。
「とても、寒いですけれど……綺麗ですよ。いつか、一緒に見られたらいいですね?」
「まぁ、プロポーズですか!?」
「違います。……でも、あなたに一度見せてあげたいですね。雪に埋もれた故郷の景色を。実際、雪下ろしとか雪かきとか大変ですけれど、ね」
紅茶が終わったのを見て、それを下げようと手を出すと、少女は興味深そうに微笑んだ。
「もっと、話を聞かせて欲しいんですよーぅ。おかわりくださいなv」
「明日に差し支えるから駄目です」
「ええー」

そんな会話があって、そして1年。
色々なことがあって、そして。

「ねぇ、ミケ」
「何でしょう、陛下」
「今頃、あなたの故郷は雪が降っているのかしらね?」
唐突な言葉に、1年前の話を思い出す。
「ああ、そうですね。きっと真っ白になっていますね」
「あら、楽しく遊んだのではないの?」
「遊びますけれど。……まぁ、想像できるとおり……僕寒いの苦手なんですよね」
体育会系の実家では色々外で筋トレなどがあったわけだが……兄も姉も実は寒いのは苦手なのだと知っている。
「雪だるまとか、途方もない大きさのをみんなで作りながら雪かきとかね。懐かしい」
懐かしいというか、基本力のある兄と姉と一緒に作っても何も役に立たなかったというか。
「……一緒に実家に遊びに行けたら良いんですけどね、そう言うわけにも」
「行きます」
「いや、ええと、行きますって普通に言いましたけどね。女王陛下がほいほい出かけられないでしょう!?遠いんですけど!?」
「連れて行ってくれないの?」
「え?」
じーっと見られて、意味を考える。
「……ええと……」
「ミケ」
まっすぐ見つめられて、パニックを起こす。どういう意味だろうと考えるのだが、それ以前に。
「あの、泣きそうな顔、しないでくれませんか!?」
徐々に拗ねたような泣きそうな顔をされて、悠長に考えていられない。
「馬鹿っ」
「いや、あの」
「宿題にしてあげますっ」
ぷん、とそっぽを向いた少女に、ミケは困ってため息を一つ。
「わかりました、考えます」

「ヘレンさーん」
「あら、ミケさん。どうしたんですか?」
「お願いが」
酷くバツが悪そうな顔で声をかけてきた侍従長に、ヘレンは苦笑する。
「なんでしょうか?」
「欲しいものがあるんですけど、取り寄せる事って、できますかねぇ……陛下に内緒で」
「あらあら……まぁ、協力はいたしますけれど。聞かれたらあたしは女王陛下寄りですからね」
あっさり口は割るよ、という宣告に「……ですよね」と侍従長は肩を落とした。
「でも、普通はあなたくらいの地位ですからねぇ、できないことはないと思いますけど」
「うう、そしたらちょっと出かけてきます……女王陛下には上手くいっておいてください」
そうしてよろよろと出て行った侍従長に、ヘレンは苦笑した。

「あら、ミケさん、宿題の答えは出ました?」
「……う、結構お怒りですね……?」
呼び方の差異に、それを知る。
「ええと、今日の紅茶です。お仕事お疲れさまでした」
「はーい、良い子で仕事しましたv」
「それと、こちらを」
そっと、箱を差し出されてリリィはきょとんとする。その蓋をゆっくり開けると。
「……ペンダント、ですね。これは?」
綺麗ね、と言いながらそれを見る。豪華な装飾があるわけではない、ごくごく普通のビーズの細工。女王の手に持たせるものではないだろう。
……本来なら。
「雪は、細かい欠片でできています。その欠片は一つとして同じものはないのだそうです。大きくすると、その欠片はそのペンダントのような形をしているんですよ」
「まぁ。そうなの」
「……本当は見せてあげたいんですけれど。今は連れて行ってあげられないから、それで我慢してください」
「そうですか」
「雪のように融けてなくなったりはしないから……僕も。だから……そうですね、エミリア様が1人で何日か執務ができるようになったら、休養とか称して連れ出して良いですか?」
ゆっくりと視線を上げると、ミケはにっこり笑った。
「本物を見に行きましょう。綺麗ですよ」
「分かってないでしょう、宿題の答え」
「分かってる、つもり、なんですけれど」
苦笑に変えて、続けた。
「その時には、もうちょっとお金貯めて、あなたの手にあってもおかしくないような指輪を渡して、逃げられないようにしないと」
「あら、私は一途で健気でひたむきな女ですよ?」
「……その頃には兄たちが結婚して相手が居て、取られないような状態だといいな……」
「やだー、あなたはもっと自信を持って「僕以上にあなたを幸せにできる男は居ないんだ」くらいのことを言って欲しいですよねー」
上機嫌に手の中の欠片を握る。
「約束ですよ?絶対絶対、連れて行ってくださいね?」
「ええ、約束。必ず連れて行きますから」
おいで、と手を伸ばされてリリィは上機嫌にその腕に収まる。融けない雪をその手にしながら。

という内容のSSが、バレンタインの前日に届きまして。フライングバレンタイン話ですよ、ということで美味しく頂いたのですが。ていうかこれはバレンタイン話というよりプロポーズ話?(笑)と思いつつお礼とか書いたりして。
翌日、毎年相川さんから頂いているバレンタインのお菓子プレゼントが宅配で届きました。チョコやパイの詰め合わせで、さらにポストカードのメッセージ付き。

「この輝きはあなたの世界には存在しないもの。でもいつか、必ずあなたに届けてみせる」

という。
まああの、毎年頂いているものの中にも年賀状とかにもメッセージは頂いているんで、恒例のものだろうと思ってこちらもありがたく頂いて。
お菓子は一度に食べずに会社に持っていって、毎日チマチマ食べていたんですが、食べ終わった日にゴミを分別して捨てるために箱を分解していたところ、プレゼントボックスのクッションの下からこのようなものを発掘。

……………ああ!(笑)

そこでようやく、一連のSSとポストカードのメッセージの意味がわかりました(笑)
すいませんネックレスを今日見つけました、というメールを相川さんに送ったら、「だろうと思いました(笑)」「お返事から推察するにネックレス見つかってないんだなーと」

言ってよ!!(笑)
捨てちゃうところだったじゃないのよ!(笑)

といういわくつきのお話だったのでした(笑)
いやあ、相川さんの女王はなんか可愛いですよね(笑)拗ね方が(笑)あたしのがひねくれてるだけだろうか(笑)
時間差で受け取っては降りますけれども、凝ったものをどうもありがとうございましたv大事にします(笑)