「そういう訳で、明日はあなたを連れて行くことができないんですよ」
若干の不本意さを滲ませる口調でそう言ったミケを、リリィはきょとんとして見上げた。
「それはわかりましたけど、意外ですね」
「何がですか」
「ミケさんがちょっと不満そうなのが意外かなって」
「不満な訳ではないですが…いやある意味不満なのか…」
「そんな、リリィと四六時中一緒にいられないのが不満だなんて、リリィ照れちゃうきゃっ」
「誰がですか。あなたから目を離したら何しでかすかわからないから胃が痛いだけです」
「なるほど、何をしてもいいと」
「今の発言のどこをどう取ったらそういう結論に?!」
「うふふ安心してくださいミケさん、ミケさんのいない間にお屋敷の使用人さんと仲良くなってミケさんの小さい時の話聞いたりとか、ミケさんのクローゼットの中身をみんな女性用の服に入れ替えておくとか、ミケさんのデスク漁って日記探して中身改竄しておくとかそんなことくらいしかしませんから」
「安心できる要素がひとつもないんですが?!というかどんどん犯罪度上がってってるじゃないですか!」
「まあそれはそれとして、明日ミケさんいないんですか…ヒマですねえ」
「魔術書なら自由に読んでいいですよ」
ミケはそう言って、部屋の奥の棚を示した。
「魔術を学んでいくならば知識は多い方がいいでしょうし」
「そうですねえ、私から魔法を取ったらただの美少女になっちゃいますし」
「自分で言いますか」
「そこは『そんなこと言わないでくださいリリィさん、あなたにはそれだけじゃない素晴らしいところがあるじゃないですか』って言うところですよミケさん」
「うげ…僕がそんなこと言うと思いますか」
「実際に言ってたらアルコールか病気か精神支配を疑いますね」
「でしょう。参考までにお伺いしますが、あなたが思うあなたの『素晴らしいところ』とは?」
「えーと…猫を被るのが上手い?」
「それ長所なんですか」
「謀略を巡らせるのが得意とか」
「だからそれ長所なんですか」
「うーん、改めて考えるとあんまりないですねえ。かわいいだけじゃだめですか?」
「少なくとも流行りに乗るのはお上手なようで」
ミケは嘆息して、今度は窓の外に目をやった。
「別に家にいなくてはいけないということではないんですから、外に出てもいいですよ。買い物とか…お茶とかするんじゃないですか。年頃の女の子は」
「今ミケさんのオヤジ度が爆上がりしましたね」
「うっ…仕方ないじゃないですか。妙齢の女性の生態なんかわかりませんよ」
「でもいいですね、ショッピングやお茶。ノーラお姉さまをお誘いしたら楽しそう」
「僕の胃痛を増やすのやめてもらえませんか」
「えーひどい言いがかりですぅ。女子二人でおいしいお茶とお菓子をいただくだけですよ?」
「街中でそこだけ違う空気になってざわつくのが目に浮かぶようです…」
想像するだけで胃が痛い様子のミケ。
「いずれにせよ明日は姉上もおつとめのようですから、出かけるならおひとりになりますかね。お小遣いはあまり持ち合わせがないので大した額は渡せませんが…」
「お金ならありますから大丈夫ですよ」
さらりと言ったリリィに、盛大に眉を顰めて。
「…前から思ってたんですが、あなたの資金どこから出てるんですか」
リリィはにこりと笑って見せた。
「初期のお金はチャカ様からある程度いただきましたけど、基本は自分で増やしてますね」
「ふ、増やす…?」
「ここの場合は、貿易商のお嬢様という設定だったので、実際に買い付けをして商売をしましたね。あとは投資です」
「投資…」
「ミケさんたちが見つけてくれるのが思いのほか遅かったので、なんかサロンが無駄に豪華になる程度にはなっちゃって。もうちょっと遅かったらもう一個くらいお城買ってたかもしれません」
「くっ…僕が高級チョコ買うのもためらっている横で何ということを…!」
「ミケさんはそういうの下手そうですもんねえ」
「あなたまさか違法な手段で…」
「今回に限っては『清廉なお嬢様』でいる必要があったので、そっちには手を出してませんね」
「今回に限ってというところが引っ掛かりますが、まあ信じておきましょう」
ミケはいろいろなものをあきらめたように嘆息した。
「では、資金があるなら外出もご自由に。外で食べてくるならそう言づけてください。僕は夕食までには戻ってこれるようにします」
「はーい。お気をつけて」
「あなたも」
「私も?」
きょとんとするリリィ。
ミケはなおも不本意そうに、嘆息して言った。
「あなたも、年頃のかわいらしい女性ですし、今は魔法もそこまで使えないんですから。外に出かけるのなら、よからぬ輩に絡まれないよう、できるだけ明るくて人通りの多いところを通ってくださいね」
「………」
目を丸くして絶句するリリィに、眉を顰めるミケ。
「…何ですか」
「今日イチ意外なことを言われた気分です」
「…間違ったことは言っていないでしょう」
「年頃のかわいらしい女性、という表現に言及しても?」
「……間違ったことは言っていないでしょう」
口に出している内容とは正反対の苦い表情で言うミケに、リリィはにーっこりと微笑み返した。
「うふふふ。わかりました。外に出るなら気を付けますね」
「……承諾されているのに何で不本意な気分にならなくちゃいけないんですかね…」
「まあまあ、明日早いんですよね?おやすみなさい、良い夢をー」
ぶつぶつ言いながら部屋を出ていくミケを手を振って見送って。
「…さて、とは言うもののあまり外に出る用事もないですね…」
ふむ、と唸る。
「ノーラお姉さまがいたらお誘いして楽しそうですけど。クローネお兄さまも出張ですし…警戒MAXだからからかうと面白いんですけどねえ」
本人がいたらドン引きされそうなことをさらりと言ってから、ふと思いついたように手を合わせた。
「…グレシャムお兄さまは確か、明日在宅勤務って仰ってましたね。あまりお話したこともないですし…せっかくですからいろいろとお話ししちゃいましょうか」
うんうん、と楽しそうに頷いて、予定が決まったとばかりにクローゼットに向かう。
明日は楽しい「お留守番」になりそうだった。
“House-sitting”2025.12.7.Nagi Kirikawa
相川さんから頂いた「騎士の誓いの定義」を読んで、お留守番するリリィを書きたいなと思って書き始めたはずなんですが、なんかいつもの掛け合い漫才みたいになってしまった…w収拾がつかないので割と強制的に終わらせましたw 「私から魔法を取ったらただの美少女」と「かわいいだけじゃだめですか」を言わせたかっただけですw
この次の日がいただいたお話に続きます。相川さん重ねてありがとうございました(*´‐`)