「先輩っ、大丈夫ですか?」
「う、うんっ!平気!」
全然平気じゃない必死な声と顔。
それが愛おしくて、自然笑みが浮かぶ。
「どうしたの?」
「いいえ、さ、行きましょう?」
あの迷宮も崩れて、もうすぐ年が明ける。兄さんたちは家でまだ……麻雀やら(弁慶さん、ヒノエ、リズ先生でやっていた。九朗さんは横で見ていた)おせち料理作りやら(梶原兄妹と白竜、敦盛さんだ)をしていて。初詣は明日と言うことになっていたけれど、俺は先輩をこっそり連れ出している。
抜け駆けだと言われそうだが……その辺は許して欲しい。先輩とどうしても……一緒にいたかった。
「譲くーん、やっぱり、はぐれちゃいそう!ねぇ、手、つないで?」
真剣な声で、そんなことを言う先輩。可愛らしくて……嬉しくて自然に笑ってしまう。
「いいですよ、はい」
「ありがと。きゃうっ」
人混みに押されてよろける先輩を支える。やっぱりみんなを連れてこなくて正解だ。白竜あたりは絶対に迷子になりそうだし、何より集団で行動するのは迷惑になる。
……それに、こうして堂々と先輩と手をつなげるし。
「……」
「どうしたんですか、先輩?」
「ん……電車の中でも思ったんだけど、譲君って……もう、すっかり大人の男の人なんだなぁって」
「え?」
「そうやって、私を守って支えてくれるから。もう私が守ってあげる、なんて、言えないね。寂しいけれど、嬉しくてどきどきする」
きゅ、と俺の腕に先輩のそれが絡められて……見上げてくる視線がぶつかって。俺が照れて逸らすより先に、先輩が赤くなって俯いた。

なんて、可愛いんだろう。

「先輩、あの」
そこで大地から響くような低い鐘の音。
ああ、もうすぐ年が変わるんだな。
「なぁに、譲君?」
「……こうして、この年の終わりに先輩と一緒にいられて、嬉しいなって」
1つ1つ重ねられる鐘の音。
「今年は、色んなことがありましたよね。不思議なこと、大変なこと。でも、その全てが……先輩と一緒だから、俺は乗り越えられました。ありがとうございます」
「ううん、そんな」
「それから」
最後の、1つが響いて。
「明けましておめでとうございます。新しい年を、あなたと一緒に始められたことが、凄く嬉しいです」
「……うん、私も!でね、譲君?」
「はい」
「新しい年になると、昔は一個年を取ったことに……成長したことになるんだって?」
「ええ、数え年ですよね。それが?」
ひょい、と先輩は背伸びをして俺の耳に手を当てて、囁いた。
「名前で、呼んで?年経た印に」
……ああ、そんなのが源氏物語にあったっけ?先輩の教科書に載ってたはずだ。
苦笑を浮かべて、そしてしばらく俺は照れて赤くなったまま言いよどんでから。
「好きですよ、望美」
「うん、大好き、譲君っ」
弾けるように笑って、先輩は……望美は俺の頬に、1つ、キスをしてくれたのだった。