僕たち二人の関係は、かなり微妙かもしれないと思う、今日この頃。

「……よし」
トレードマークにもなった赤いネクタイ。
髪もしっかりまとめた。
弁護士・成歩堂龍一の顔で、鏡の前に立つ。
「ナルホドくん、準備できた？」
「ああ。今、行く」
「お。やる気だね？今日も傍聴席から見守ってるからね！」
真宵の言葉に、一つ頷いた。
負けるわけにはいかない。
そう、今日は特に。
「……負けないでね？何しろ今日の相手は……」
「狩魔検事だからね。心配しなくても……今日もいっぱいいっぱいだよ……」
「……もの凄く心配だよ、ナルホドくぅん……」

「ふっ、逃げずに来たようね、成歩堂龍一！」
「ああ。今日も、よろしく」
「今日こそ、『成歩堂龍一、敗北』の文字が全世界に流れるのよ！」
びしっ。
鞭が床を叩く。
ああ、これさえなければ。
成歩堂はようやく避けることを覚えた身体に残る幾多の傷を思う。
裁判で勝つたびに振るわれる鞭。
最近では無罪判決を下す前に、恨めしげな顔をする裁判長。
裁判が終わった後の刑事たちが見せる恐怖の表情。
自分のせいじゃないと、何度叫んだことか。
でも、それでもこうして法廷に……狩魔冥に向かうには理由がある。
それは。
「あ、そうそう。はい」
「っ！勝負の前に、卑怯よ、成歩堂龍一！」
「だって、勝った後じゃとても渡せないからね」
「……確かに、受け取ったわ」
そう、このためなのだから……。

そして、今日もどうにか。
紙一重で、逆転に成功した……。

ひとしきりイトノコ刑事を鞭で叩き、大荒れで自分の部屋に戻ってきた冥は、いそいそと鞄を開ける。
そして、成歩堂から受け取った包みを開ける。
その表情は、一変して年相応のものだった。

「○月×日　晴れ
狩魔検事、そろそろ提案なんだけど……法廷や事件以外の場所で会えないかな。お互い、同じ事件を担当するのって、大変だと思うんだけど……。
あ、そうそう。この間裁判所の近くで、面白いお店を見つけたよ。トノサマンのグッズとかあって、かなり遊べる場所なんだ。今度一緒にどうかな。はみちゃんや、真宵ちゃんが結構好きで、良く行くんだ。御剣も連れて一緒に遊びに行こう」
彼らしい、やや乱れた文字で、そしてあちこち修正された部分が見受けられる。どれくらい悩んで書いているか、想像がつこうというもの。

「……馬鹿が馬鹿と一緒にまた馬鹿やって」
口調とは裏腹に、顔は優しい笑みを浮かべている。そして、成歩堂のノートを抱きしめる。
『メイとナルホドの交換日記帳☆』
そう書かれたノートを。

「○月△日
……悔しいわ。今日もまた無罪だなんて。いい加減に諦めたらどうなの、成歩堂龍一。誤認逮捕がこんなにも多い、この国の警察にも問題があるのは分かっているわ。
それから提案のことだけれど。
愚問ね
私は検事。
あなたは弁護人。
法廷で会うのが筋だわ。当然でしょう。あなたが私に屈服するなら考えても良いけれど。
嫌でしょう？
それでいいの。分かったかしら？

で、なぜ私がトノサマンなんて……まぁ、いいわ。レイジはあの手の馬鹿な番組を結構好むみたいだし？弟のために、行ってあげてもいいわ。日時は後で連絡する。
検事は弁護士みたいに暇じゃないの。あなたのところは特に暇みたいだけれどね。

それじゃ、今回はここまで。何か意義があるかしら、成歩堂龍一？

Ｐ．Ｓ
『狩魔検事』と日記で呼ぶのもおかしいわ。馬鹿は馬鹿故に馬鹿な日本語しか使えないから仕方ないのかもしれないけど。次からは考えて発言しなさい。

それから。今日の裁判で異議を唱えたあなた、結構かっこ良かったわ。　　　冥」

綺麗な文字でそこまで書いて……修正液を最後に一行に塗りたくる。
「こ、今回は『冥』って呼ばせるだけで、いいわよね……？」

法廷や、事件現場でのみ会って、日記を交換する。
それには、……理由はほとんどないけれど。
強いて言えば……理由もなく彼と会うなんて、恥ずかしい、だった。
もし、誰かに見られて問いつめられたら。
からかわれたら。
きっと、自分は恥ずかしくなって、意地を張って、鞭を振るってしまう。
自然に会えて、お互いを崩さない距離がいい。

でも、そろそろ……会いたくてたまらなくなる日がある。
声だけでも聞きたい夜がある。

だから。
塗りつぶした部分に、万年筆でもう一度言葉を綴る。

『……とりあえず、携帯番号とアドレスを書いていくわ。何かあったら連絡なさい。……そうそう。例の店に行く日取りを連絡できるように、まずそこにかけるように。　……まったく、先に連絡先くらい書いておきなさいね』

かたり、とペンを置いて。
冥は呟く。
「それにしても……日本で恋人になるにはまず交換日記からなんて……意外に面倒ね。……まさか、レイジもパパも嘘ついてないでしょうね」

法廷はデート場所。
二人で言葉の剣を突きつけ合う、それこそが愛の言葉。

まだまだ二人は微妙なカンケイ。

でも、一歩ずつ、前進中。

おしまい

なぎさんへ捧ぐ（苦笑）
交換日記までとの指定、どうもです（笑）交換日記までとなると、デートはなく、きっと法廷で愛を確かめ合うしかないと（笑）
でも、それってらぶ？らぶですか？らぶってことにしておいてください。
お互い法廷では全力で戦うからこそ、愛は深まるものだと信じています（笑）
そして御剣は真顔で嘘をつき、冗談だったと言い出せずに見守っている気がします。
期待はずれですか？（笑）
そんな気がする（苦笑）
では、どうもでした～。

相川和泉

SSを整理してたら相川さんのナルメイが見つかったので載せましたｗ
昔過ぎてうろ覚えですが、確か二人が付き合うっていう図が想像できなくて、交換日記ならどうにか…とかの話だった、ような？ｗ　名前を呼ばせるのにも照れ照れなメイちゃんがめっちゃかわいいです(*´‐`)　大昔のものに恐縮ですが改めてありがとうございました！