それは、ある裁判の後。
「成歩堂龍一。あなたにしては珍しく、良い趣味の店ね」
(珍しく、は余計だって)
今回の裁判の弁護士は成歩堂ではなかった。けれど、狩魔冥は全力を持って被疑者を有罪にした。……故に、今日は彼女の機嫌は悪くない。
「イタリアンとは……。読めるの?」
「いや、カタカナで書いてあるから……」
「馬鹿は相変わらず馬鹿のままね」
びしっと、床が音を立てた。無論それは、冥の振るった鞭で。
「狩魔検事、こういう場所で鞭は、その、危ないと思うんだけど……」
「……そうね。暇な弁護士が薄給の分際でせっかく誘ってくれたのだものね。精々おとなしくしてあげるわ」
(いつもそうしてくれ。……そしていつ俺が奢ることに……い、異議あり)
ささやかに突っ込んだ。
「ふふふ……」
冥の上機嫌は、何も勝利のためだけではない。……『裁判が終わったら、たまには食事でも』という成歩堂からの誘い。完璧なロジック(冥談)で、僅か30分で有罪判決を勝ち取り、即電話した。
嬉しくて。
一緒にいられることが楽しみで。
鞭の鋭さも3割り増し。
「さぁ、あなたはどれにする?」
(いや、連れてきたの俺なんですけど)
主導権は、いつも気がつくと向こうのものだ。
裁判のときも、今も。
それが、男としてはちょっと悔しくもあり、そんな彼女が愛しくもあり。
重要だなぁと苦笑しながら、カタカナのメニューを目で追った。

「パスタ、どうだった?」
「まぁまぁね。いいわ、ここ。気に入ったわ」
ナプキンで口元を拭いながら冥は微笑う。
味もいい。雰囲気もいい。贔屓にしようと、決めた。
「あ、どうする?ドルチェとか」
「当然ね。頼むわ」
冥の答えに、成歩堂はふと、何かを思いついたように。あの裁判所で見せる不敵な笑みを浮かべ。

「好きだよ、冥」

「な」
手からグラスが滑り落ちて、床で砕けた。
瞬間的に鞭を振るうことも忘れ、唖然としたまま彼の顔を見つめる。
「……あ、いや。そんな風に驚かれると、こっちとしても」
「なななな、何を言っているの!馬鹿が、馬鹿の……馬鹿な事を……!」
びしびしびしびし!
周辺のテーブルのグラスが、人が、成歩堂が、叩かれて悲鳴を上げた。
「い、異議あり!なぜ、いきなりこんな……!」
「DOLCEって、口説き文句って意味があるんだよ。いや、頼むって言うから、つい」
「つつつつつ、つい、でいきなり……!」
ばびしっ!
テーブルが、嫌な音を立てた。
冷や汗を流しながら、ごまかし笑いを浮かべ、成歩堂は冥を必死に落ち着かせようと言葉を重ねる。
「いやいや、こんな形だけど、実際狩魔検事のこと、好きだし?ふ、深く考えずに好意は好意として憶えておいてもらえると」
「異議あり!深く考えずに?馬鹿ね、成歩堂龍一!重要な事じゃないの!」
「そ、そうかな……?」
「そうよ。だって、わ、私は……っ!」
強気な姿勢が一瞬崩れて……直後、我に返る。
「ふ、ふっ!その手には乗らないわ。この狩魔冥の完璧なロジックを崩そうだなんて」
既にぼろぼろ。
「待った!……『私は』と言ったけど……続きが気になるんだけど」
「私は……その。……成歩堂龍一!」
「はっ、はい!?」
追求しすぎたか……。
叩かれるのを覚悟して、返事をすると。
「……あなたは?」
「は?」
「あなたは、ドルチェ……いるの!?」
「……」
苦笑混じりの笑みを浮かべ、成歩堂は頷いた。
「是非」

おなかが満たされたら、心も満たそう。
甘いもので、幸せになろう。
ドルチェ召しませ。

きりかさんへ。
いや、たまたま夕食が一人で食べに出かけたら。パスタのお店のメニューにこんな文字があったので。
「ドルチェはイタリア語で口説く文句の意味があります。口説かれてみます?」
是非。
と言う訳で、思いついたので(笑)
最初の予定だと、狩魔検事に「成歩堂龍一。ドルチェはどうするの?」と聞く予定だったのですが、別方向へ(死)
とりあえず、捧げます(笑)
アイデア1秒シナリオ30分(笑)
早く小説部屋を作りましょう(笑)

相川和泉

相川さんのナルメイ第2弾です。なるほどくんの不意の押しにテンパる冥ちゃんがめっちゃ可愛いですねえ(*´‐`) なるほどくんは弁護士なのにお金持ちのイメージ全く無いですがw女の子を食事に誘った時くらいはおごってあげたらいいと思う!女の子じゃなくてもおごらされてる気がしないでもないけど!w
相川さん、こちらも随分前のものに恐縮ですが、改めてありがとうございました!