「んん~」
かちかち、と立体六面体をがちゃがちゃ回しながらリーは唸る。
「……で、開きそうなのか、それは」
「待って。もうちょっと」
「……こんな面倒な仕掛けを作ってまで、守るような遺跡じゃないだろーに」
うんざりした顔でそう言うエリーは真剣な顔でパズル状態の仕掛けを解いているリーの手元を見つめている。
淀みなくかしゃかしゃと音を立てて面を回してバラバラの色彩を揃えていく白くて細い指。
そこからゆっくりと上に視線を上げていく。
銀色の髪、折れてしまいそうな華奢な首。緩く開かれたふっくらした唇。紫銀の瞳。真剣な表情。
集中してしまって。こちらを見ることもしない彼女に、仕方なさそうな……それでいて酷く愛しい者への想いを込めた笑みを浮かべる。壁に背を預けて見守るうちに、みるみる色彩が揃えられていく。

かちり。

澄んだ音を立てて解かれたパズルは光を放ち……遺跡の奥への道を開いた。
「成功ね!……って、エリー、どうしたの?」
「いや?さすがは『最も賢しき者』の娘だと思って」
「……何よ、それ」
「褒め言葉だ。それにしても、ずっと見つめていたのにも気づいてくれないって言うのは、少し寂しいかもな。ま、遠慮なしにお前を見つめられるのは役得かも知れなかったが」
「……やだ、ずっと見てたの!?時間がかかっているんだし、他のことをしていたかと思ってたのに」
「……ずっと、見てたのにも気がつかなかったか?よほど、集中していたってことかな?」
「ん、それは」
言いかけて止めたリーの言葉の先を、無言で促す。それでも言う気配を見せないから。
「気になる。……ちゃんと、聞かせろよ?放っておかれたんだ、それくらい教えてくれても良いんじゃないのか?」
「うー」
ほんの少し、リーは頬を染めて。
「あなたが、側にいると……いつもより集中できるのよ。存在感って言うか、あなたの空気が……邪魔になるどころかぴったりと合う気がするの。凄く安心できて、落ち着ける。投げ出しそうになっても、あなたの空気があたしを後押ししてくれる、そんな気がするの。あなたがいてくれたから……あれだけ集中できたんだと思うの」
側にいて、彼女の能力を一層高めることが、できるというなら。
自分の存在が、彼女の存在と合うというなら。
「知ってるさ、そんなこと……俺がお前の半身だってことくらいな」
「そ、そんなこと言ってない~っ!」
「そういうことだろ?」
「……う、まぁ、そうかもしれないけど」
それでもしっかりと認めてくれたその言葉に……エリーは酷く上機嫌に笑った。
「それじゃ、俺のお姫様?この先もその手を俺に預け続けてくれよ?……好きだ」
「~っ!私だって、好き、よ。……って、ちょっと!そういうことは遺跡を出てからっ!」
「キスの一つや二つで、文句を言うな。我慢しているほうだ。さ、早くこんなところは出て、続きをしようじゃないか」
「んもう、エリー!」

もっと、ちゃんと聞かせて?あなたが私を好きだって。あなたのことを、たくさん。
もっと、ちゃんと聞かせろよ?お前が俺を好きだって。お前の気持ち、考えを、俺に。