Trick or Treat?
甘いお菓子をくれないと、イタズラするよ?

ぽこっ☆
「った」
頭に軽い音を立てて当たったのは、中身をくりぬかれ、目は口を刻んだ、ジャックオーランタン。それを拾い上げて、ふと思う。
なぜ、夜遅く、自分一人しかいない部屋なのに、こんなものが。
(……危険)
感じて咄嗟に壁際へ寄ろうとして。
のしっ♪
「こんばんは、ミケさんv」
「うわっ」
多分。
そう、多分、自分の危険感知能力はそれほど低くないつもりでいるけれど。
……ちょっと、遅かった。
振り向くまでもなく、後ろからべったりと抱きつくこの生き物に、心当たりはありまくり。
「……はーなーせーーーーーっ!」
「やですー」
じたばたするも、後ろで笑いながらしがみつくリリィに、深く深くため息。
「あら、もう抵抗しないんですか?」
「……何しに来たんですか?」
「遊びに来たんですよ」
冒険中に会うならば、それは問題なく命のやりとりだが、そうでないときに来る理由なんて、他には無いことを、よく、知っている。ただ、人間知っていても敢えて確認したいときはある。
「殺る気なら、中身のくりぬいてない大きなカボチャをぶつけてますって」
「そ、それは、嫌な死に方ですね……」
「翌朝の新聞に乗れますよ。っと、そう言うわけで」
暴れることを止めたミケの前に、リリィは回り込む。
「……その、衣装は?」
「ハロウィンですから、魔女の仮装です!」
「元から黒百合の魔女が、何言ってるんですか」
「あらぁ、いつもの格好の方が、萌えます?」
「訳が分かりません」
黒い魔女の帽子と、ゴシック系の上着とミニスカート、ニーハイソックスと靴。袖だけは長めで指先だけは出ているものの、あまり手元のイメージは変わらない。
「さぁ、ミケさん。Trick or Treat?」
にこにこと微笑む顔に、要求される物は何か、よく分かった。分かったけれど。
「……どうぞ」
「ええー、こんな、今そこにあったお茶請けクッキーなんて!子どもの使いじゃないんですよ?」
「見た目子どもが何言ってるんですか」
「……ええと、それじゃあ」
先程まで書いていた研究資料に手をかけて。
ぽこっ☆
「分かった、分かりましたから。それは止めてください」
「口調は下手に出てますけど、カボチャ投げるのはやめてくださぁい」
破こうとした手を止めて、頭をわざとらしくさすりながらリリィは可愛らしく口をとがらせる。
「甘いお菓子をくれなきゃ、次はもっと被害甚大に悪戯しますよ?」
「あなたの規模は、悪戯じゃすまないでしょうが!」
例えば100年単位で国に呪いなんかかけちゃったり。
「……正直、あまり分かりたくないのになぁ」
「そう言う聡いところ好きですよv」
する、と首に手を回されて。
「Trick or Treat?」
囁くその言葉に、(ああ、提出期限が近いんだけどなぁ)と思って。……少し自嘲気味の笑みを浮かべる。そうして、その体を引き寄せて。
「……っふふ、ご馳走様ですvやだぁ、分かってくれるクセに、焦らすのが好きなんですか?」
「……激しく不本意です」
腕の中で笑うリリィに、眉をしかめながら言葉をたたき付けておく。そうして、溶けて唇の端からほんの少し流れたルージュを乱暴に指で拭ってやって。
「さて」
「はぁいv」
色々頭の中で天秤にかけて。ため息。
「……Trick or Treat?」
「まぁ」
眉はしかめられたままだけれど、その言葉に満足そうに魔女は笑った。
「私、甘い物は持ってないんですぅvイタズラ、して良いですよ」
「言うと、思いました」
「やだ、要求したのはミケさんじゃないですかv」
「は……。どうせ要求しなかったら『でも、甘い物足りないからイタズラしていきますv』とか言って好き勝手していくんでしょう?だったら少しでも自分にとって良い方向を目指します」
「んもう、そこまでリリィのことが分かってくれてるなんて、嬉しいです、きゃ」
「分かりたくない……」
深いため息と諦めと、胸の中のもやもやするものと。
「まぁ、もう充分に外で遊んできたんでしょうし?適当に遊んで帰ってください」
「……どうして、そう思うんです?」
「化粧までして凝った服着て。メインイベントで遊び倒してきた後ここに来たのでしょう?」
「っふふ」
思わず笑ってしまったリリィに、ちょっと眉間のしわが深くなったのを見て、更に笑ってしまう。
「まぁ、ミケさんってば自分がおまけだからって拗ねてるんですか?可愛いv」
「寝言は寝てから言いなさい」
そういえば、魚類は瞼がないから目を開けたまま寝るんだっけー……とふと詮無いことを思い出しながら、風の魔法でリリィを浮かせて、どこへとは言わないが抱えていって。
「ミケさんのためだけに装ってあげたんですからv拗ねないでくださいねv」
「あなたはもうちょっと、嘘らしくなく物が言えると思ってますけれど」
「きゃははは」
それでも彼は、本当に自分の言葉など信じていないと、知っている。
「本当、ですよ。……私もそんなに、暇じゃないんです」
「こんなところに来ている時点で、相当暇なんでしょうが」
「ふふ」
「なんですか」
「なぁんでもないですーvほらほら、自分でイタズラしたいって言ったんですから、期待しますよ?うふふ、自分からハードルあげてくれるなんて楽しみですねー、きゃ」
「……今からでも遅くないから、帰ってください……」
「ええー、遅いですよー、こんなになってるんですし」
にこ、と笑う上機嫌な笑みと、忌々しげな表情と。
「すっごい、腹立つ……」
「私は、すっごく、楽しいですよ」
その言葉を挟んで、先程のように甘い甘いお菓子ふかいくちづけを。

Trick or Treat?
甘い甘い、お菓子キスイタズラこういを、君に。

相川さんから頂きました、ハロウィンものですv
トラアゲ世界にハロウィンは、讃地祭の前夜祭ってことでとりあえず作っておきました(笑)ハロウィンのねたを何かやりたいよねー、というお話をしていて。盛大にハロウィンを祝うことにしました(笑)
せっかくですので、魔女のリリィも描きたいなーと思っております(笑)
しかしなんつーか、相変わらずこの魔女は言ってることムチャクチャですな(笑)それに不本意ながら答えるミケさんが超萌えです(笑)
相川さん、どうもありがとうございましたーv

そして、せっかくですので魔女を描きましたー(笑)