咳き込んだ。
そして大きく深呼吸。
「で、言いたいことは、終わりました~?」
「くっ……」
聞き流していることなど、最初から分かっていたが……それでも湧いてくる文句も憎悪も全部ぶつけて。
……とめどなく溢れてくる呪いの言葉に、いい加減自分で嫌になった。
「も、いいです、どうでも」
「あん、すっごく傷ついたんですよ~?」
「金剛石よりも厚くて頑丈な面の皮のくせに」
「……ふふっ」
「何がおかしいんですかっ!」
思い切り吐きだした怒りの言葉の固まり。
「ミケさんの悪口が、どんどん独創的になっていって、面白いです」
「……はー」
目眩とため息。……もう、疲れた。
「……いつも温厚で優しいあなたが、声が嗄れるまで呪いと悪意に満ちた言葉を言うのは、私だけですものね?人間、いつまでも内側にそんなのを溜めておくと、歪みますよ?良かったですねぇ、そういうのをぶつけられる私がいてv」
私だけ。
そう、彼女だけ。
不思議なくらいに、やることなすこと気に入らなくて、一言が心に波紋を生んで、冷静でいなければならない自分がいなくなる。
「いつも、他の人には見せられない……見せないように隠してしまう素のあなたの顔は……とても、可愛いんですよvうふふ、醜くて劣悪な感情がない人間なんて、存在しない。あなたは清廉潔白なんかじゃない。弱くて脆くて、醜い人間。……でも、いいんですよ?私の前で嘘の正義なんか振りかざさない……余計な建前なんかなく、あなた自身を私に見せてぶつけてくる……そんなあなたが」
とても、好きよ?
そう囁いてやる。
「黙りなさいっ!」
「きゃはははは、んもう、照れちゃって、可愛いんですからーv」
「醜いって、弱いって言われて、照れませんっ!言いたい放題言ってくれて……っ!」
「分かってるから、言われて傷ついて怒るんですよねー?うふふ」
ああ、どうして。
こんなに醜い感情が浮かんでくるんだろう。こんな気持ちになんか、なりたくないのに。
「ああ、もー、むかつくー!この口かー!?」
「ひゃんっ!ひっはらはいれくらはいー!んもうっ、そういうときは引っ張らずにその唇で塞いでくれればv」
「っく、ああああ、もー、いいっ!表へでなさいっ!」
「こてんぱんにされるって分かってて勝負を挑みに来るあなたが、本当に無鉄砲で無茶したがりで、可愛くてたまりませんけど」
「うるさーいっ!」
この手で誰かを傷つけて滅茶苦茶にしたい、なんて……そう、確かに彼女だけ。
誰かを守りたくてそのために手にしたはずの力なのに。
喉が嗄れるほど、呪いの言葉を吐くのに、この心はそんなものでは満足しない。
側にいるだけで満ちるこの激しい感情のままに……彼女に打ち勝てたなら、どんなに楽になるだろう。
それは、未だ歪んだ夢のまま。
「……それが、本当のあなたなのに……あなたが作った『優しく聡明な魔導師サマ』なんて、上辺でしかないんですよ。うふふ、あなたがあなたらしくいられるのは、私の前でだけ。そうやって声が嗄れるほどに私を呼んで……『憎悪(あい)』を囁いてくれるから、会いに来たくなっちゃうんですよねーv」
「何か!?」
「なんでもありませーん☆さ、始めましょうか?うふふ、あんまり可愛いから……たまには本気で遊んであげましょうかねーv」

飾らない本当の自分でする逢瀬は、紅蓮の花と切り裂く刃と何より素直な言葉と共に。