ヴィーダ『真昼の月亭』。壊れてしまったらしい通信機に慌てる花。 | |
花 | みっ…ミシェルさん、あの、通信機が?! |
ミシェル | うふふー、大丈夫よー、花ー。通信機能はなくなったけどー、向こうの様子はこっちに届くようになってるからー。 |
花 | えっ…あら… |
通信機(だったもの)からは、敵の出現に完全にパニックを起こしている冒険者たちの声がはっきりと聞こえている。 | |
花 | まぁ…ひとまず状況がわかるということには安心ですが…でもあの…この遺跡、ミシェルさんが…? |
ミシェル | うふふー、私は何も嘘は言ってないわよー?あの人たちもお仕事なんだからー、依頼人のちょっとしたジョークで仕事は放棄したりはしないでしょうしー。 |
花 | …ちょっとした…? |
ミシェル | 人生は潤いがなくっちゃねー。 |
花 | ありすぎるのもどうかと思うのですが… |
暢気に傍観(傍聴?)している奥様ズの通信機のその向こう。 現れた「ラスボス」に対峙する冒険者たち。 | |
レティシア | あ…あれは怪人レンガレンガの亜種?! きっとあのレンガは北海道は札幌市白石区産に違いないわっ!! |
マジュール | レティシアさん、ローカルすぎます!ていうかなんで貴女がそれをご存知なんですか?! |
レティシア | それならきっと、これを倒したらこのダンジョンが段々縮んでいって誰か一人が犠牲にならなきゃいけなくなるのよ! |
マジュール | スルーの上に押すんですか?! |
レティシア | で、犠牲になったヒトは、みんなの悲しみの涙なんてお構いナシに何事もなかったように再び現れて「この身体、2代目ですからー」とか言うのよ! |
マジュール | ああもう!ミケさん何とかしてくださ…ミケさん? |
ミケ | ………本が……… |
マジュール | はい? |
ミケ | ……本が、散らかった…… |
マジュール | ええ?! |
ミケ | あ、ああああ、ああああああああっ!ついでに言えば、本棚は……さっき背表紙見て読みたかった本とか資料とか、あの壁の向こう、または床にっ! |
マジュール | 気にするのはそこなんですかー?! |
ミケ | 白夜さんっ!! |
白夜 | な、なんだ?! |
ミケ | ツルハシっ!ツルハシだしてっ!突貫しなくてはっ!ええもう、早めに壁を始末して、依頼品奪還して、本を漁らないと!ああ、炎系の魔法は全てが灰になる可能性があるので、皆さん使用厳禁でお願いしますっ!!でやー!! |
リィナ | ミケちゃん落ち着いてー!!ミケちゃんの力でつるはしとか振るえるわけないじゃん! |
白夜 | 問題はそこにはないと思うがな。 |
ルナ | あぁぁ、パトラッシュ…私、もうすぐ綺麗なお花畑で花輪を編みつつ今は亡きおばあちゃんと川遊びができるんですね…。 これは悪い夢だったんだ…そう、全部夢…。不気味な遺跡で落とし穴に落ちたのも白夜さんに嫌われたのも マッチョに襲われたのも白夜さんに嫌われたのもトカゲさんのシッポを切り損ねたのも蝙蝠さんに襲われたのも白夜さんに嫌われたのも今こんな恥ずかしい格好をしているのも白夜さんに嫌われたのも白夜さんに嫌われたのも嫌われたのも嫌われたのも全部………夢だったんだわ、パトラッシュ…!!(がし) |
アリヤ | なんで俺様を掴むだら?! |
ルナ | 思い残すことはたくさんあるけれど、私泣きません!さぁパトラッシュ!!どうせ死ぬなら突っ込みましょう!!お国のためにこの命犠牲にするんです! ほしがりません、勝 つ ま で は ーーーーー!!! |
ゼクセア | ちょ、ちょっとルナ!パトラッシュとかはいいとして |
白夜 | いいのか? |
ゼクセア | あなた一人でつっこんでいくのは危険だしなんだかそのフレーズはいろいろとやばいわよ! |
ルナ | なんですか!止めないで下さい!私はパトラッシュと……あ、あれ、トカゲさん? |
アリヤ | 貴様絶対確信犯だら!! |
アッシュ | ぬぅ。この惨憺たる状況を見てみれば、やることはひとつ。 後世のため、詳細な記録をとっておかねば。何せ、常日頃より世界の半分を敵に回している私と違い、奴らは世間体を気にしなければならんパンピーだからな。 |
マジュール | それって要するに脅迫のネタにするってことですか?! |
アッシュ | 俗な言い方をすればそうなるな。ここのところ、ちと手元不如意になりつつある研究費を捻出するためにもこの針穴写真機で………あぁ、しまった!露光時間が足りーん! |
白夜 | やはりすでに遺産は食い潰していたか…とにかく、あれをどうにかしないことにはどうにもならないだろう。逃げるにしろ戦うにしろ、時間はあと僅かだぞ。 |
ゼクセア | そうね、100秒じゃ今から逃げてる余裕はないだろうし、戦うしかないでしょうね。 |
ミケ | とか言いながら何余裕げにパイプ吸ってんですか。 |
ゼクセア | この格好で煙草も新鮮なもんだと思わない? |
ミケ | 教育団体から抗議来ますよ。 |
ゼクセア | えぇ?だってほら、まだ戦闘じゃないんでしょ?ま、私は裏方に回らせてもらって、若い子の活躍をゆっくり見せてもらおうと思って。 |
ミケ | あなた何しにここに来たんですかー!! |
ゼクセア | まぁ、こういう稼業やってて、こんなにも仕事してる感のない仕事も正直初めてよねえ。 |
ミケ | あなたが仕事してないだけです!! |
ゼクセア | えっと…ナースの格好するのが仕事なの? |
ミケ | そうです!! |
リィナ | うわぁ言い切った。 |
ミケ | ギャグシナリオに来たら、自分を捨ててボケ倒すのが仕事なんです!ネタ思いつかないからってサボっていてはダメですよ! |
ゼクセア | あら、バレた? |
そんなことをやってる間にも減って行くカウント。 「58、57、56……」 | |
白夜 | これだけのことをやっていて50秒も経っていないというのもすごいな。 |
マジュール | しっ!それは言わない約束です! |
「53、52、51……」 | |
リィナ | 92、91、90……… |
「89、88、87………」 | |
レティシア | えええつられちゃうの?! |
マジュール | グッジョブですリィナさん!このスキに戦闘を有利にしてしまいましょう!白夜さん、あの袋を貸してください! |
白夜 | ん?ああ、ミシェルさんに貰った袋か。存分に使え。 |
マジュール | ありがとうございます!これでえーと…ロープと…瞬間接着剤を出して…っと! |
マジュール、カウントを続ける壁の右の手に走っていき、力を込めてそれをグーの形に曲げると、ロープでぐるぐると縛り倒す。 | |
マジュール | これ……でっ!戦闘がだいぶ有利になるはず…ですっ!(ぎゅっ)こちらの手は時間がないので瞬間接着剤で止めてしまいましょう!ついでに、生命線もガリガリ削ってしまいましょう! |
レティシア | さすがマジュール!じゃあ、私も何かしなくちゃ!白夜、私にもカバン貸して! |
白夜 | ああ、構わない。 |
レティシア | えっと…油性ペン…と、カラースプレー…と、除光液… |
アリヤ | …何をするつもりだら? |
レティシア、壁の顔に駆け寄るとおもむろにスプレーをふきかける。 | |
レティシア | とりあえずルナが怖がっちゃってるし、私の華麗なメイク術でファンシーに作り変えちゃいましょ! |
アリヤ | どこが有利になってるにらー?! |
マジュール | せっかく私がまともに作戦を立てているのに?! |
白夜 | まあ、この中では却って浮くな。 |
マジュール | 白夜さんまで?! |
レティシア | よーしっ、でき……えっと……ファンシーに…する…つもりだったんだけどなぁ… |
ルナ | こっ…これは……ナノクニの伝統的な歌劇団、「ヅカタカラ」メイク?! |
レティシア | まつ毛長っ!!目張り濃ーーーっっ!!こ、これじゃあルナがますます怖がるわ、除光液除光液…… |
ゼクセア | …ま、まだ描くんだ…… |
レティシア | かきかきかき…っと………あれ?これも何かどっかで見たような…彫りの深い、眉毛の濃い……… |
キャティ | こっ……これは…!裏稼業のクセして誰もが顔を知っている伝説の暗殺者!吉祥寺の黒天使!スナイパーモアイ!! |
アリヤ | ゴノレゴ……?! |
リィナ | えっねぇその名前っていいの? |
レティシア | 怖い怖い怖いーーー!!(ごしごしごし) |
ミケ | 待ってくださいレティシアさん、お手伝いします!僕にも貸してください! |
リィナ | えええミケちゃんもー?! |
ミケ | ーリミのところで生命の危機を覚えながら取得した厚塗りヤマンバメイクを、今まさに実践するときが来ました!ポチ!あなたも協力してください! |
ポチ | にゃー!! |
とても激しくすごい勢いでもういいっていうくらいメイクをするミケの横で、ぺたぺたと足跡をつけていくポチ。 | |
ルナ | みなさんが…みなさんががんばっている…私のために… |
アリヤ | いやそれ違うと思うだらよ。 |
ルナ | …私……私もっ、いつまでも人陰に隠れてるだけじゃダメだもんね…!何か…何か、私にも出来ることを考えなくちゃ…! |
キャティ | る、ルナさんっ?!そんなに前に出たら危ないにゃ! |
ルナ | けっ…警報装置…さんっ!(びし) 貴方も…結局地底湖に居た壁の人と同じでしょう!! 自分自身から抜け出せない悲しい壁生で!! 侵入者を追い出すだけなんて!虚しくないんですか!! |
アッシュ | 言っていることは立派だが、相手が警報装置というのが難点だな。 |
ルナ | う、そ、そんなの言ってみなきゃわかりません!! 説得して引っ込んで貰いますっ!! ねぇ警報装置さん!!私だってそう、何もできなかった!! お互い、たまには自分の意思で動いてみましょうよ!! |
ゼクセア | …やっぱりいいセリフなんだけど、相手が壁じゃねぇ… |
ルナ | ちょっと、あの!!落書きされてないでなんとか言って下さいよっ! ねぇ、悔しかったらそこから出てきてパラパラでも踊ってみたらどうですかー!! |
「米さ米酒か 飲ま飲まイェイ♪ 飲ま飲まイェイ♪ 飲ま飲ま飲まイェイ♪」 | |
マジュール | うわわわわ、手が、手が動き出しました! |
ミケ | うわーっ、アイラインが派手に曲がりました! |
レティシア | は、早く消して消して!もうヤマンバはいいから、こっことムハ太郎風にしましょうよ! |
ミケ | なんですかその危険度120%のネーミングはー!! |
ルナ | あああああ、もしかしてわたし煽っちゃいました?! |
マジュール | ず、ずいぶんとこっちの言うことを素直に聞く警報装置ですね… |
白夜 | 図体のでかいのが暴れたから何かひらひら飛んでるぞ。 |
アリヤ | さっきの部屋にあった書類みたいだらね。 |
白夜 | 弱点とか攻撃方法とか書いていないのか。 |
アリヤ | そんな都合のいいものが書いてあるとは思えないだらが……おおっ!これによるとゴーレムは『肩の後ろの二本のゴボウの真ん中のスネ毛の下のロココ調の右』を刺せば動きが止まるだっち! |
白夜 | よし、『肩の後ろの二本のゴボウの真ん中のスネ毛の下のロココ調の右』だ! |
リィナ | ないよそんなの!元々頭と手だけだし! |
白夜 | ないだろうがボケェ! |
アリヤ | 痛っ!大声で復唱したくせに!! |
白夜 | ええい!何か役に立ちそうなものはないのか?!そこに散らばった本の中にでも…そら、そこに「私を開いてv」と言わんばかりに怪しげな光を放っている本だとか。 |
アリヤ | そのセリフはお前が言うととたんにエロいだらな… |
白夜 | やかましい!どれどれ……なんだ、トカゲ語で書かれているな。トカゲ、読め。 |
アリヤ | トカゲ語言うなっちー!!…古代竜言語文字だらね。どれどれ………ふむふむ……3分魔人召喚クッキングー? |
白夜 | どういう光景だ。 |
アリヤ | えーと生クリームをあわ立てる時にだらなー |
白夜 | ちょっと待て、生クリーム?そんなもの…そうか、この鞄で出せばいいのか…よっと。それで? |
アリヤ | 二本の泡だて器をこうやってぐりぐりと |
白夜 | ぐりぐりと…… |
ルナ | きゃーっ!な、何か出てきました?! |
白夜 | これが伝説のマシュマロ魔人か… |
リィナ | 何で生クリームでマシュマロ? |
白夜 | それで、何ができるんだ? |
アリヤ | えーなになに。食品のカロリーが一瞬にして測定へぶっ |
白夜 | 消せ。 |
ルナ | すごく悲しそうな顔で見つめてます… |
ゼクセア | 害はないんだし、置いといたら? |
アリヤ | じゃあ置き場所もないことだしとりあえず白夜の何でも入る四次元バッグによっこらせ。 |
白夜 | 入れるなー!!!いつ取り出せと言うんだ!! |
キャティ | おなかがすいた時に齧ればいいにゃ♪ |
ルナ | ほら、鞄の隙間からうきうきしながら見てますよー。 |
アリヤ | 恐っっ |
そんなことを言っている間に、どんどんカウントは減っていく。というか、100秒経っていないのが不思議なくらいだが。 「15秒前。14、13…」 | |
アッシュ | 仕方があるまい。時間を稼ぐとするか。 |
ミケ | それは、ミシェルさんの魔力中和装置? |
アッシュ | 左様。この機械も魔力で動いているのならば、それを中和すれば止めることが可能だ。ぽちっとな。 |
とたんにあたりが真っ暗になる。 | |
レティシア | きゃーっっ?!な、なになに?! |
マジュール | きゃ、キャティー?!キャティ、無事ですかー?!うわっ?! |
キャティ | ぅんもぉマジュールさんたらどこ触ってるにゃーv |
ミケ | あ、アッシュさん、さっきので学習してください!ここで魔力を消したところでどうにもなりません! |
アッシュ | ぬぅ、仕方がない。ではぽちっとな。 |
ゼクセア | あぁ、明るくなったわ… |
「10秒前」 | |
レティシア | きゃーっ?!あ、アッシュ、早く止めて止めて!! |
アッシュ | ぬぅ?!ぽちっとな! |
ルナ | きゃーっ、ま、また暗くなりましたー! |
リィナ | 白夜さんとアリヤさんだけが光ってるね… |
ミケ | で、ですからアッシュさん、つけてください! |
アッシュ | どっちだ?!ぽちっとな! |
「9」 | |
レティシア | アッシュー!! |
アッシュ | ぽちっとな! |
マジュール | アッシュさんー!! |
「8」 | |
レティシア | あ、アッシュー!! |
アッシュ | ぽち |
白夜 | …ひょっとしてこれを10回続けるのか?しんどいぞ。 |
アッシュ | ぽちっとな! |
「ななろくごよさんにいち!!」 | |
キャティ | 小学生かよ!! |
ごごごごご、と地響きが響き渡る。ビムビムビム、と警報が高らかにこだまし、例の無機質な声が大音響で鳴り響いた。 「侵入者を確認。侵入者を確認。警告を無視したため、直ちに抹殺にかかります。繰り返します。警告を無視した侵入者を、直ちに抹殺します」 | |
白夜 | …確かに無駄に時間は稼いだな。 |
警報音を鳴らしながら警告メッセージを発信し続けた警報装置、10度繰り返した後、一段と振動が強くなる。 「侵入者を抹殺します。モード・297-βへ移行。戦闘体制に入ります」 警告のあと、突如天井や壁や床から、無数の腕が突如生えてくる。 | |
レティシア | どうぇええああぁぁぁっ?! |
ルナ | な、な、ななななんですかー?! |
ミケ | て、手はあれ2本だけではなかったのですかー?! |
マジュール | こ、これが…警報装置の真の姿だというのですね…くっ!! |
剣を抜き、応戦するマジュール。 手は四方八方から冒険者たちに襲いかかり、冒険者たちは自らの武器で対抗する。 | |
アリヤ | こ、こう数が多いと…俺様も避けるので手一杯だっち…! |
白夜 | さすがは警報装置と…いったところかっ!こちらを抹殺するつもりでかかってくる…! |
リィナ | きゃあああぁっ?!な、何?!この手、おしり触ってきたよぉっ?! |
ルナ | わ、私の足なんて触っても何も楽しくないですよっ?! |
レティシア | きゃーっ!私のIカップはミケにしか触らせないんだからーっ!! |
ゼクセア | ちょっ……何なのよこの手…っ!あんまりおいたすると……やっちまうよ?! |
白夜 | ……………でもないようだな。 |
ミケ | ちょっとーっ?!僕は男なんですけど!! |
アリヤ | …ミケは女性と判断されたらしいだっち…… |
ミケ | ちょっ、だから、な、何するんですか!そっ、その動きはっ、い、嫌すぎるーーーーー!!!! |
レティシア | む、無数の触手にあちこちから触られるミケ…?!つ、捕まったらあんなことやこんなことを……っっ?!…苦しそうな顔、はだけるナース服……はっ、鼻血があぁぁぁっ!! |
ミケ | れ、レティシアさんっ?! |
アッシュ | こんなこともあろうかと、 |
ミケ | アッシュさんは普段どんなシュチエーションを想定してるんですかっ! |
レティシア | あ、私はねー |
アッシュ | それは妄想だろう。私のは |
ミケ | どちらも変わりませんっ!!というか今すごい勢いで聞きたくなくなりましたからいいです! |
レティシア | …ああっ、ミケ! |
ミケ | レティシアさん!何か打開策が?! |
レティシア | 手にネイルアートし忘れたわ! |
ミケ | 冷静ですね…… |
マジュール | くっ…!ここは…皆さん!私が盾になりますから、その間に攻撃を…っ! |
白夜 | いいことを言っているように聞こえるが、この気味悪いほどの量の触手の中で盾にどれほどの意味がある!却ってでかい図体が邪魔だ!そんなことをしている暇があったら、そこのエセナースのように女扱いされていないのだからさっさとその剣で腕の一本や二本叩き潰したらどうだ! |
マジュール | そ、そうですよね…(しょんぼり) |
キャティ | こらーっ!!マジュールさんがせっかく好意でやってるのにその言い方はなんだにゃ! |
マジュール | い、いいんだよキャティ。こうなったらこの剣で…っ! |
キャティ | だめーっっ!!ダメだにゃ、マジュールさんっ!! |
マジュール | え、え?!何がダメなんですか、キャティ。 |
キャティ | メイドはそんな、剣なんか振り回さないんだにゃー!!マジュールさんは今、牛メイドさんなんだよ?かよわいメイドさんがそんなおっきな剣を持ってずばーっとかばしーっとか戦うのは、萌えが命のメイド道に反するにゃ!! |
マジュール | なんですかそのメイド道って!!大体、私は仕方が無くこんな格好をしているだけで、メイドさんになりきるつもりは… |
キャティ | あーもう!!とにかくにゃ!マジュールさんはまずこれを読んで!!(どさ) |
マジュール | こっ………これは……っ!! |
『らぶりー♪メイドさん萌えオーラ養成マニュアル ~獣耳編~』 | |
マジュール | ……………… |
キャティ | これをあげるから、マジュールさんはこの通りに行動してくださいにゃ☆あとは、キャティの真似をすれば大丈夫。 |
マジュール | は、はぁ………。 |
キャティ | まずね、女の子は必ず『お嬢様』男の人は『ご主人様』って呼ぶにゃ!OK? |
マジュール | はぁ…わかりまし…いや、かしこまりましたお嬢様。 |
キャティ | メイドさん同士はお仕事仲間だから、お名前で呼んで良いにゃ。 |
マジュール | は、はぁ… |
キャティ | そうと決まれば早速研修にゃー!!メイド道は奥深くて長いのにゃー!!さ、そんな剣なんか捨ててモップを持つにゃー!! |
マジュール | ちょ、ちょっとキャティ?!今はそんなことをやっている場合では! |
アリヤ | ええい、このピンチに一体何をやってるだっち! |
白夜 | ええい貴様もだ!いつまでもトカゲのままバサバサやってるんじゃない、さっさと元に戻って戦え!! |
アリヤ | のわぁっ、何シッポ持ってるだら?!無理だって!あんな見るからにガッチンガッチンで堅そうなのにぶつけてもダメージ0で、むしろ俺の方に大ダメージが来るだっち!あぁっ!何だらそのポーズはっ!イチ●ーか?イチ●ーだらかっ!? |
白夜 | 大丈夫だ、打率平均4割を超えている! |
アリヤ | 俺はちっとも大丈夫じゃなぁーーーーいっ!!! |
白夜 | くらえ、一本足打法!! |
アリヤ | んなぁにも打ってないだっちあぁぁぁっ!! |
めこっ。 | |
ルナ | とっ、トカゲさんが天井にめり込んでしまいましたー! |
リィナ | うわぁ!!ショックで光ってるよ!光ってるよ!! |
レティシア | うわまぶしっ!!肌焼けちゃいそう……… |
ミケ | っていうか、警報装置が本当に肌焼いてますよ! |
ゼクセア | サンオイルまで塗ってるわ… |
アッシュ | 警報装置が肌を焼けるのか……ふむ、新たな研究課題だ。 |
キャティ | むしろ熱通したフライパンだにゃ! |
ルナ | ホットプレートに熱を通した匂いがします! |
リィナ | 誰か肉ー!!肉持ってきてー!! |
白夜 | この期に及んで隙が出来た敵に攻撃を一切しようとしないところはむしろ天晴れだな。 |
ごが。 | |
リィナ | あっ。落ちてきた。 |
ルナ | あ…いつの間にか人間のトカゲさんに戻ってます… |
アリヤ | ううっ…お前らよってたかって……とそんなことを言ってる場合じゃないだらな。元に戻ったからにはこの剣、振るわせていただきます!とうっ!! |
ゼクセア | へぇ、やるじゃない。 |
レティシア | すごい…あっという間に手が半分くらいに減ったわ! |
アリヤ | ふぅ……ひとまずはこんなものですか。 |
リィナ | 元に戻ったアリヤさんが戦うの見るの初めてだぁ…うわぁ、よく見ると美形だしちょっとかっこいいかも……ってっ!!リィナにはお兄ちゃんがいるんだからあんな妻子もちのトカゲに何考えてるのー!!(ごすごすごす) |
アリヤ | ちょっ、リィナさんっ!?俺もう元に戻ってるからショックはいらな…ハグゥッ!! |
キャティ | モロアリヤさんのレバーに入ってるにゃ!! |
アッシュ | うぅむ、侮り難し…ッ!!私も負けてはいられない、こんなこともあろうかと、予ねて準備のアレが役に立つときが来たようだな? |
レティシア | アレって?…ってうわぁっ、アッシュ、フケ!フケ出てるって!そんなに頭掻かないでよー!! |
ミケ | フケ…にしては、何かうぞうぞ動いてあちらに向かっているようですが… |
アッシュ | フケだと?バカを言うな。これこそは、ナノマシン・クロダ!超微小な自動機械人形!嘘だと思うなら手にとって見てみるがいい! |
白夜 | フケでないと解っても手に取りたくないな… |
アッシュ | 解説しよう!ナノマシン・クロダとは?!最先端の科学技術と米粒に字を書けるというナノクニ伝統工芸職人のコラボレーションにより世界で初めて実用化された、全長100万ナノメートルの自律型自動機械人形である! |
白夜 | …ひょっとして、ナノクニだからナノマシンなのか…? |
ミケ | あの、100万ナノメートルってつまり1ミリのことじゃ? |
アッシュ | 細かいことを気にするな。一般に訴求するにはナノの方が好都合なのだ。動力は秘密!ヒダの匠、延べ666名参加による製作日数延べ666日!制作費はタダ! |
ゼクセア | …タダ? |
アッシュ | うむ。もともとナノクニの某領主の依頼で製作していたのだが、拠所ない事情で納入以前に中止が決まってな。廃棄処分になりかかったところを開発費代わりに貰い受けたという大人の事情だ。それはそれとして、行けい!クロダ!あのデカブツの内部に侵入せよ! |
ルナ | うわぁ、フケさんたちが大挙して警報装置の顔の隙間から侵入していきます… |
リィナ | キモっ。 |
アッシュ | 装甲の継ぎ目から内部に侵入。10秒でコントロールに到達し、あわよくばこれを奪取。さもなくば破壊により機能を停止させる! |
マジュール | おおっ、警報装置の継ぎ目がほのかに光っていますよ!! |
アッシュ | む?あれは紛れもなく、原子の光、チェレンコフ光。すると、クロダめ、奪取には失敗、破壊を試みているようだな?心配は要らん。なに、あと3秒もすれば、機能停止する。 |
ミケ | ……原子の光って、動力はもしかして |
アッシュ | ノーコメントだ。 |
白夜 | 微妙な展開のところ申し訳ないが、機能は全く停止していないようだが。 |
アッシュ | バカな!こんな大時代的なロボットにナノマシンに対する防衛機構が準備されていたというのか?そんなことが出来るのは私以外に居る筈が無い! |
リィナ | ロボット?あれ、ゴーレムじゃない? |
アッシュ | …………………(ぽん) |
ミケ | …アッシュさん? |
アッシュ | あぁ、なるほど。魔力で動いとるから、コントロールを奪うも何も無いワケか。こりゃあ、一本取られたね |
ミケ | そんな落語みたいなオチで済むと思ってるんですかー!!! |
リィナ | うーんリィナも負けてられないっ!けど、この十二単じゃ戦えないからなー。 よぉしっ、ここはひとつ、やっちゃうぞー!出でよ、風影ー!! |
ジン | お呼びですか、マスター。 |
ミケ | あ、ジンさんだ。久しぶりですね。 |
ゼクセア | なんなの、あれ。急に出てきて。 |
ミケ | リィナさんの精霊ですよ。自由に召喚できるんです。……って、まあ、いつもはあんな格好じゃないんですけどね… |
ジン | マスター……どうでもいいですが何故ニンジャ装束…しかもこの頬の渦巻き模様は一体…? |
リィナ | ちっちっち。マスターじゃなくて『姫』って呼んで! |
ジン | 姫………? |
リィナ | そっ!リィナ今十二単着てるから、お姫さまなの!だから忍者ハッ○リくんなの! |
レティシア | ハッ○リくんに守る姫なんていたっけ? |
アリヤ | 知らんだら。 |
リィナ | 細かいことはいいのーっっ!!ほら風影っ、投げる手裏剣ストライクぅ!! |
ジン | はっ、はい、姫! |
ルナ | きゃあああぁぁぁっ!!しゅ、手裏剣がー!私のマントがー!! |
白夜 | 味方にストライクしてどうする!早く戻せ!! |
リィナ | ちぇーっ、ごめんねジ……風影っ、戻ってー! |
ジン | どうして僕がこんなことを…(しくしく) |
リィナ | んじゃ、気を取り直して…いでよ、赤影ー!! |
イフリート | くぉらーリィナ!なんなんだよこの仮面はよ!! |
マジュール | 今度は仮面の忍者ですか…… |
リィナ | あっは、イフちゃ、じゃなくって赤影、よく似合ってるじゃん♪ |
イフリート | ざけんな!何で俺様がこんなことに付き合ってやんなくちゃなんねーんだよ! |
リィナ | いいじゃんけちー!ほらっ、蝦蟇火遁の術じゃ、赤影! |
イフリート | ちっ…いくぜええぇぇぇっ!! |
キャティ | んにゃああぁぁぁぁっ!!熱い熱い熱い熱い!! |
アリヤ | んぎゃああぁぁぁぁっ、や、焼きトカゲになるうぅぅぅ!! |
ミケ | だから、炎の魔法は使うなって言ったじゃないですかあぁぁぁぁっ!! |
リィナ | あーっ、ごめんごめん!赤影、戻ってー! |
イフリート | ったくっ、火がお呼びじゃねえんなら呼ぶなよな!! |
ミケ | ふぅ…やっと消えた……(火が) |
レティシア | これだけやってもまだ手は残ってるし…っよしっ!私も何かやろう!アッシュ! |
アッシュ | ぬ、何だ。 |
レティシア | ねぇ、さっきのコピーロボット貸して! |
アッシュ | ぬぅ、これか?何に… |
レティシア | いいから早く貸してよぉう。 |
アッシュ | む。構わんが… |
レティシア | ミケ、これの鼻押して! |
ミケ | えっ、ええっ?!こ、こうですか……?(ぷち) |
レティシア | きゃあああんっ、ミケのコピーができたわvミケ2号ねv それと白夜!何でもできる袋貸してー! |
白夜 | な、何でも出来る袋? |
レティシア | おおっとつい本音が。いいから、ミシェルに貰ったバッグ貸して!私にしかできないから! |
白夜 | あ、ああ、好きに使うといい。 |
レティシア | やーったぁサンキュvんー…っ……イメージイメージ…あの顔と細腰と髪の毛の先から爪の先まで、正確にイメージしなくちゃ…! っでやあぁぁっ! |
ミケ | んなぁぁっ?!ぼ、僕の今の姿と全く同じマネキンが?! |
レティシア | じゃじゃん!!セクシーナースミケ等身大フィギュア!!これはミケ3号ね。 |
ミケ | ああああああああ |
レティシア | いやーーーん!!!ミケだらけーーー!!!!これはもうハーレム状態?! しあわせ煩悩ラブパワーがぎゅんぎゅん来てますっ!!さぁて、撃っちゃうよ撃っちゃうよ~♪ 恋の炎が翼となるぜ!! ラブラブファイアーーー♪ |
ミケ | だから火の魔法はダメですってばレティシアさーーーーんっ!! |
萌えパワーで通常の倍の威力になったレティシアの炎魔法が燃え広がる。 | |
ミケ | ううう… |
レティシア | どうしたのミケ、とどめを刺すわよ、さあ! |
ミケ | へっ? |
アッシュ | 医の真髄を極めし我ら。世の患いを直ちに治さん!力と技のナナースエンジェル featuring with LBJ、只今推参! |
リィナ | LBJって何? |
キャティ | ラージ・バスト・ジャニーズ? |
リィナ | 何それ! |
レティシア | ナースエンジェル・力の一号!愛と爆乳は世界を救うっ!Iカップ・ボンバーっっ!! |
ミケ | な、ナースエンジェル・技の2号……舞い上がれ、純白の天使……ホワイトガーター・フラッシュ……! |
アッシュ | そして総帥・レディ・ブラックジャック!この私の前に…開かれぬ腹などないッッ!メスクラッシャーっっ!! |
ルナ | ああ………っ?!女医さんの放ったメスに……! |
アリヤ | ナースたちのまぶしい光が力を与えてるだら……! |
メスは警報装置に直撃、爆発。 | |
レティシア | やったぁ!効いたわよミケ!! |
ミケ | はははははそうですねもうなんでもいいです… |
キャティ | マジュールさん、キャティたちも負けてられないにゃ! |
マジュール | え、ええ、キャティの本で即席で勉強した成果を見せてやります! |
キャティ | ご主人様を困らせ、お嬢様を泣かせる悪いやつは! |
マジュール | う…麗しのモーメイド、キャティとマジュ…マジューラが!! |
2人 | 徹底的にお掃除しちゃいますv(きゅぴーん☆) |
キャティ | ふっ……決まったにゃ…… |
マジュール | どこがですか……… |
キャティ | さぁっ、早速モーメイドの攻撃だにゃ!まずはっ!「あつあつ☆ホットミルク」攻撃だにゃ! |
マジュール | はいっ!私は鼻を塞ぎますから、キャティは開いた口から熱いミルクを注ぎ込んでください! |
白夜 | それは石造りの壁に有効な攻撃なのか…? |
ミケ | そもそも、あの顔、息しますかね。 |
マジュール | いきますよキャティ!それっ! |
キャティ | やったにゃマジュールさん!今のうちに開いた口から……っくわあぁぁぁぁっ!!く、口が臭すぎるにゃー!!! |
レティシア | く、口…開くんだ… |
リィナ | しかも臭いんだ…… |
キャティ | くっ………このくらいでモーメイドたちはくじけないのにゃ!マジュールさん、次の作戦だにゃ!このモップを使うにゃ! |
マジュール | こっ…これは、ずいぶん古いモップですね……っく…臭っ… |
キャティ | 牛乳を拭いたモップで、あのくさーい口の顔をごしごしこすってやるのにゃ!! |
マジュール | そっ…それはさぞかし香ばしい香りに……っていうかキャティ、それってあれに近づいて攻撃する味方にもダメージ来ませんか?口臭と抱き合わせで倍率さらにドン。 |
キャティ | やっぱりそうかにゃ? |
アリヤ | いいからお前らそのモップでさっさと攻撃するだっちー!! |
ぎゃあぎゃあどたばたと、警報装置とその触手たちと乱戦を繰り広げる冒険者たち。 それをオロオロと見守るルナ。 | |
ルナ | …あぁ、結局私、何もできないんだ…。どうすればいいんでしょう、やっぱり端っこにうずくまってようかなぁ………よいしょ。…はぁ…。あれ、何か落ちてる… はっ……!こ、これは…やっぱり隠してあったんですね、裏ビデオ…! な、なになに…えっと、スクール水着、ナース………ミシェルさん、あのコスプレ衣装の量はハンパじゃないと思いましたけど、やっぱり…い、いえいえいえ………っと、女教師に、人妻……… |
はぁ、とうずくまったまま大きくため息をつくルナ。 | |
ルナ | はぁ…人妻、かぁ。綺麗な方だったなぁ、花さん………やだ、落ち込みそう…… |
レティシア | る、ルナ!あぶなーーーいっっ! |
ルナ | …ふえっ?! |
振り向くと、切り飛ばされた触手の一部がまっすぐにルナに向かって飛んでいた。 とっさに目を閉じるルナ。 | |
ルナ | きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! |
ルナ | …あれ………痛くない…そうか、私、楽に死ねたんだわ……待っててねパトラッシュ、今貴方を見つけにいきますから…それで、アルプスで一緒に空中ブランコさながらなブランコをこぎましょう。それから、ヤギのミルクでつくったバターをかじって気絶して王子様のくちづけで目覚めた後は、義姉と継母にいびられた挙句魔法使いさんの力を借りて大根の馬車に乗り川をどんぶらこーと流れていっておばあさんに拾われて鬼退治に行く途中きび団子をエサに猿とカッパと豚をお供にして天竺まで行くんです……!! |
レティシア | ………ぁぁっ!………夜、せ……血が!……丈夫… |
白夜 | ………ない………れよりも、ルナ嬢が… |
ミケ | ……ナさん、へ………さん、ルナさんっ?! |
ルナ | ………あれ……あ、も、もしかして、私…生きてる……!?体のどこをさわっても痛くない……無、傷…? |
ルナ、おそるおそる目を開ける。ルナを庇うようにしてうずくまる白夜。 | |
ルナ | …っっ!!!!びゃ、びゃびゃびゃ白夜さんっ?! |
白夜 | くっ………大丈夫か、ルナ嬢… |
ルナ | ど、どうして……あの私、嫌われてたんじゃ…? |
白夜 | ?…嫌っているのはルナ嬢の方だろう? |
ルナ | そそそそんなっ!違います!!私が白夜さんのこと嫌いだなんて、そんな…!! |
白夜 | では何故トカゲに代弁させる?私とは直接話したくないのだろう? |
ルナ | そっ、それはえっと……あ、あの、ちょ、ちょっと緊張して、上手くお話できなくって、それで…っ |
白夜 | …そうなのか。私も早とちりをしてしまったようだな。すまない。 |
ルナ | ……なんだ…お互い誤解してただけだったんだ……よかった……… っそれよりっ!く、苦戦してるみたいですね… |
白夜 | そうだな。さすがはミシェルさんが作った警報装置といったところだろう。 |
ルナ | というより、あれは、その、戦い方を間違えている気もしますけど…あっ、ネタですもんね、ギャグシナリオですもんね。 |
白夜 | ぶっちゃけすぎだルナ嬢。 |
ルナ | あ、あの!その、何でも取り出せる袋って、持ってらっしゃいましたよね…? 確か意識を読み取ってそれを具現化させる…って。 |
白夜 | ああ、今日は大活躍だな。主に間違った方向に。 |
ルナ | えっと、あの、それで、地底湖にいたイカさんを取り出せば、あの大きな警報装置さんとも互角に張り合える…と、思うんです…!! |
白夜 | 成る程、建設的な案だな。 |
ルナ | えっと、その、それで…私一人では引っ張り出せない上に、その、記憶が、曖昧で…… |
白夜 | そうだな、確かに。では、私も手伝おう。二人ならば記憶も確かなものになるだろう。 |
ルナ | ほ、本当ですかっ!!ありがとうございますっ!えっと、これに、手を入れれば…いいんですよね? |
白夜 | イカ…イカか。どんな物だったかな…正直掴まれて振り回されていたから岩壁ぐらいしか記憶にないんだが。確か色は白だったようなピンクだったような、花柄…?チェック?いや鳳凰が舞っていたようなそんな派手な模様だったはずだが。私的にはチャイナドレスは鳳凰より昇竜の方が好きなのだが。鳳凰はやはり学ランの裏地だろう。 |
ルナ | イカさん…イカさん…えっと、何かハデな模様で…何柄でしたっけ、お花?薔薇?ベルサイユ?それでそれで、タコタコって言われるんだけどぉ、実は足20本あるんだよねーとか言って ガングロで目の周りだけ白くて…ヤマンバ!?…えぇっと、それから、ルーズソックスで口癖が”ちょべりばー”ってえ、アレ、時代遅れ!? |
白夜 | …いや、イカだったな。あの時はルナ嬢がギャル口調になっていたな。ギャルというものは良くは知らないが、何だか最近はカエルだったりウシだったりの着ぐるみを着て徘徊しているようだな。もしかして後ろに見えているのに見えていない黒子が立っているんじゃなかろうか。知らない間に操られて可哀想な事だ。 |
ルナ | …それより白夜さんと仲直り出来て良かった…白夜さんってやっぱり素敵ですよね、光ってるところも…なんだかモナの光り方って優しい気がします…モナといえば…モナーって何なんでしょう。アリヤさんとキャティさんがモナーって。まさか物凄い怪獣とか!?目がグォワッって光って火吹いてもうギャーーーーー!みたいな。ギャーーーーー!!!みたいな怪獣でしょうか… |
白夜 | いや、それよりイカだイカ。イカと言いつつあれは見るからにタコだったな。ナノクニで食べたタコ刺しは美味しかったが、あれも食べたら美味いのか。…後でトカゲに食べさせてみよう。奴ならそう簡単に死ぬ事もあるまい、せいぜい青くなったり赤くなったり頭にキノコが生えたり面白くなるだけだろう。そういえばさっきトカゲが見つけた書類は何だったのだろうな。ゴーレムの初期段階だったのだろうか。肩の後ろにゴボウが生えていてスネ毛があってロココ調がくっついているのか…ミシェルさんのセンスはわからない… |
ルナ | って、は、いけない。イカさんの事考えなきゃ…イカ…イカ…カ…カラス…スズメ…メジロ…ロッキー…キツネ…ネコ…コイヌ…ヌリカベ… |
白夜 | よし…取り出すぞ。………それっ! |
ルナ | …えいやーーーーーーーーー!!って、何ですかこのとんでもないのーーー!さっきのイカさんと全然違いますー!! |
レティシア | な、な、ななな何を召喚してるのルナ!こ、こんなド派手な模様のイカ…い、イカ?タコ? |
リィナ | 桜に…コスモス、牡丹、バラ……あんたなんかブタよ!!なお花畑柄…の上に、鳳凰と昇龍とベルサイユ宮殿が刺青してあるねぇ…凝ってるねー |
マジュール | というかこれ、足が20本くらいありますよ?もはやイカですらないですね… |
アリヤ | 先端にカエルと牛の着ぐるみがくっついてるだら! |
アッシュ | ふむ、アレを囮に餌を捕まえるのだな。 |
キャティ | 捕まんねえよ! |
ゼクセア | …何か後ろに薄く幽霊っぽいものも見えるけど…あれ、黒子? |
レティシア | ほ、ホントだ…なになに。パペ田マペ男26歳独身…? |
ミケ | 頭にはキノコ、肩からはゴボウ…スネ毛とロココ調がくっついています… |
実際にお見せできないのが残念です。 | |
ルナ | ちょ、ちょっと予定外のものが出てきちゃいましたけどっ…い、イカさんっ!早速あの警報装置さんをってちょっとえぇぇぇ?!あ、暴れだしましたっ!!ち、ちがいます、あなたの相手はあの警報装置さんなんですってちょっと聞いてますかぁぁっ?!何でこっちを襲うんですかーー!!生んだことを恨んでるんですかーー!!!そんな、どんなに醜くても貴方は私と白夜さんの子!!ってイヤーーーー!! |
白夜 | のわあっ?!な、何をする?!私はそのカエルにも牛にも興味はないぞ?! |
リィナ | あぁっ、白夜さんとルナちゃんがー!! |
レティシア | の、飲み込まれちゃうーっっ!! |
ルナ | きゃあああぁぁぁぁっ!! |
つるんぱくんごくん。 | |
ミケ | る、ルナさん、白夜さーーーーーんっっ!!! |
ルナ | え、あ、あれ……?ここは………お花畑?………えええぇぇぇぇっ!? え、私!え、え、の、飲み込まれたんじゃ、私!?え、ど、どうして!…え、も、もしかして噛み砕かれて死んじゃったんですか…!?もう少し行くとパトラッシュが居て川遊びしてるんですか…!?上を向けば雲ひとつない青空が……!! |
妙に生々しい音。蠢くピンク色の肉壁。 | |
ルナ | ううっ…間違いなく胃袋の中ですね…… |
白夜 | …っつ………だ、大丈夫か…ルナ嬢… |
ルナ | …あ、びゃ、白夜さん!!あの、だ、大丈夫ですか…? あの、どうしましょう…ここ、イカさんのお腹の中みたいなんですけど… |
白夜 | どうやらそのようだな…気味が悪いことこの上ない。さて、どうしたものか…… |
ルナ | って、きゃああぁっ!!……ええぇぇ?!なんですか今の?!あ、足?!触手?!何でお腹の中にまでこんなものは生えてるんですかー!! |
白夜 | 私達が作り出したはずなのに、生態系は計り知れないな… |
ルナ | あっ、ああああぁぁっ!白夜さん、あぶなああぁぁぁぁいいぃぃっ!! |
白夜 | る、ルナ嬢?!………っ!! |
イカの外。 | |
リィナ | は、早くっ!早くルナちゃんと白夜さんを助けないとっ! |
ゼクセア | 私が足を押さえてる間に、早く!腹を切って! |
レティシア | 切ってって言ったって…だ、誰か剣使える人は?! |
マジュール | キャティ、すみませんっ!!今ばかりはモップを捨てさせていただきますっ!でやああぁぁぁぁっ!! |
キャティ | んにゃああぁぁっ?! |
マジュールがイカの腹を切り裂いた瞬間、切り口からまばゆい光がほとばしる。 光がおさまり、目を開けると、イカの抜け殻の上にボンデージファッションの少女が鞭を構えて立っている。 | |
ルーン | 援助じゃないの☆それって本気!?☆浮気寸前!!ホワイト☆ルーン参上!! 貴方にはしつけが必要ね!! |
アリヤ | 説明するだら!超戦士ホワイト☆ルーンとは白夜とルナのテンションが急上昇し、ある一線を越えた事によって合体変身する、主に八つ当たりと意趣返しを目的とした己の正義の戦士だら! |
リィナ | ある一線ってなに?! |
ミケ | 八つ当たりが主ってことは白夜さん80%くらいの割合なんじゃ…? |
ルーン | さ、さあっお仕置きの時間ですよ子猫ひゃんっ! |
アリヤ | 言い慣れてないだらね… |
レティシア | る、ルナが大人になっちゃった?!白夜は?! |
ルーン | 白夜さんは…私と一つになりました(ぽっ) |
リィナ | えええっ!!いいのそれ!台詞がすでにまずいよ!? |
ルーン | いいんですっ!私の華麗な鞭捌き、そこで見ていてくださいっ! |
キャティ | ルナさん、鞭使えたかにゃ? |
ルーン | 私の中の白夜さんの力をお借りしていますっ! |
ゼクセア | ああ、納得。 |
ルーン | さぁ、新しい私の力をご覧に入れますっ!!食らいなさい、「誘惑☆ルーンウインク」!! |
しーん。 | |
アリヤ | 説明するだら!「誘惑☆ルーンウインク」とは!要するにただのウインクだら! |
ルーン | …………………… こ、こほん。まだまだいきますよ!! 跪きなさい!!「ルーンムーンシャイン」!! |
アリヤ | 説明するだら!「ルーンムーンシャイン」(ゴロ悪っ!)とは!月の満ち欠けによってパワーが変動する不思議な光なのだら!! |
しーん。 | |
ルーン | ………ふ、ふふっ、今夜は新月のようですね………。 |
レティシア | ていうか、今昼間なんじゃない? |
ルーン | …………お、おおぉぉほほほほほ!!う、運が良かったですね…っ! |
ゼクセア | 高笑いも痛々しいわね… |
ルーン | ………こうなったら…トカゲさん!いらっしゃいっっ!! |
アリヤ | な、んなっ?!いらっしゃいって言いながらもうすでにむんずと身体を捕まえて、んなあぁぁっ、鞭をぐるぐる身体に巻きつけて何をするつもりだらー?! |
ルーン | 食らいなさいっ!! 黄龍回転撃(ゴールデン・ハンマー)・改!!~お代官様お戯れをVer.~ |
アリヤ | そこでそんなに引っぱったらくるくる回りつつ突撃いぎゃああああああっ!! |
ルーン | えぇい、よいではないかぁぁぁっ!!!! |
ミケ | わけわかりませんね… |
マジュール | でも、割と効いてるみたいですよ?触手三本ほど吹っ飛びましたし。 |
ルーン | そんな所でのびている場合ではありませんっ!!早く戻ってらっしゃいなトカゲさん!! |
アリヤ | も、もうどうとでもしてくれだっち……ってまた鞭巻きつけて回すんだら?! |
ルーン | とぅっ!! お空から失礼いたしますっ、黄龍回転撃(ゴールデン・ハンマー)・改!!~願い事叶えて!流れ星Ver.~ |
アリヤ | んぎゃああぁぁぁぁぁああっ!! |
ミケ | おー。景気よく吹っ飛びましたね。 |
マジュール | 今のはかなり効いたんじゃないですか?動きが鈍くなってきましたよ。 |
ルーン | 素敵…☆白夜さんの力と私の力がひとつになって、こんなに強力な技が使えるなんて! きっと、他の皆さんの力も吸収すれば、もっと強力になりますよね!! |
リィナ | え、えぇぇぇっ?!吸収っ?! |
ルーン | はい!このマントで皆さんを包めばあら不思議! |
レティシア | り、リィナが消えた?! |
ルーン | 大丈夫ですっ!皆さんのパワーは私の力になって有効に活用されますから!! それっ、行きますよ! |
レティシア | きゃあっ?! |
ミケ | うわっ?! |
アリヤ | この上まだなんかされるだら?! |
アッシュ | ぬぅっ?! |
マジュール | うわぁっ?! |
キャティ | んにゃあっ?! |
ゼクセア | きゃっ?! |
ルーン | エネルギー充填完了!!さあっ!行きますよ!! |
ホワイト☆ルーンの身体がまばゆく光り、びしっと指を突きつける。 | |
ルーン | これでトドメですっ! 右手の小指にリィナさんのおだんごパワーを! 右腕の上腕二頭筋にゼクセアさんの姐御パワーを! 頭のつむじにアッシュさんのマッドパワーを! 左手の薬指にミケさんとレティシアさんのトキメキパワーを! 左足の前脛骨筋にアリヤさんのトカゲパワーを! 両足の小指にマジュールさんとキャティさんの萌えパワーを! 私の心のそっと奥に白夜さんの美尻パワーを! そしてその他全部に私のラヴパワーを!! くらいなさいっ!皆の怒りー!! |
『98%ぐらい自分じゃん!!』(融合された仲間のツッコミ) | |
ルーン | 斬首の刑ですっ!! |
どこからともなく、「☆WELCOME☆」の文字がチカチカと光るギロチンが召喚される。 | |
ルーン | あたりが出たら、もう一回☆ |
一回で人生終わりますから。 | |
ルーン | Get Down!!やっちゃいなさいっっ!! |
ルーンが右手の親指を下げて下ろすと同時に、ギロチンがものすごい勢いで落下、綺麗に壁から警報装置の首と両の手を切り離す。 がらがらがら、という盛大な音と共に、バラバラになり崩れ落ちていく警報装置。 そして、その音もおさまり静かになった頃に、時間切れになったのか、ルーンの身体がまばゆく光って吸収された冒険者たちが分離していく。 | |
ルナ | やりましたよ!警報装置さん、倒しました! ああっ、これも友情の勝利ですね!! |
ミケ | ゆうじょう? |
崩れ去った警報装置の後ろにはさらに通路が続いており、その奥がプライヴェートルームだと判断した冒険者たちは、そのまま奥へ進むことになった。 | |
レティシア | ミシェルのプライヴェートルームかぁ…どんなだろうね? |
白夜 | そうだな、ふわりとした笑顔から想像するに、ピンクとレースとフリルの世界なのだろうな。 |
レティシア | そうよね、そんな感じよね。いいなぁ… |
白夜 | ベッドには可愛らしいぬいぐるみがあって、ところどころに血痕が。 |
レティシア | 血痕っ?! |
白夜 | 北北東の鬼門には柱に一面釘で打ち付けられた藁人形。机の上には亡き旦那様と交信するための機器が。そして壁一面に揃えられた古今東西の化粧品サンプル。床に散らばる企画書と目に鮮やかな没のハンコ。打倒ミレニアムと書かれた掛け軸にはダーツをした後が無数につき。その横には目指せ100店舗の額縁が。 |
レティシア | あああああフリルが壊れていく… |
ミケ | 僕はそれより、ミシェルさんが持ってきて欲しいという本のほうが気になりますね。 |
ゼクセア | そうねぇ、私には全く見当がつかないけど… |
マジュール | ええと、きっと「題名のない本」というタイトルの本だったりするんですよね… |
アッシュ | そこでしか手に入れられず、冒険者に金を払ってまで回収したいとなれば、当然、本人にとっては価値のあるものに相違ない。 プライベートルームに遺していた以上、それはつまり私的な事柄を書き綴ってあると考えるのが妥当。 すなわち。 |
白夜 | …すなわち? |
アッシュ | ネタ帳!! |
リィナ | ネタ帳?! |
アッシュ | いつの日か「鴇亭舞蹴」(ときてい・まいける)名義で出版しようとしていた、日々の生活に潤いを増すボケの数々を書き留めたネタ帳に相違なかろう! |
アリヤ | きっとミシェルさんが昔昔に書いた痛い詩集とか、当時イケてると思ってた自分のコスプレ写真なんだら…アワワ、だとしたら1Pでも見たら殺される…! |
ミケ | ……うーん……まぁ、タイトルがなかったら、プライヴェートなものですよね。……リーさんと旦那さんの魔道念写が入ったアルバムとか。 ミシェルさんコスプレ集 「あなたの、お気に召すまま」とか。ミシェルさんの日記とか、旦那様とのやりとりをまとめた「ミシェルとダーリンの愛のメモリアル」とか家計簿とか。 |
レティシア | ラブラブ妄想未来日記とかどうかな? 『ルヒテスの月 20日 今日は愛しのあの方とデートだったの、きゃはっ☆ 春だから、お花の咲く公園を二人でお散歩したの。 「お花がキレイね」って言ったら「キミの方が何倍もキレイだ」ですってーーーーo(>< )o o( ><)oジタバタ 照れくさくて顔が真っ赤になった私に彼の顔が近づいて・・・・』 とかさぁ。 |
ミケ | そ、それは微妙にダメージが来ますね… |
ルナ | えぇっと、私には想像もつきませんけど…やっぱり、すごい本なんじゃないでしょうか。 走ると止まらなくなる靴とか爆弾岩な腕をつくるスプレーとか水がとまらなくなる水筒とか…そういったものが作れる人が読むすごい本なんじゃ…。 あ、そ、それとも!絶版になったミステリー小説とか! あとは、恋愛小説とか手品の仕方とか落語のやり方とか時うどんとかじゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょの(以下略)とか寧ろ真っ白で「これは貴方自身が作る物語です」とか真っ白で「天才にしか読めない本です」とか真っ白で「貴方の頭の中を読み取ってあらわす本です」とか真っ白で「絵本:雪の日の地面」とか…というか本じゃなくて実は本の形をしたランチョンマットとか蝶々でひらひら空飛んじゃったりとか…!!! |
リィナ | ルナちゃん落ち着いてー!! |
ルナ | あ、う、そうでした。ミシェルさんの本ですよね。どんな本なんでしょう…。 |
リィナ | うーん…タイトルのない本で書庫にはないっていうと…アルバムとか日記かなぁ… |
白夜 | デス予定ノートに一票だな。あとは……そうだな、旦那様と娘さんの幸せ家族アルバムとか。裏ワザ魔神召喚レシピとか。貯金通帳。冬に持っていく既刊の在庫とか。 |
ミケ | 冬にどこにもって行くかはあえてつっこまないでおきます。 |
白夜 | 買うより探せ「なくした物を見つける方法」 宗教スレスレ「ソウル・メイトを見つける方法」 買ったら負け組認定「人生の勝ち組になる方法」 その根性が浅ましい「10分でわかる年収金貨3000枚を稼ぐ方法」… |
マジュール | 白夜さん白夜さん。タイトルないって言ってるじゃないですか。 |
アリヤ | でもまあ、そういう低俗な本に見せかけて、実は禁呪や強力な召喚魔法の所だったりするのかもしれないだらな。特定の魔法をかけると中身がすっかり変わるとか。 |
ルナ | じゃ、じゃあやっぱりまっ白で天才にしか読めない本…!! |
リィナ | いやそれとも多分違うから。 |
ルナ | あ、は、はい…すいません…あ、こ、ここですか?…なんだか大きくて重たそうな扉ですね…よいしょっ。 あ、開い…ああっ!扉を開けたら扉が! |
ミケ | よ、用心深い…んでしょうか…? |
ルナ | 今度は開き戸タイプですか…あ、ああっ!また扉が!! |
マジュール | マトリョーシュカのようですね… |
ルナ | あ、あ……あか、な、い、です……!! はー、はー、はー、か、鍵穴もないのに…いいかげん疲れま…あ、あきゃああぁっ! |
リィナ | ルナちゃん?! |
がらがらがら。 | |
ルナ | …………引き戸………… こんな紛らわしい引き戸作っていいんですかーっ!? |
白夜 | しかし、これで中に入れそうだな。入ってみよう。 |
一同、ぞろぞろと中に入る。 | |
ミケ | 意外………に、シンプルな部屋ですね…… |
アッシュ | そうだな。生活臭のするものは簡素な寝具だけ…か。本棚や専門的な器具がないところからすると、研究のための部屋でもなさそうだ。 |
レティシア | 石をそのまま切り出しただけの壁…かざりっけのない机と椅子…ベッドもただの木と布……研究どころか、ここで人が暮らしてたってこと自体、信じられないわ。私だったらこんな殺風景な部屋、一日だって住んでられない… |
白夜 | …問題の本、というのは、これのことだろうか。 |
レティシアの言う『かざりっけのない机』に無造作に置かれた、古めかしい本。 | |
マジュール | 確かに…表紙には何も書かれていませんね。 |
キャティ | じゃあ、きっとそれがミシェルさんの言ってた本なんだにゃ! |
ゼクセア | そうね、他にそれらしきものは見当たらないし。ミシェルに持っていってあげましょうよ。 |
リィナ | そうだね、早く持っていってあげようよ! |
アッシュ | ふむ。どんなにしょーもない内容でも本人にとっては大事だということは理解できる。渡してやることに異存は無いが、念のため控えは取らせてもらおうか。 |
ルナ | え、えええぇぇぇぇっ?!み、見るんですか? |
アッシュ | 当然だろう。なぁに、コピーなどという便利なものはまだ発明しておらんが、案ずるな。インクを使って書かれたものなら、いくらでもやりようはある。うむ。 |
ルナ | そ、そんな、中なんてどうだっていいじゃないですか、早くもってかえってミシェルさんに渡しましょう。ほら、いわくつきだと怖……あ、いえ、何でもないです……!! |
アリヤ | そ、その通りだら!もし昔の恥ずかしい記録だったりしたら……み、見た瞬間にこの世から消されるだら!くわばらくわばら…… |
ミケ | そんなものを他人に取ってこさせるとは思えませんが…… |
アリヤ | とにかく!俺様は見ないだっちよ!忠告もしただら!どうなっても知らんにらよ! |
白夜 | ………まあ、見るか。(ぱか) |
リィナ | 躊躇ゼロ!! |
白夜、ミケ、アッシュ、手に取った本を開いて見る。 恐ろしげにそれを見守る面々の視線の中、ぺらぺらとページをめくる。 | |
ミケ | …………これは……… |
アッシュ | …どうやら後学になりそうな内容ではないようだな。複写はするだけ資源の無駄だ。 |
白夜 | …そのようだな。内容如何では渡すかどうかも考えようと思っていたが…これは渡さねばならないだろうな。 |
白夜、パタンと本を閉じる。 | |
レティシア | え、なに、なに?何が書いてあったの? |
ミケ | あ、うーん。ちょっと、僕の口からは。 |
ゼクセア | ま、人のプライヴェート詮索するのもあれだしね、目的のものが手に入ったならさっさとお暇しましょうよ。 |
キャティ | んじゃっ、キャティが貰った一瞬でダンジョン脱出アイテムを出すにゃ!ちょっと待っててにゃー♪(ごそごそごそ) |
アッシュ | さて、では目的の本も回収できたことだし、ダンジョンアタッカーとして当然の権利である盗掘を実施させてもらうことにしようか。このプライベートルームは比較的無傷に近いからな。全国推定百万人のミシェルファン(誤差プライマスナス999,999人)ならどんなものでも高く買い取るに違いない。適当に奴の個人的なアイテムを回収することにしよう。 |
レティシア | あっ、ねえねえ、さっきの部屋にみんなで戻ってファッションショーしようよ!これだけじゃなくて、まだまだいーっぱい衣装があったのよ!みんなに着せたい服もいっぱいあるし! |
ミケ | っていうかあそこに僕服置きっ放しじゃないですか!こ、この格好のままで帰るのは全身全霊で嫌ですよ?!は、早く戻りましょう!早く!! |
レティシア | えー、可愛いのに…… |
ミケ | いいんですっ!ほら、早く戻って、着替えますよ!さあさあ!! |
キャティ | あーったにゃー!!(ぱっぱらぱーん♪) |
ゼクセア | えっ? |
キャティ | ミシェルさんに貰った緊急脱出アイテム、その名も「タイホーくん」にゃ!スイッチオンっ!! |
ミケ | えええええ今オンするんですか?!ちょ、ちょっと待ってくだ |
ごごごごごご。 キャティが起動して床に置いた「タイホーくん」の周りに、一瞬にして光が走り複雑な模様を描き出す。 | |
ミケ | ままままマジですかー?!だからちょっ、待ってくださいって言ってうわあぁぁぁっ!! |
ルナ | きゃあああぁっ?!な、何ですか?!大きな大砲?! |
マジュール | ちょっ、ま、まさかこれで打ち上げて脱出とか言うんですか?! |
そのまさかです。 | |
リィナ | マジでえぇぇぇぇっ?! |
アリヤ | もうここまで来たら何でもこいだら…… |
冒険者たちの身体がふわりと浮き上がり、大砲に収納される。 何の前触れもなく導火線に着火、じりじりと線を辿っていってやがて大砲に到達。 | |
キャティ | 景気よくー、ゴー! |
ミケ | 景気がいいもんかあぁぁぁぁっっ!! |
どげん。 勢いよく発射される大砲。 そして彼らは…お星様になったのさ…(きらーん) それからしばらくして。 ゼゾ発、ヴィーダ行きの船の中。 | |
レティシア | あ、ルナ。こんなところにいたの? |
ルナ | あっ、れ、レティシアさん…… |
レティシア | お昼にいないから。心配しちゃったわ。 |
ルナ | あ、す、すみません… |
レティシア | あ、うん、いいのいいの。私が勝手に心配しただけだから。もう、すごかったもんねえ。あの大砲で結局みんなバラバラになっちゃって、ここでこうしてヴィーダ行きの船に乗れたのが奇跡だわ。 |
ルナ | そうですよね……私今度こそ本当にパトラッシュがお迎えにきたと思いました………あの、他の方々は? |
レティシア | ミケとマジュールはよっぽど外に出たくないらしくて、船室に閉じこもってるわ。もう、可愛いのにねえ? |
ルナ | …白夜さんの袋で元の服を取り出してもらえばいいんじゃ…? |
レティシア | そうね、そうすればいいのにねえ。 |
ルナ | …教えてあげないんですか? |
レティシア | だってそうしたらミケがナース服脱いじゃうじゃない。 |
ルナ | 真顔で… |
レティシア | ね、ルナ、元気ないね?ひょっとして、誰かに片思い…してたりしてる? |
ルナ | えっ!…ど、どうしてわかるんですか?! |
レティシア | ふふっ、実は私もなの。お互い実らない思いを抱いてるのってツライよねー。 |
ルナ | そうですか、レティシアさんもですか……あの、私… |
レティシア | でも負けちゃダメよっ!!恋する乙女は諦めちゃいけないの、押して押して押しまくるのよっ!! |
ルナ | レティシアさん……そっ、そうですよね!!諦めたらそこで終わりですよね!押して押して押しまくって、寄りきりルナの海ルナの海になるんです!! |
レティシア | その意気その意気!!相手は誰だか知らないけど、伝えられなくなってから後悔する前に、思いを伝えちゃったほうが良いわ。ね? |
ルナ | は、はいっ!!ありがとうございます、レティシアさん!早速行ってきます!! |
レティシア | うんうん早速ってえぇっ?!ルナちょっと、ルナー?! ……ああ行っちゃった。早速ってことは、相手はパーティーの中に…?み、ミケだったりしたらどうしよう…?! こ、こうなったら、ゼクセアに惚れ薬を調合してもらって……ああっ、ダメよダメダメレティシア、そんな薬に頼ってミケの心を手に入れてどうするの?!ああっ、じゃあアッシュにあのコピーロボットもらえないか言ってみ…あああああ |
悩むレティシアを背に、ルナは甲板へ。 夕陽があたりを幻想的に映し出す中、海風を受けて佇んでいる白夜の元へ駆けていく。 | |
白夜 | ルナ嬢。 |
ルナ | あの、白夜さん…あの、あのっ……… 私、水筒から止めど無く水は出しちゃいますしイカさんにつられてギャル語になっちゃいますし蛙さんになったり女王様になったりしちゃいますしナヨナヨしてて鼻から牛乳も飲めませんけどっ!! す、好きですっ!! |
白夜 | ………… |
ルナ | 奥さんがいらっしゃるのはわかってます。すごく綺麗な方ですから、私にはとても叶いません。でも、想いが伝えたくて…。 |
白夜、しばらく黙って……やがて、俯いて首を振る。 | |
白夜 | ………ありがとう。 |
ミシェル | あら、花ー?急に立ち上がってどうしたのー? |
白夜 | 君はきっと魅力的な女性になると思うが、 |
ミシェル | あらあら、窓を開けて人形を手にそんなに振りかぶったら旦那様がー。 |
白夜 | 私は花が傍にいてくれるだけで十分だ。 |
ミシェル | ほらー、旦那様結構いい事言ってるわよー? |
白夜 | すまないが、君の気持ちには応えられな |
花 | 白夜の浮気者おおぉぉぉぉぉぉっっっ!!! |
白夜 | うわあぁぁぁぁぁぁっ?! |
ルナ | びゃ、白夜さん?!白夜さーんっ?!何まるで誰かに無理矢理担がれて放り投げられたみたいにひとりでに海に落ちちゃってるんですかー?!せめてちゃんとフッてから沈んでくださいー!!! |
どんどん進んでいく船をよそに、鞄から出たマシュマロ魔人に寄り添われながら海にぷかぷか浮く白夜(うららスーツのまま)。 え。ほっとくんですか。マジで?ああはいわかりました。 |
ヴィーダ。真昼の月亭。 白夜を除く9人の冒険者たちと対面するミシェル。 | |
ミシェル | そうそうー、この本よー。本当にありがとうー、報酬はここにー、みんなの分用意してあるからー。持って行ってねー? |
アッシュ | ぬ。遺跡で貰えるものは確かにいただいた。後は、金貨五枚。こうして得た現金を助手の給金にあてねばならんのでな。辞退はせんぞ。 |
ゼクセア | まぁ正直、あまり仕事した感じがしないけど…楽しかったわ。また機会があったら、仕事をさせてもらいたいわね。 |
レティシア | いろいろあったけど、すごく楽しかったわ!またリーにも会いたいし……ミシェルにも。お仕事の依頼じゃなくても、どこかで会えるといいわね! |
キャティ | キャティはマジュールさんといられただけで大満足だったvにゃんvま、報酬はきっちりいただくけどにゃー♪ |
マジュール | あ、は、はい…結局、ゼゾではあまり有益な情報は得られませんでしたし…今度は、オルミナの方でそれらしきものを見かけたという情報が入りましたので、そちらに向かってみようと思います… |
ルナ | そこまで怖い罠もなかったし、モンスターもあんまり出なかったし……散々でしたけど、結構楽しかったです!ミシェルさんに御礼も出来ましたし…あ、私、本当に報酬なんて要りませんから!ええ本当に! |
ミシェル | とか言いながらしっかり手は金袋を握ってるわよー?うふふふー、みんな本当にありがとうねー? |
ミシェルから報酬を受け取った冒険者たちは、次々と部屋を退出していく。 | |
ミケ | あのミシェルさん、僕は魔道の技術が報酬っていうことで… |
ミシェル | ええ、覚えてるわよー?ミケは風の魔法が得意だったわねー?じゃあ、明日から風魔法の特訓を一週間しましょうかー。 |
ミケ | え、あ、いいんですか? |
ミシェル | ええ、もちろんー。あなたにはまだ眠っている魔道の才があるみたいだしー、私も教え甲斐があるわー。 |
ミケ | あ、ありがとうございますっ! |
ミシェル | でもその服はちょっとあれだから着替えてきてねー? |
ミケ | 誰のせいだと思ってるんですかっっ!! |
ミケ、ちょっと涙目で退出。 | |
リィナ | あ、ミシェルさんミシェルさーん。 |
ミシェル | リィナは、転移魔法のことが知りたいんだっけー? |
リィナ | そうそう!教えてくれる? |
ミシェル | んー、理論から説明しましょうかー? |
リィナ | あ、えっと、そういうんじゃなくて、どんなことくらいまでできるのかーっていうくらいでいいんだけど… |
ミシェル | あらー、そうなの?そうねえ、人間の技術でなら、この世界のどこにもいけない場所はない、わー。あくまで、この世界にはねー? |
リィナ | この世界? |
ミシェル | ええー。でも、別の世界…魔界や天界も含めて、別の世界に転移するような魔法は、この世界では強力な禁呪になってるのー。天界でも現世界でも、作ることも使うことも禁じられているわー。 |
リィナ | そっかー…そういえば、リーちゃんも同じようなこと言ってたなぁ。 |
ミシェル | リーに聞いたのなら、私もあの子以上の知識はあなたにはあげられないわー。残念だけどー。 |
リィナ | ううん、ありがと。リィナ、もうちょっと自分でがんばってみるね! |
リィナ、退場。 | |
ミシェル | さて、とー。これで終わりかしらー。 |
アリヤ | 何ざぁとらしくシカトしてるだら! |
ミシェル | ああ、ごめんなさいねー、アリヤ、だったかしらー? |
アリヤ | …ったく……それで、報酬は、この呪いのことを何かご存知でしたら…ということなのですが。 |
ミシェル | もともと、ゴールドドラゴンなのよねー?それが、呪いをかけられてそんな姿になったのねー。ちょっと、見せてもらっていいかしらー? |
アリヤ | は、腹は開かないだっち?! |
ミシェル | うふふふー。そんなことはしないわー。少し、あなたにかけられた魔法がどんなものだか見せてもらうだけー。 |
ミシェル、アリヤの頭に手を置いて意識を集中させる。 しばらくして、やや眉を寄せて薄目を開け、呟く。 | |
ミシェル | ………ジナ=リーシャン=マクダモット=ティム・スクラグス=コグノセンティ…白の、魔術師…… |
アリヤ | はっ? |
ミシェル、ゆっくりと手を離して、元のようににこりと微笑む。 | |
ミシェル | …いえー、何でもー。うーん、そうねー、これはちょっとー、解いてあげるのは難しいかもしれないわー。 |
アリヤ | そう…なのですか? |
ミシェル | 魔道をリボンに例えるとねー、今普及している、いわゆる属性魔法は、普通のちょうちょ結びなのー。でもねー、アリヤにかかっている古代魔法はー、その結び方と全く違う、今その結び方を知ってる人はほとんどいないような魔法でー、しかもちょっと作った人のオリジナルが入っちゃっててー、しかも使った人は全くの素人だからー、なんだかもう訳がわからないくらい複雑に結び目が絡まっちゃってる状態なのねー。 |
アリヤ | なるほど…だから、衝撃で中途半端に呪いが解けてしまったりするのですね。 |
ミシェル | そうねー。この術を解くにはー…うーん、術をかけた人の命を断つかー、この魔法を作った人本人に解いてもらうしかないかもねー。 |
アリヤ | 術をかけた者を殺すことは……できません。しかし、魔法を作った本人と言っても…古代魔法なのでしょう?生き残っているとは… |
ミシェル | んー、案外その辺ウロウロしてるかもよー? |
アリヤ | …ミシェルさんは解けないのですか? |
ミシェル | だってめんどくさいじゃなーい? |
アリヤ | うわ一蹴。 |
ミシェル | アリヤのおなか開いていいならー |
アリヤ | いやいやいやいやいや遠慮するだっちよ!! |
外。 ミケが出てくるのを待っていたレティシア。 | |
ミケ | あ、レティシアさん。帰らないんですか? |
レティシア | あ、う、ううん、ミケを待ってたの。 |
ミケ | 僕を? |
アッシュ | おお、ちょうどよかった。そこの二人。 |
ミケ | アッシュさん。どうしたんですか? |
アッシュ | 私は現在、助手を募集しておる。その愛のエネルギーを科学の発展のために捧げようとは思わんかね?我が手にかかれば、永遠の愛を実現することも可能だが? |
ミケ | え、えええ、永遠の愛? |
アッシュ | 興味があったら是非、我が研究所に遊びに来たまえ。新しい自分を見出す良い機会になるだろう。では、諸君。縁があったらまた会おう。 |
アッシュ、わざとらしい笑いをあげながら去っていく。 | |
ミケ | …な、なんだったんでしょうね… |
レティシア | さ、さぁ…… |
クローネ | ………み、ミケ………? |
突然の声にがばっと振り返ると、そこにはミケの兄・クローネが。 | |
ミケ | あ……あに……うえ…… |
クローネ | ミケ……お前、ね……今度はナース? |
ミケ | ……いやあの、これはっ |
クローネ | あはははははははは、あは、あはははははーーーーーーっ、お、おなか痛っ!な、なに?俺を誘ってる?あはははははははは!いや、もー、笑いは誘ってるけどね、充分に! |
ミケ | ………っ |
クローネ | 泣きそうな顔も、可愛いって……あはははは……!はーはーはー、いや、お前、町中で魔法はまずいと思うよ?マジで |
ミケ | …………う、うーーーーーーーっ |
クローネ | ごめんって。ね、ほら?兄上には内緒にしておくから。ほら、笑ってー? |
ミケ | 笑えるかーーーーーーっ!!! |
真昼の月亭、1階食堂。 一息つくルナのところに歩いていく花。 | |
花 | ルナさん?お疲れ様。 |
ルナ | はっ、ははは花さんっ!あの、あの、お疲れ様ですっ! あ、あの花さん、その、えっと、白夜さんなんですけど、その、海に…… |
花 | ああ、存じ上げておりますわ。 |
ルナ | えっ、ええっ?!何で知ってるんですか?! |
花 | 私が放り投げましたから、この藁人形を。 |
ルナ | えぇっ?!投げた?!藁人形?! |
花 | そんなことよりルナさん、冒険は怖くありませんでした? |
ルナ | あ、いえっ、大変でしたけど楽しかったですよ!! |
花 | あの人が余計なちょっかいかけて申し訳ないですわ。 |
ルナ | ええっ、そんな、とんでもないです! 私は白夜さんに、ひとつになる喜びを教えてもらいましたから!! |
ぴきっ。 | |
ルナ | あれっ、なんですか今の音…って、花さん?藁人形がギリギリいってますけど…… |
花 | まぁ、それはそれは。白夜ったら…刺すくらいじゃ生温いですわっ! |
びきっ。 | |
ルナ | ああああっ?!白夜さんが!!白夜さんが死んでしまいましたっ!! |
ミシェル | 大丈夫よー、呪い殺すことまでは出来ないからー。人形が壊れた時点で繋がりも終わるわー。 |
花 | まぁ、そうなんですの。それはざんね…いえ、安心しましたわ。私ったらついうっかり手が滑って、うふふふふ。 |
ルナ | 真顔で… |
夜半。
真昼の月亭。
冒険者たちが持ってきた本をパラパラとめくりながら、
薄紫色の瞳を嬉しげに細めて、それを見るミシェル。
「ミドルヴァースの第1日。
またつつがなく新しい年を迎えることが出来た。
最愛の妻と娘と共に、年を重ねていく。
これ以上の幸せがあるだろうか。
生まれて10年。リーはまだ赤ん坊だ。
私の顔を見て微笑むのが何より嬉しい。
ミシェルにそれほど手を焼かせることもなく、穏やかで賢い子だ。
きっと、将来はミシェルに似て、聡明で美しい子になるだろう」
「フルーの第23日。
ミシェルが私の誕生祝にケーキを焼いてくれた。
少し硬く焦げていたが、彼女の気持ちがなにより嬉しい。
私ももう60歳。そんな年になったのか。
リーはようやく這って歩けるようになった。
喋れるのはもう10年先になるかもしれない。
きっと、私の記憶をほとんど持たずに、彼女は育つのだろう。
それが何より、残念でならない」
「マターネルスの第37日。
リーは無邪気に、私をパパと呼ぶ。
もう90もとうに越え、老いさらばえた私を。
彼女の紡ぐたどたどしい言葉が、
何故こんなに私を悲しく、
そして幸せにしてくれるのだろう。
私はもう長くない。
残りの少ない命を、幸せに過ごしたいと思う。
何よりも愛しい、家族と共に」
1ページ、1ページ。
大切そうに、ページをめくるミシェル。
そして、このページを最後に、日記は空白になっていた。
「ミシェル。
私がこの世から姿を消した後に、
貴女は、どんなに永い時を過ごしていくことでしょう。
私と過ごしたひとときは、
貴女にとってはほんの一瞬のことなのでしょうね。
けれども。
私は、貴女に会えて幸せでした。
一生を、貴女と、そしてリーと共に過ごすことが出来て。
私は、とても満ち足りた気持ちで、生を終えることが出来ます。
私は、貴女を…天の世界から引きずりおろし、地上に繋ぎとめた…
…とは、思いません。
貴女が、貴女のために、自分で選んだ道に、
ほんのひとときでも、寄り添って共に歩けたことを、
そして、その証として、何よりも大切な娘を授かったことを、
本当に誇らしく、幸せに思うのです。
ですから。
貴女はこれからも、貴女のために、生きてください。
それが、私の最後の…そして、ただひとつだけの、貴女への願いです。
私の、天女。
愛しています。
ティーフロット・トキス」
にっこり、微笑んで。
ミシェルは、本を閉じる。
「………ティフ」
本の上に手を当てて。
祈るように、呟く。
「……私も、あなたに会えて幸せだった……いえ。今も。今も幸せよ……」
あなたは私に、自分のために生きろと教えてくれた。 あなたの言葉は、私を変えた。 だから私は、今ここにいる。 あなたがこの世から消えてしまっても、 私がここにこうしていることが、あなたがいた確かな証。 だから、あなたの言葉通り。 私は、私の為に生きる。 私がしたいことを、したいように、自由に。 それが、私の願いだから。 そして、あなたの願いだから…………
白夜 | …したいようにやりすぎだというツッコミは無しなのか……? |
静かに波音が響き、月明かりが闇夜の海の中にポツリと光る白夜を照らしている。 波音が遠くなり、暗転。 |
“The lost article of the wiseman” The End 2005.9.27.Nagi Kirikawa