よく晴れた昼下がり。 表通りから少し離れた静かな裏路地。 | |
ルナ | っっきゃああぁぁぁぁぁぁっ!!! |
足に犬をくくりつけ…もとい、足に犬が噛み付いたままものすごい勢いで走ってきた少女が、出会い頭に女性とぶつかった。 女性のほうは、きついウェーブのかかった銀髪を後ろでまとめている。笑みの形に目が閉じられているため、その色はうかがえない。臙脂色のセーターにグレーのフレアスカート、ブラウンのショール。いたって普通の女性のいでたちである。 少女、ぶつかった女性にぺこぺこと頭を下げる。 | |
ルナ | きゃっ……!ご、ごめんなさいごめんなさい…! |
ミシェル | 大丈夫よー。それより、どうしたのー? |
ルナ | こ、この子がっ……! |
ミシェル | あらー。あなたの足が相当好きなのねー、食いついて離れないわー。 |
ルナ | い、いたひですぅ… |
ミシェル | ちょっとじっとしててー……スリーピング! |
ルナ | !!………わぁ……ワンちゃん眠っちゃった…… |
ミシェル | これで大丈夫ねー。あまり、ワンちゃんのご機嫌を損ねるようなこと、しちゃダメよー? |
ルナ | わ、私そんなことっ…!!可愛らしいわんちゃんだったからそっと撫でようとしたら行き成り目つきが変わるんですもん、恐くて恐くて…。しかも容赦なくガブッって!!ガブッて!!! 道に迷って変な所に入ってしまっていたから、逃げ道もわからなくて…。ひたすら泣くしかできなかったので本当に助かり… |
ミシェル | どうでもいいけどあなた、鼻水出てるわよー? |
ルナ | えっ?はなみ……… えええぇぇきゃああああぁぁぁぁ!みみみ見なかった事にして下さい!見なかった事に!!(ごしごし) |
ミシェル | うふふふー、じゃあ今見たものは忘れておくわねー。 |
ルナ | はぁ………あ、あの、改めて、本当にありがとうございました…あ、あの、私、何かお礼を…… |
ミシェル | 大したことしてないわー。気にしないでー? |
ルナ | でででもっ!何かお礼をしないと私、そのっ、申し訳なくて… |
ミシェル | うーん………どうしようかしらー。 あ、そうだー(ぽん) |
ルナ | な、何ですか? |
ミシェル | 私のお仕事を、ちょっと手伝ってもらえるかしらー? |
ルナ | おしごと………? |
所変わって、とある酒場件居酒屋。 ランチタイムも終了し、人もまばらになった店内で一人食後のお茶をすすりながらまったりと過ごす魔道士風の男性。 と、突然ドアをあけて入ってきた、桜色のエキゾチックなローブを纏った少女の姿に、彼の顔が一瞬にして硬直した。 | |
ミケ | り………リリィさん……?! |
リリィ | こんにちはぁ、げ・ぇ・み・さ・まv |
ミケ | ど、どこでその名前を…?! |
リリィ | やだなぁ、あの「紙芝居」、ヴィーダ中で大評判だったんですよ?あっという間に小説化マンガ化して大ベストセラー、今度有名俳優で舞台化もするじゃないですか~!「ミケオタク」を自認する私が知らないわけないですよぉvまぁもっとも舞台の方はミケさんご本人じゃないっていう時点で私の中ではアウトですけどー |
ミケ | あああああああ…… |
リリィ | ホントは私も入っていってレディーシアーさんと劇的三角関係したかったんですけどぉ、なんかあまり絡みたくない方々が関わってるみたいですし、もとよりミケさんも素敵にショック受けてるみたいだったから面白く見物させてもらうだけにしましたv |
ミケ | ……それはどうも…… |
リリィ | 良かったですねぇ、ミケさん。これを逃したら、一生女の子に追いかけられることはないんですよ?楽しんだらどうですか~? |
ミケ | ……その、口説いて欲しいっていう注文、最近もの凄く多いんですけど。あなた、まさか何かやってないですよね? |
リリィ | まさか。ちょっと『ゲーミさまに口説いてみて欲しいです。頼んだらやってくれた人が居るみたいですよ』って言って回っただけじゃないですか~♪ |
ミケ | ~~~~っ!あーなーたーのー、せいですかっ! |
リリィ | きゃっ、いきなりボディタッチだなんてダ・イ・タ・ンv私今日勝負下着じゃないんですけどーv |
ミケ | このまま絞め殺してやりたい~~~~~~~~っ!僕の日常を返せ~~~~~っ! |
リリィ | やだなぁミケさん、あの紙芝居のお仕事受けたのミケさん自身でしょう?何て言うか知ってます?自業自得って言うんですよ? |
ミケ | ぐ…… |
リリィ | まーまーまー。慰めてあげますから。更に私の下僕になると約束してくれるなら、町の人の記憶も操作してあげますよ? |
ミケ | ……………………い、いやですね、そんな口車に乗るわけ無いじゃないですか |
リリィ | にしては沈黙が長かったですね~?分かりました、私も鬼じゃありません。とりあえず、慰めてあげますから、ほら、ベッドへv勝負下着じゃないですけどそれは我慢してくださいね? |
ミケ | (げしっ)……調子に乗らないでくれません?第一、何ですか?何であなたが冒険の導入に入ってきているんですか?これエスタルティシナリオじゃないんでしょう? |
リリィ | いやぁ、ミケさんの背後霊さんがお遊びで書いたのを私の背後霊が面白いから採用にしちゃってー♪まぁいいじゃないですか、どうせギャグシナリオなんですし、なんでもアリですよv |
ミケ | いいわけないでしょ!……ええい、こんな風に閉じこもっているばっかりじゃ気が滅入るだけですっ |
リリィ | どこ行くんですかー?一緒に遊びましょうよー |
ミケ | 人の噂も75日!ほとぼりが冷めるまで高飛びしますっ!……これ以上余計なことはしないでくださいねっ! |
言って、ミケは銀貨1枚をテーブルの上に置くととっとと店を後にした。 リリィも同様、「あーおもしろかったv」と言いつつ、退場。 また所も変わり、表通り。人通りの多さに少し辟易しているらしい、大柄な獣人の男性。 その道と交差する道の向こうから、口にメロンパンを咥た少女が猛ダッシュで走ってきた。 | |
キャティ | 遅刻チコクぅ!!チコクだにゃー!あーもう!どうして大事な日に限って(もぐもぐ)寝坊するかにゃー!(もぐもぐ)キャティのばかばか… |
当然のように、交差点で出会い頭に二人はぶつかった。大柄な男性とぶつかったため、当然のように倒れたのは少女だけ。 | |
キャティ | にゃあぁぁっ! |
マジュール | うわっ |
キャティ | いたたたた……こらー!どこ見て歩いているにゃ!!少しは気をつけるにゃ! |
マジュール | だ、大丈夫ですか?!不注意でした、申し訳…あれ、キャティ?! |
キャティ | うにゃっ、マジュールさん?あの…ごめんなさいですにゃ…キャティってば超急いでいたのにゃ… 怪我はなかったかにゃ?痛いところはないかにゃ? |
マジュール | ええ、なんともありませんよ。ありがとう。 お久しぶりです、キャティ。まさかこんなところで会えるなんて… |
キャティ | ホントだにゃあ!あぁ…運命の神様!こんな劇的な再会をありがとにゃん!やっぱりキャティとマジュールさんは、運命の赤い糸で結ばれていたのにゃv |
道でぶつかったくらいで運命も何も。 | |
キャティ | そこ!ごちゃごちゃうるさいにゃ! |
マジュール | キャティ?誰と話して… |
キャティ | うぅ~ん、なんでもないにゃんv それにしても、本当に久しぶりだにゃあ、マジュールさん。 |
マジュール | ええ。久しぶりですね。私は長いことヴィーダに戻って来れませんでしたし、なかなか会う時間もとれず…寂しかった。 |
キャティ | キャティもだにゃ…寂しかったにゃん、マジュールさん… |
マジュール | キャティ……… |
手を取り合い、見つめ合う二人。 どうでもいいけどちゃっちゃと進めてくれませんか。 | |
マジュール | あ、はい、すみません…ところでキャティ、さっきは何でそんなに急いで…? |
キャティ | そ、そうだったにゃ!この先の真昼の月亭で、依頼を受けたにゃん。その待ち合わせ時間に遅れそうだったんだにゃあ! |
マジュール | 真昼の月亭の依頼…もしや、遺跡探索の手伝いをする、という…? |
キャティ | そうだにゃ!…っていうことは…マジュールさんもあの依頼を受けるのかにゃん? |
マジュール | ええ。では本当にあなたも、あの依頼を…でも、ゼゾまで行く旅なんです。辛い冒険になるかもしれないんだよ? |
キャティ | 承知の上だにゃ!キャティこう見えても意外にたくさん冒険をこなしてるにゃよ? |
マジュール | そうなのですか…?……わかりました。でも、いざとなったら、私があなたを守ります。 |
キャティ | マジュールさん…(うるうるうる) |
マジュール | では、行きましょうか、キャティ。 |
キャティ | はいだにゃ……にゃあああぁぁぁっ?! |
突然キャティを横抱きに抱き上げ、いわゆるお姫様抱っこで往来を平然と歩いて行くマジュール。 …はいはい、もう好きにしてください。 一方、真昼の月亭では。 | |
ミケ | できるだけヴィーダから遠い場所…遠い場所…と……お。ゼゾですか。あまりいい思い出はありませんが…この際背に腹は変えられません… |
レティシア | ミケ…ミケじゃない?! |
声に振り向くと、10代後半ほどの少女が目をキラキラさせて彼を見ていた。 | |
ミケ | レティシアさん?! |
レティシア | ミケ~!!会いたかっ… |
ミケ | すみませんでしたっ……!!! |
レティシア | ……ミケ……? |
ミケ | ごめんなさいっ、なんだか分からないんですけれど婚約なんて事態になってしまって!えと、レティシアさんのことは、確かに好きですけれど、ええと、巻き込んじゃってごめんなさい!僕そこまで考えたことなくって。婚約の話、白紙に戻してください。 |
レティシア | はく……し……? |
ミケ | あの、あの世界にいたときの僕はやっぱりなんかちょっと変だったんだと思います。レティシアさんも、お芝居の中で僕の相手役なんてやらされてさぞかし迷惑だったろうと… |
レティシア | そそそ、そんなことないよ?!むしろ嬉し |
ミケ | そんなに気を使わないで下さい。なんか、あの場が異常に盛り上がっちゃって、即否定できなくて…結局こんな後になって言うことになっちゃって。本当に申し訳ありませんでした… |
深々と頭を下げるミケ。まっ白になりながらも、レティシアはなんとか返事をした。 | |
レティシア | は、はは……そうよね……うん、わかった、ミケがそう言うなら… |
ミケ | ありがとうございます……!ああ、よかった。胸のつかえが一つおりました。これで心置きなくゼゾへ… |
レティシア | ゼゾ? |
ミケ | はい、この依頼の… |
ミケの言葉を遮るようにドアが開き、ミシェルとルナが入ってくる。 蒼白になるミケ。 | |
ミケ | ルェシミ……?! |
ミシェル | ? |
ミケ | ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、先日は本当にごめんなさい! |
ミシェル | …??なにー?私に言ってるのー? 私はあなたとは初対面だけどー。 |
ミケ | 何も覚えていらっしゃらないなら、そのままでいてください… |
一連の出来事は、過去リアクションより「BLUE POST:いわしの頭」をご参照の上大爆笑して納得してください。 ちなみに、いわし世界に登場したルェシミはミルカの記憶の中にあるミシェルを投影して作られた偽物ですので、この人とは一切関係ありません。あしからず。 | |
ミシェル | なんだかわからないけど…気にしないでー?降下してる身でこんな街中であんな派手なことしちゃって賢人議会に目ぇつけられて第二のリーヴェルになっても知らないゾ☆っていうくらいにしか感知してないからー。 |
ミケ | 知ってるんじゃないですか。 |
ルナ | あのぅ…ミシェルさん、お知り合いですか? |
ミシェル | ううん、全然知らない人ー。お空から降ってくる電波とは仲がよさそうだけどー。 |
ミケ | うわ酷。 |
ミシェル | それでねー、ルナ。私、このお仕事を依頼するためにヴィーダに来たのよー。ゼゾにある遺跡に行って、ちょっと探してきてもらいたいものがあるのー。 |
ルナ | はぁ…ゼゾ、ですか…? |
ミケ | え、じゃああなたが、この依頼の主なんですか? |
ミシェル | ええ、そうよー。何かしらー、あなたたちも依頼を受けてくれるのー? |
ミケ | え、あ、はい、僕は。けどこちらは… |
レティシア | わ、私も受けますっ!!その依頼!! |
ミケ | あれ、レティシアさんも受けるんですか?奇遇ですね。 |
レティシア | うんっ!よろしくね、ミケ!(恋する乙女は七転び八起きよ!振り出しに戻ったけど、私は諦めないわー!!) |
ミシェル | まぁー、ありがとうーv それで、ルナはどうするのー?ちょっと危険なお仕事になると思うけどー。 |
ルナ | あっ、はっははい、やりますっ、もちろん!(ホントはちょっと怖いけど…) |
ミシェル | じゃあ、決まりねー。他の人たちももう来てると思うからー、詳しいことはあっちのお部屋でお話しましょうねー? |
言って、ミシェルは返事も聞かずに奥の別室へと向かった。三人も慌てて後を追った。 |
別室。先客にマジュール、キャティ、他に4名。 大柄な地人の女性。ボロボロの白衣を着たちょっとヤバそうな男性。ウキウキした様子のお団子頭の少女。それら全てに感心なさそうに傍観している、光人の美しい男性。 扉を開けてミシェルが入っていくと、皆そちらに目を向ける。 | |
ミシェル | あらー、もうこんなに来てくれてたのー?嬉しいわー、ご苦労様ー。 |
ゼクセア | っていうことは、あなたが依頼人? |
ミシェル | ええそうよー、まぁまずは座ってー、詳しい話をするわー。 |
リィナ | はーい! |
ミシェル | あなたたちも入ってー?席は足りると思うしー。 |
ミケ | はい、お邪魔します。 |
ミシェルに続いて部屋に入る3人。一番後ろから入ったルナは、部屋に入るなり立ちすくんだ。 呆然と光人の男性に見入っている。 首をかしげる男性。 | |
白夜 | …?どうかしたのかな。 |
ルナ | ……………(はっ)い、いえその!あの(きょろきょろ) |
とそこに、化粧室にでも行っていたのか、ちょっと出かけてきました、という風情で女性が後ろから入ってくる。長い黒髪の、芯の強そうな美人。 | |
花 | お待たせしてごめんなさい、白夜。 |
白夜 | 丁度良かった、今依頼人が来たところだよ。君も一緒に聞くといい。 |
花 | ええ、そうするわ。…まあ、あなたも依頼を受けるの?さ、座りましょう? |
ルナ | え、ええぇえあのはい、わかり…ました。 |
あたふたと男性と女性を交互に見比べながら、女性の手に引かれて席につくルナ。 | |
ミシェル | さて、あらためましてー。 私の名前はヒューリルア・ミシェラヴィル・トキス。あなた達にお仕事を依頼する、クライアントになるわねー。長い名前だから、ミシェルって呼んでねー? 私はええとー、一応賢者という職業になるのかしらー。少しばかり無駄知識をたくさん持ってるものだからー、それを提供したりとかー、あとは魔道に関するアドバイスをしたりー、マジックアイテムを作ったりして生計を立てているのー。よろしくねー。 じゃあ、順にあなたたちも自己紹介してもらえるかしらー? |
ミシェルの隣に座っていた、先ほどの大柄な女性がまず頷いた。 緑がかった黒髪をゴージャスに広げ、服の上からも筋肉質な体つきがうかがえる色々な意味で壮観な女性。丁寧に彩られた唇からは、火のついていないパイプが伸びている。 | |
ゼクセア | 私はゼクセア・ファンティエルト。ゼクセアと呼んで頂戴。 同じように自己紹介した方がいいのかしらね。薬師をやっているの。 |
ミケ | 薬師、ですか? |
ゼクセア | ええそうよ。なにその嫌そうな顔。 |
ミケ | いえ、知り合いに薬師もどきがいたものですから…しかも微妙に雰囲気似てるし…でも、薬師の方が何故、こんな依頼を? |
ゼクセア | 美容と鍛錬の為よ。だっていつもいつも探偵だとか頭を使うお仕事ばっかりしていたり、フラスコやら乳鉢やら薬学書なんかと睨めっこじゃ、体もなまるし、どんどん老け込んじゃうじゃない? 若い子たちのエネルギーをいっぱいに浴びながら、せまりくる罠を楽しくかわし、モンスターを気持ちよく殴り飛ばして、それでこの報酬じゃもう受けるしかないと思ったのよね。 |
レティシア | へ、へぇぇ……び、美容にいいのね、冒険って… |
ゼクセア | 経験と実績のある冒険者求む、ですってね? まさに私のことを言ってるようなものね。母が格闘家だったから、物心ついたときから体を鍛えてたし、冒険者としては10年以上のキャリアがあるわ。 ちょっと歳いってたり、育ちの関係でつい汚い言葉が出たり、魔道関係の事がからっきしだったりもするけど、格技とお薬だけは自信有るから。 かならずあなたの期待に添えると思うわ。よろしくね。 |
ミシェル | うふふー、期待してるわー。じゃあ、次の人、お願いねー? |
隣に座っていたおだんご頭の少女が、意気揚々と手を上げた。 黒髪を大きなリボンで左右ふたつのお団子にまとめている。大きな赤い瞳も顔の作りも幼く、赤いジャケットとミニスカートはとても冒険者というようには見えない。唯一、手にはめられたグローブだけが戦いに身を置くことを主張している。 | |
リィナ | リィナはね、リィナ・ルーファっていいます!えっと、冒険者、っていうことになるのかな。ミケちゃんやレティシアちゃんとは前にも一緒にお仕事したこともあるんだよ。 |
ミケ | その節はお世話になりました。 |
レティシア | また一緒に頑張ろうね、リィナ。 |
ミシェル | うふふー、なかなか世間は狭いのねー。 |
リィナ | あのね、依頼に「マジックアイテムや知識なども提供可」ってあったよね。それが報酬の代わりじゃ、だめかな? |
ミシェル | ええ、構わないけどー?何か欲しいのー? |
リィナ | よくぞ聞いてくれました!リィナが求めるはトランスポーター! 移動術だね! 世界の端から端までぶっ飛べる!まぁーテ○ポとかル○ラ(笑)そんなのの極限が知りたいなぁ…と思うんだけど。 |
ミシェル | んー……わかったわー、じゃあそれに関する知識がリィナへの報酬ねー。 じゃあ、次の人、お願いねー? |
隣にいたのは、白衣を着た男性。 徹底的に「私は外見には興味はありません」と主張している、ボサボサの黒頭に瓶底メガネ、ボロボロの白衣にサンダル。インテリっぽくメガネを上げると、高らかに言い放つ。 | |
アッシュ | 私の名はアサークル・ドイマ。科学者である。 |
キャティ | か、科学者にゃ?! |
アッシュ | 左様。私のこの惜しみなくあふれ出る才能を世のため人のために提供しているのだ。材料費は私持ちの上、何故か発明品は不評ゆえ、私の才能を余に知らしめすどころか何故か両親が私に残してくれた財産がみるみるうちに減っていっているのだが。 |
白夜 | 要するに芽が出もしない才能に縋りついて親の遺産を食い潰しているわけか。 |
花 | しっ、白夜。本人は気付いていないかもしれないんだから。 |
白夜 | それで?その道楽息子が何故こんな依頼を?心を入れ替えて真面目に働くには冒険者は少し足が地面から離れすぎているように思うがね? |
アッシュ | 無論、バカンスだ。 |
リィナ | バカンスぅ?! |
アッシュ | 左様。科学者たるものフィールドワークの基本一つや二つ、朝飯前に片付けねばならんのだが、人類のより良き進化を促すための研究が多忙で、最近研究室に篭りきりだったのでな。 ここらで、気分転換にスラッシュ&ハックにでも行こうかと思っておったところ、たまたまこの依頼を目にしたのだよ。 |
ミシェル | あらあらー。じゃあ、良い物が見つかるといいわねー。 |
レティシア | いいの?!そんな理由で?! |
ミシェル | そうねー、まぁ、私は私の欲しいものが見つかればそれでー。アサークルの人生の糧になるならそれに越したことはないしー。 |
アッシュ | 私のことは、遠慮せずアッシュと呼ぶが良かろう。 |
ミシェル | そうー?じゃあアッシュー、一応お仕事だからがんばってねー? |
アッシュ | 心得た。この天才科学者の手にかかれば探し物など朝飯前といえよう。 |
ミシェル | うふふー、それは楽しみねー。じゃあ、次の人、お願いねー? |
先ほどアッシュに辛辣な評価を下した、美貌の光人。緑がかった金髪に光人特有の色素の薄い肌、つり目がちの金と赤のオッドアイ。きっちりとしたスーツを身につけ、余裕げな笑みを浮かべている。 隣には先ほどの女性。長い黒髪を後ろで束ね、ナノクニ独特の民族衣装を身につけている。 | |
白夜 | 私の名は小畑白夜。こちらは妻の花だ。 |
花 | 小畑花と申します。 |
ルナ | ええぇぇぇぇぇええっ?! |
ミシェル | ……どうしたのー、ルナー? |
ルナ | はっ………いっいえ、なんでもありません…ぐっすん… |
白夜 | …続けて構わないかな。 |
ミシェル | どうぞー。 |
白夜 | 冒険者が本業ではないのだが、研究論文を売って二人分を食いつないで行くのはさすがに無理が生じてね。この依頼は渡りに船という訳だ。ゼゾには行った事がない上に、地歴には惹かれるからな。旅費と報酬を出してくれるなら願ってもない依頼だ。 |
花 | 新婚旅行代わりにゼゾに連れて行くつもりなのね。 |
白夜 | このままヴィーダにいても路銀は減る一方だ。2人分だから宿代も馬鹿にならないし…少なくともこの依頼を受けている間の諸経費は賄われるのだろう?…なんだか考えている事が貧しくてナチュラルに凹むな…。 |
花 | 海外に慣れていない私を密林で野宿させるなんて貧乏は敵って本当ね。 |
白夜 | …確かにゼゾは虫も多いし、熱いし汚れているし、いつ何時獣や先住民に襲われるか解らない土地だが。未開なだけあって遺跡は完全な形で残っている事が多いのだよ。何千年も前の人達が何を祭り、どのように暮らしていたか、知る事は面白いと思わないか、花。 |
花 | ああ、お父様お母様。私、この人を愛していますもの。ついて行くと決めたからにはどんな苦難をも乗り越えてみせますわ。 |
キャティ | はぁ…うらやましいにゃん…キャティもいつかあんな風に… |
ミシェル | そうねー、もし花がゼゾにあまり行きたくなくてー、白夜が賛成してくれればなんだけどー、私と一緒にヴィーダで待ってるー? |
花 | えっ… |
ゼクセア | 待ってよ、あなたはゼゾには行かないの? |
ミシェル | ええー。依頼の票にも書いたでしょー?「当方に代わり探索してくれる冒険者を募集」ってー。 |
ゼクセア | あれ…あ、そうか。じゃあ、あなたはヴィーダに残って、私達が戻ってくるのを待っているのね? |
ミシェル | そういうことになるわねー。で、どうするのー?白夜ー。 |
白夜 | それはもちろん、うるさい花は置いていって心ゆくまで調査を… |
花 | ………… |
白夜 | いや、冗談だからな。君の言う通りゼゾは何が起こるかわからなくて危険だから、君の身の安全を考えれば無理に連れて行くのは忍びないから置いて行くのであって。別に独り身時代の開放感を味わっているわけでは。 |
花 | 別にいいわ、私ここでミシェルさんと化粧品談義でもしていますから気にしないで。ナノクニの米ぬかや椿油のノウハウをお伝えして、貴方が帰って来る頃にはサロン・ド・ミシェルのナノクニ支店開店が決まっているかもしれないわね。貴方が稼ぐよりずっと多くの契約金を貰っている私を見て、無力感に打ち拉がれる白夜が見えるわ。 |
ミシェル | あらー、サロン・ド・ミシェルを知ってるのねー、嬉しいわー。 |
花 | ご高名はかねがね。後でじっくりお化粧品について語り合いましょうね。 |
ミシェル | うふふ、わかったわー。じゃあ、花はヴィーダに残って、白夜だけが行くのねー。 |
白夜 | …そういうことになったようだ。よろしく頼む。 |
ミシェル | うふふー、任せてー。じゃあ、次の人お願いねー。 |
隣に座っていたのは、例のメイド服の猫娘。肩口で揃えた栗色の髪から覗く猫耳、、童顔に拍車をかける大きな青い瞳、極めつけは鈴のついた首輪とフリルのきいたメイド服。「さぁ、心置きなく私に萌えるがいい!」と全身で主張している。 | |
キャティ | キャティは、キャロル・ティンカーベルにゃ!キャティって呼んでにゃん。いつもは酒場でウェイトレスのバイトをしてるんだけど、この依頼が面白そうだったから受けることにしたにゃ! |
リィナ | あ、わかるわかる!リィナも冒険者の血がうずいたよー! |
キャティ | でしょでしょ!あのねー!前のお仕事で、サン・マリア島って所で洞窟探検をしたのにゃ。洞窟の中では色んな事があってねー!これがとっても面白かったのにゃ。だからー!また探検したいにゃーって、キャティは考えていたのにゃ♪ |
ミシェル | そうなのねー。期待したような冒険が出来ると思うわよー、たぶんー。 |
キャティ | まぁ、ぶっちゃけ今はマジュールさんがいるだけで幸せだけどにゃーv |
ミシェル | はい、じゃあ次ー。 |
キャティ | スルーかよ! |
キャティの隣に座っていた大柄な獣人の青年。短い黒髪から覗く白地に黒い縞柄の大きな耳、優しげなブラウンの瞳。かっちりとしたデザインの服に身を包み、背中の大剣は今は傍らに立てかけている。 | |
マジュール | グーディオ・マジュール・メグナディーンと申します。マジュールと呼んでください。 この依頼は…実は、ゼゾに少々所用がありまして、そのための路銀稼ぎ兼現地の下見…ということで志願しました。 |
ミシェル | 探しものー? |
マジュール | はい。私の旅はとあるものを探すためのものなのですが、その探している物を、ゼゾで見かけた、という知人が居ました。その探索に向かいたかったのですが、ゼゾという土地がどんな所かは全くわかりませんし、路銀不足でもあります。丁度ゼゾへ行く依頼がありましたので、路銀を稼ぐ傍ら、現地の下見を行うことにしました。 |
ゼクセア | じゃあ、この依頼はついで、ってわけなの? |
マジュール | そんな!もちろん、自分の仕事にとりかかるのは、今回の依頼を一通り完了し、報酬を頂いてからです。請けた仕事の最中に、探し物について噂話の一つでも聞けるとありがたいですが。受けた仕事は、最後まできちんとやらせていただきますよ。 |
ミシェル | 仕事をきちんとやってもらえるなら、私は何も言うことはないわねー。がんばってー? じゃあ、次の人お願いねー。 |
大柄なマジュールの隣に怯えたように座っていたルナ。肩までの緑色の髪、気弱そうな紫色の瞳。ブラウンのワンピースの裾から覗く両腕と首に痛々しげに巻かれた包帯が目を引く。 | |
ルナ | あの…は、初めまして。アイリス・クロロフィートっていいます…あの、ルナって呼んでください。 |
レティシア | アイリスなのに、ルナ? |
ルナ | は、はい、こっちの名前の方が好きなんです…あの、ペンネームとかハンドルネームとかリングネームとかだと思ってくれると… |
レティシア | リングネーム…? |
ルナ | あ、あのっ、さっきはミシェルさんに大変お世話になって…その、ご恩返しに少しでもなればいいんですけど… |
ミシェル | んー、でもー、ここに来るまでに話した通りー、これって遺跡の奥にあるものを取ってきてー、っていう依頼よー?大丈夫ー? |
ルナ | う゛。確かに、私特に戦闘慣れもしてませんし…遺跡なんて入ったこともないですけど…。でも!やっぱりお礼がしたいというか…、 あの…皆さんになるべくご迷惑おかけしないようにしてますから…、お願いします。 依頼料なんて要らないんです!なんなら他の方に多めに渡して下さっても構いませんから…! |
ミシェル | そこまで言うなら止めないけどー。ほんとに危なかったら逃げるのよー? |
ルナ | はっはい!わかりました!ありがとうございます…! |
ミシェル | じゃあ、次の人お願いねー。 |
ルナの隣に座っていたのはレティシア。綺麗なストレートの金髪をポニーテールにし、活発そうな緑の瞳を輝かせている。大きな胸を惜しげもなく強調した赤い服を身に纏った、魔道士風の少女だ。 | |
レティシア | レティシア・ルードです!レティシアって呼んでね。私もキャティと同じ、遺跡探検っていうのが楽しみでこの依頼を受けたの。子供の頃から憧れだったのよ~。 先の見えない謎の遺跡!そして現れる大蛇!「隊長!!大変ですっ!!大蛇が!!大蛇が身体にっ!!」慌てふためく隊員が必死に大蛇をはがす!やっとのことで難を逃れるも、行く先々に次々と現れる大蛇!ひょっとしてここって単に蛇の住みかなんじゃない?!みたいな。 |
白夜 | やらせの探検記じゃないんだから… |
レティシア | あははは。でもそういうところに限って、出てきたお宝がしょぼかったりするのよね~お約束で。 でもいいの!要は探検っていう、未知への挑戦にドラマがあるんだからっ!! |
キャティ | よく言ったにゃ!そうにゃ、結果はどうでもいいにゃ!探検という過程にこそ価値があるんだにゃ! |
レティシア | そうよねそうよね!!あ~、遺跡楽しみになってきたっ!がんばるから、よろしくね! |
ミシェル | うふふー、楽しみにしてるわー。 じゃあ、あなたが最後ねー? |
レティシアの隣に座っていた、ミケ。声を出さなければかなりの確率で少女と間違えられる綺麗な女顔、三つ編みに束ねられた栗色のロングヘア。真っ黒なローブを身に纏い、黒猫を肩に乗せている。 | |
ミケ | ミーケン・デ=ピースといいます。ミケと呼んで下さい。この依頼は…ええとあの、ぶっちゃけヴィーダにいられなくなったんで、とりあえず人の噂の75日が過ぎるまでゲーミの名を聞かないところに旅立ちたいんです… |
ミシェル | ………あー、こないだのブルーポストの |
ミケ | それ以上は勘弁してください。ていうか何で貴女がそれ知ってるんですか。いつもはヴィーダにいないんじゃないんですか。 |
ミシェル | うふふー、私に知らないことはないのよー。 |
ミケ | ……いや、あの。魔道士としては、魔道知識も切実に欲しいかなー、とか。 |
ミシェル | 付け足しくさいわー。 |
ミケ | ほっといて下さい。 とにかく、理由はともあれ、お仕事として受けたからには最後まで責任持ってやらせていただきます。よろしくお願いします。 |
ミシェル | こちらこそー。 じゃ、紹介も一通り終わったところでー、本題に入らせてもらうわねー。 |
ミシェルは持っていた道具袋から地図を取り出すと、テーブルに広げた。 |
ミシェル | あなたたちに行ってもらうのは、ゼゾの港から歩いて2日くらいの距離のところにある、ここねー。この地図は魔道で割り出したかなり正確な地図だから、迷わずに行けると思うわー? |
ミケ | 遺跡、ということですよね。どういう遺跡なんですか?詳しいことを教えて欲しいんですけど。 |
白夜 | そうだな。遺跡というからには誰かの手が入っているところなのだろうが、人工的な建造物なのか?それとも、鍾乳洞のようなものを利用したものなのか?誰がどんな目的で作ったものなのか?質問は尽きないな。 |
ミシェル | じゃあ順番に答えるわねー。この遺跡は、昔、とある賢者が自分の研究施設として作ったものよー。自分の魔道技術を駆使して作った人工建造物ねー。 |
ルナ | す、すごい人なんですね…あの、ええと…。遺跡は、どんな所なんですか? こんな噂がある所だ、っていうのとか、近くの街の人にどれだけ知れてるのか…とか。 近くまで行った事があるなら、外から見た感じだとか…あ、少しも中へは入った事はないんでしょうか? |
ミシェル | それは、私が、っていうことー? |
ルナ | あっ、はい、そうです。 |
ミシェル | えーと、ジャングルの中にある石造りの山みたいな建物、っていう感じかしらー。結構奥地にあるから、近くに街とかはないわよー。 |
白夜 | 待った。貴女はそこに行ったことがあるのだな? |
ミシェル | ええ、まあー。 |
白夜 | なら、途中まででもいい、地図か何かはないのか? |
ミシェル | 地図ねー。あったほうがいいー? |
白夜 | それはあるのとないのとではかなり差がというかその口ぶりでは地図はあるんだな? |
ミシェル | 私ー、竜を探すお話の8のダンジョンに地図があるシステムは激しくどうかと思うのー。ダンジョンはまずは行ったら隅々まで歩いて自分でマッピングするのがお約束でしょー?まあ、地図があるなら心置きなく見せてもらったけどー。 |
白夜 | メガテニストの論理を他人に強制するのは辞めて頂きたい。出す気があるのかないのかはっきりして頂こう。 |
ミシェル | 残念ながら地図はつけてないわー。がんばってマッピングしてねー? |
白夜 | そうか。なら仕方ないな。 |
ルナ | その…どのくらい危険か…とか、わかりますか…? |
ミシェル | んー、そうねー、その賢者が、誰かが入ってきて研究の邪魔をしないようにって、あちこちに罠を仕掛けてるのよー。魔道で命令した擬似生命とかも置いてあるしー、永い時が経つ間にモンスターとかも住んでるかもしれないしー、まあそんなところかしらー。 |
ルナ | やっぱり私みたいなのが行ったら…ええと…し、死んじゃいます…? |
ミシェル | んー、その可能性はあるかもねー。 |
ルナ | だとしたら生き残る術は…っ! |
ミシェル | この依頼を受けないことじゃないかしらー。 |
ルナ | う…ご、ごもっともです… |
リィナ | はいはーいっ!『当方が希望するもの』って何?何を探しに行けばいいの? 薬草?宝石?薬品?マジックアイテムを作るのに必要なのかな? |
ミシェル | あなたたちに探してきてもらいたいのはー、本よー。 |
ミケ | 本、ですか? |
ミシェル | ええー。遺跡の一番奥に、その賢者が研究をしていた部屋があるのー。そこに本があると思うんだけどー、それを持ってきて欲しいのねー。 |
アッシュ | ふむ。何かの魔道書というわけか? |
ミシェル | んー、まぁ、そんなようなものかしらー。 |
キャティ | それって、キャティにも見分けがつくものなのかにゃ? |
ミシェル | ええ、すぐにわかると思うわー。 それで、依頼書にもあった通り、それ以外のものでその遺跡にある物は私は要らないからー、見つけた人が自由に自分のものにしていいわー。 |
マジュール | あの、それって勝手にそういう風にしてしまっていいんですか…?その遺跡自体すでに誰かのものになっていて、その中にあるものに利権が絡んで勝手に取得物を自分のものにしてしまうと後で訴えられるとか、そういうオチじゃないですよね…? |
ミシェル | ……………… |
マジュール | ……だ、黙らないで下さいよ…… |
ミシェル | うふふー、ウソウソ。この遺跡は今は誰の物でもないし、ギルドが管理してるっていうこともないから、安心してごっそり持ってってねー。 |
マジュール | な、ならいいですが…メンバーの複数名が「欲しい」と言い出した場合にはどう解決しましょうか? |
ミシェル | んー、そこまでは私が決めることじゃないと思うけどー。最初に見つけた人がもらうのでいいんじゃなーいー?あとはアミダとか。 |
マジュール | そ、そうですよね…わかりました。 あとは…依頼の期限はありますか?帰ってくるか、全滅するまでってことでしょうか? |
ルナ | ぜ、全滅…ですか…? |
ミシェル | うふふー、こんなギャグシナリオで命落としたら切ないから全滅はないと思うけどー。そうねー、いついつまで、っていう期限は特には設けないわー。無理だと思ったら引き返してもらって構わないしー。当然、その場合報酬も必要経費もあげられないけどー。 |
マジュール | それは…そうですよね。わかりました。 |
キャティ | ミシェルさんは、どうして一緒に行かないのかにゃ? |
ミシェル | ……?どうして私が一緒に行かなくちゃいけないのー? |
キャティ | え。………そ、それもそうだにゃー…あり? |
ミシェル | うふふー、何か勘違いしたのかしらー?さっきも言ったけどー、最初から私は「私の代わりに探しにいってくれる冒険者」を探していたんだからー、私が行かないのはもはや必然よねー? |
キャティ | そ、そうですにゃ…変なこと訊いてすみませんでしたにゃ。 |
ミシェル | まあでもー、依頼人として細かい指示をしなくちゃいけないこともあると思うしー、あなたたちにはこれを持っていってもらおうと思うのー。 |
言ってミシェルが机の上にざらざらと広げたのは、手のひら大ほどの丸い金属板だった。中央に青い宝石のようなものが埋め込まれており、その周りにぐるりと魔道文字が彫り込まれている。 | |
レティシア | ………これは………? |
ミシェル | それは、私の声をあなたたちに伝えるマジックアイテムよー。どんなに離れていても、あなたたちは私に話しかけられるし、私の声をあなたたちに伝えられるわー。声しか伝えられないから、あなたたちの様子は見えないし、他のものを送ったりすることも出来ないけどー。 |
レティシア | そ…それって結構すごくない?!じゃあ、もしはぐれたら、これで仲間同士連絡を取り合ったりも出来るの? |
ミシェル | ああ、そうねー、そういう使い方も出来るわー。 |
レティシア | じゃ、じゃあ、ミケと離れ離れになってもいつでもこれで話が… |
キャティ | そ、そうだにゃ!なかなか会えないマジュールさんとも、これでいつでも話が… |
ミシェル | 言っておくけど、これを使ってした会話は私はもちろんこれを持ってる全員に聞かれるからねー? |
レティシア | あ、そ、そうか、そうよね………でも、こんな便利なマジックアイテムがあるのねー。 |
ミシェル | なかなかでしょー?私が作ったのよー? |
レティシア | えっ?!これ、ミシェルが作ったの?!すごーい!! |
ミシェル | 私、こういうのを作ったりするのが趣味なのー。マジックアイテムの開発っていうのー? |
アッシュ | む。では私のライバルという訳だな。 |
ミシェル | んー、科学とはまた違うからわからないけどー。もしよかったら、あなたたちにも作ってあげましょうかー?探索の助けになるでしょー? |
レティシア | えっ、本当?! |
ミシェル | そうねー、こんな効果があるものがいい、って言ってくれたら、まあできるだけ期待に添った物を作ってあげられると思うわよー。何でも言ってみてー? |
アッシュ | ふむ。何でも、とな? では、全ての魔法を効かなくするアイテム、というのを作ってみてもらおうか。 |
ミケ | マジックアイテムでそれは本末転倒なのでは… |
アッシュ | 魔道がこうした命題を如何に解決するかは興味深いところだ。 |
ミシェル | 魔法を効かなくするアイテムねー。他にはー? |
ミケ | …できるんだ… |
ルナ | ほ、欲しいもの欲しいもの…えぇっと、根気と体力と勇気と愛と希ぼ… |
リィナ | って、それアイテムじゃないって! |
ルナ | え、あ、アイテムですか。…遺跡に、行くんですよね…それなら…ど、毒蛇に噛まれても死なないお守りとか!!! |
レティシア | ど、毒蛇限定なの? |
ルナ | え、な、何言ってるんですか…! 遺跡っていったら落とし穴に落ちた先に毒蛇がいて噛まれて死んじゃうっていうアレに決まってます…! ああ後はお化けに会わない何かとか幽霊に会わない何かとか亡霊に会わない何かとか…!! あ!モンスターと会話できるお薬…とか…!ほら、仲良くなったら心強いじゃないですか! |
白夜 | …よっぽどお化けやモンスターが怖いんだな… |
ルナ | えっ、あ、あの………じゃあ、遺跡に仕掛けられてるかもしれない数々の罠を探り当てるアイテムとか更に回避できちゃうアイテムとか!モンスターを指一本で倒せちゃうアイテムとか! |
キャティ | さっきモンスターと仲良くなるとか言ってたんじゃなかったのにゃ?!アクマを殺して平気なの? |
ルナ | そんなメガテニスト限定のネタはいいんです! あとはあとは…仰天!3分でカップケーキができちゃうアイテムとか、 仰天!!お洗濯のシミがあっというまに落ちちゃうアイテムとか、 仰天!!!鼻から牛乳を飲んでもちっとも痛くならないアイテムとか… |
ゼクセア | だんだん伊○家の食卓になってきてるわね… |
ルナ | ああ…私、なんでも出来ちゃうなんてそんな御伽噺みたいなお話今まで聞いたこともなくって… |
ミケ | そんなこと言ってないと思いますよ。 |
ルナ | 凄いですね、凄いですよね…!急にたずねられてもどんなアイテムをお願いしたらいいのか……!! |
一同、沈黙。 | |
ルナ | …………あ………すいません、はしゃぎすぎました…… |
ミシェル | えーっと、鼻から牛乳を… |
ミケ | メモらないで下さい。いりませんから。 |
ルナ | あの…お水がなくならない水筒、とか。だってほら、お水って大切じゃないですか。 |
白夜 | そうだな。水も問題だが、私的にそれ以上に風呂が大問題だ。紳士たるもの常に身辺は清潔でなくてはな。女性もたくさんいるようだし、何日も風呂無しでは色々と問題が生じるだろう。「どこでも風呂」のような、好きなところで風呂に入れるものがあったら是非融通してもらいたいものだな。 |
キャティ | キャティも賛成だにゃ!せっかくマジュールさんと一緒にいられるのに臭くなっちゃったら二人の危機だにゃ! |
マジュール | 私はそんなことでキャティを嫌いになったりしないよ。 |
キャティ | マジュールさん…… |
花 | ……屋外で女性をお風呂に入れて何を企んでいらっしゃることやら。 |
白夜 | 何を言う花。なら君は私が1週間風呂に入らずに垢だらけで帰ってきても笑顔で迎えてくれるのかい。というかそんな状況は私が耐えられない。これは断固譲れないな。 |
花 | …まあ、信用いたしますけど。 |
白夜 | まああとは水つながりで食料か。もそう大量には持ち込めないから「一粒でおなかが一杯になる薬」などがあると便利かもしれないな。長期の探索も出来そうだ。 |
ミシェル | 水筒と、お風呂と、食料…ねー。あとはー? |
ミケ | そーですねー。あ、灯り欲しいですよね、油がいらなくて、こう、光を遠くまで届けられるような。ええっとー、光の方向を一定に集めることでその明度を上げて……え、なんですかポチ。それなんていうか知ってる。へぇ、何て言うんです?………懐中電灯? |
肩の猫(ポチ)と見つめ合うミケ。 | |
ミケ | ……すみません、ミシェルさん。この子の目から灯りというかビームが出るようにしてください。スイッチこの辺で。 |
ポチ | んにゃあああぁぁぁぁっ?! |
ミシェル | 改造ポチ中電灯……っと。 |
ポチ | んにゃあぁぁっ、にゃああぁぁっ!! |
リィナ | うーんと…音楽スキルがなくても吹ける 魔法のフルートとか!これでモンスターさん達にも音楽の素晴らしさを!むしろフルートでみんなを引き連れて「ハーメルンの笛吹き」? |
ミケ | それだとみんな遭難するんじゃ… |
白夜 | というか何がやりたいんだ一体… |
リィナ | うーん、不発かぁ。 |
キャティ | ネタかよ! |
マジュール | そうですね…脚力の上がるブーツを頂きたいです。 動作が機敏ではありませんので、戦闘時にすばやい敵と戦ったり、今回の遺跡調査の様に入り組んだ所を歩き回る為に、脚力を強化したいと思っています。 脚力といってもいろいろありますが…一番優先して頂きたいのは、足を早くする事です。 |
キャティ | さすがマジュールさんはよく考えてるにゃv うーんっとね、キャティは…もしも、中で迷子になっても外に出られるようなマジックアイテムが欲しいにゃ~。暗闇で目が見えても、以外と方向感覚は判らなくなるにゃ…「備えあれば嬉しいな」だよにゃ! |
ミケ | …これはつっこんだ方がいいんですか? |
白夜 | こんなあからさまな誘い受けに付き合ってやるのは隣の彼氏の役目だろう。可哀想だからやってやれ、彼氏。 |
マジュール | え、あの。……キャティ、それを言うなら「備えあれば憂いなし」ですよ。 |
キャティ | ううう……普通につっこまれるよりも惨めだにゃ… えっと、あとはこれも迷った時の対策でぇ、「マジュールさんの愛」が欲しいにゃ! |
ゼクセア | ……なに、それ? |
キャティ | 迷った時に使うと、マジュールさんが現在の位置を教えてくれるのにゃ!「キャティ、僕の位置は北(南)に○歩・東(西)に○歩・上(下)に○歩だよ」みたいな……きゃー!! |
レティシア | …ああ、「ロー○の愛」かぁ。懐かしいわねー。 |
白夜 | 竜を探す話の1など、今言って通じる人間がどれだけいるものやら。年齢がバレるな。 |
ミケ | しかもあれ、○ーラ姫がお城にいて動かないから位置が特定できるんであって、マジュールさんもキャティさんも動いてる状況ではあまり役に立たないんじゃ…? |
キャティ | いいのにゃ!キャティはマジュールさんと少しでも近くにいたいのにゃ! |
白夜 | すでに仕事という意識が皆無だな…マジュールも可哀想に。あれは別れ話を切り出しても「そんな、ひどい…!」で話を戻してはいと言うまで粘着するタイプだぞ。 |
キャティ | うるさいにゃ!別れ話とかそんなことありえないにゃ! |
ミシェル | はいはーい。あまり探索の役に立たないものまで作る余裕はないからねー? |
レティシア | そっかー、瞬間移動できるアイテムがあったらいつでもミケに会い放題だと思ったのに…手紙をすぐに出せるアイテムとかさー。 |
ミケ | レティシアさんまで…… |
ゼクセア | そうねぇ、私もそろそろ冒険者としては若くない歳だから……楽しそうな依頼だとは思うけれど、若干、体力的な不安もあるのよね。 こう、少し燻らせただけで筋肉という筋肉に力がみなぎってくる様な、速効プロテインというか、マッスルなドーピング刻み煙草なんて出来るかしらねぇ。 |
ミシェル | んー、お薬はあなたのほうが専門だと思うけどー。筋肉の作用を増強するマジックアイテムなら作れると思うわー? |
ゼクセア | そう、じゃあそれお願いね。 |
白夜 | そうだな、モンスター撃退用に、こちらの能力を上げるものもあると有利かもしれないな。やはり強力な必殺技でも使えるようなアイテムがいいのかな。一気にその場が露天風呂に変わって敵が全員引くような。もしくはペガサスが飛んできてさらって行くような。 |
ミシェル | マジックショーが始まったりカジノに変わったりするのねー。あれは二人のハートが一つにならないとー。ていうかこのネタ通じるのかしらー。 |
白夜 | 微妙だ。あとはそうだな…「望みのものが取り出せる袋」なんかはどうだ? |
ミケ | …それは、それでミシェルさんのお望みの魔道書取り出したら依頼終わっちゃうじゃないですか。 |
ミシェル | んー、触れた人の表層意識を読み取って物質として構成するように魔道を組み上げれば出来ないことはないけどー………実際ここにもあるし。 |
白夜 | あるのか?! |
ミシェル | でもねー、これってその表層意識にある物体の記憶を頼りに構成するから、記憶が曖昧だと適当なものが取り出されちゃうのよねー。例えば、さっき本屋で見たミステリー最新刊を取り出そうとするとー。 |
レティシア | ………月刊「薔薇の友」……? |
ミケ | その雑誌の記憶は鮮明なんですね、ミシェルさん。 |
ミシェル | まあそれはどうでもいいんだけどー。こんな感じになっちゃうものだからー、例えば飼っていた猫とかを記憶が曖昧なまま取り出そうとするとー。 |
白夜 | 実演しなくていいぞ切実に。 |
ミシェル | あら、そうー? まあそんな感じなのよー。それにー… |
ミシェル、そこで初めて笑みの形に閉じていた瞼を開く。淡い紫色の、穏やかな瞳の光。 | |
ミシェル | 私が欲しいのは、あの遺跡にあるあの本なの。精巧に作られた偽物では意味がないの。ごめんなさいね? |
白夜 | ……そ、うか。諒解したよ。 |
ミシェル、再びにっこりと瞼を閉じる。何事もなかったかのように、続けてメモ。 | |
ミシェル | でも、そのアイテムは作っておくわー。筋肉増強剤とー、脚力増強アイテムとー、ダンジョンから外に出られるアイテムとー、必殺技っぽいものが使えるアイテムとー、望みのものが取り出せるアイテムとー、えーっと、フルート? |
ミケ | いやそれはいりませんから。 |
リィナ | ミケちゃんひどーい!リィナ一生懸命考えたのにー! |
花 | あの、私も申し上げて構いません? |
ミシェル | いいわよー? |
花 | 出来れば白夜の身を守るものがいいですわ。ええもう白夜の身だけ守れれば十分ですけれど、余力があったら他の皆様も守れるような物は御座いませんかしら。 |
レティシア | 愛ねー…v |
ゼクセア | ……そう…? |
花 | 他には…遠距離攻撃が出来る物はないかしら。水晶に白夜と他の女性がいい感じになっている姿が映るのならば、釘でも刺してぐりぐりしたいですわ。ふふふふ。 |
ミケ | 遠距離攻撃って、花さんがするんですか…?っていうかそれ呪いじゃ… |
キャティ | 愛だにゃー…v |
アッシュ | ……そうか…? |
ミシェル | 身を守るものと、遠距離… |
白夜 | いやそれはいらないぞ。切実に。 |
花 | そうですわ、白夜に作るのではなく、私に作ってくださいませね? |
白夜 | ………… |
ミシェル | じゃあ、そんなところかしらー?アイテムは数日中に出来ると思うから、それを待って出発、っていう形になるわねー。 他に、何か質問はあるかしらー? |
アッシュ | 見た目は若いようだが、本当の歳は幾つだ? |
一瞬、空気が凍りつく。 | |
ミシェル | 10万26歳よー。 |
ミケ | うわそれも古いですね。 |
ミシェル | うふふふー、女にトシと体重は訊いちゃいけないわー?ご想像にお任せするとだけ言っておくわねー。 |
アッシュ | そうか。では10万26歳で。 |
キャティ | それで固定かよ! |
レティシア | うーん…… |
ミケ | どうしたんですか、レティシアさん。 |
レティシア | いや、ミシェルの名前ね、どこかで聞いたことあるなって。ミシェラヴィル…トキス……トキス? ねえ、ミカエリス・リーファ・トキスって、あなたの親戚? |
ミシェル | リーを知ってるのー?リーは、私の娘よー。 |
レティシア | 娘っ?!っていうことは、ミシェルってリーのお母さんなの?! |
リィナ | えーっ、リーちゃんのお母さんなの?! |
ミケ | そう言われてみれば……いや、驚きました。 |
ミシェル | ああ…この間の、ロッテの件ねー。じゃあ、あなたたちがリーの雇った冒険者なのねー? |
レティシア | うん。私はその仕事、途中で仲間に入れてもらったから、リーと会ったのは依頼が済んでからだったんだけど、さよならする前に色々お話したんだよ。っていっても、リーとロッテの事をあれこれ聞いただけだったから、家族の話ってしなかったんだよね。 そっか…リーのお母さんかぁ…。そう言われてみると、ほんわかとした雰囲気が似てるよね。 またリーに会いたくなっちゃったよ。 今頃、どこを旅しているんだろうねー。 |
ミシェル | ふふー、今度帰ったときに伝えておくわー。 |
レティシア | うん、よろしくね。 でも……わ…若くない?リーみたいにおっきな娘がいるとは思えないよー。若さの秘訣って何?今から参考にしたいよー。 |
ミケ | レティシアさん。ほら、リーさんのお母さんなら、当然…… |
レティシア | …っあ、そうか、てん…… |
ミシェル | ふふー、そうよー、秘訣っていうほどのものじゃないのー。お役に立てなくてごめんなさいねー? |
白夜 | 何だ?話が見えないぞ。ミシェルさんの若さの秘訣に心当たりでもあるのか? |
ミケ | あー……ええと、ちょっと僕らからは口にしにくいんですよ。ミシェルさんがいいって言うならいいですけど。 |
ミシェル | ふふー、私はちょっと、他の種族より長生きをする種族なのー。だからー、別に秘訣っていうほどのことじゃないっていうだけー。 |
白夜 | なるほどな。まあ深くは詮索しないでおこう。 |
ミシェル | でもー、若さを保つんだったらいい基礎化粧品があるわよー? |
レティシア | えっ、ホントホント? |
キャティ | キャティも興味あるにゃ! |
リィナ | リィナはミシェルさんの髪の毛も気になるよー。そのうねうねの髪、お手入れ大変じゃない?リィナも髪は綺麗にしときたくって… |
ミシェル | そんなあなたにはクルン印のトリートメント~。今ならシャンプーとセットで銀貨一枚よー。 |
以下、女性陣による化粧&ビューティートークに花が咲き、男性陣はげんなりして退室。彼らが旅立つのは、ミシェルがアイテムを作り終える三日後のことになる。 |
ミシェルの手配した船に揺られて1週間ほど。 一行は無事にゼゾの港に到着し、早速地図を頼りに遺跡に向かうことになった。 鬱蒼としたジャングルが冒険者達の行く手を阻む。 | |
キャティ | あーつーいーにゃー!!ずっとこんなジャングルが続くのかにゃー?! |
マジュール | そうですね…噂には聞いていましたが、想像以上の場所のようです。 |
レティシア | 私達は前に来た事があったけど…やっぱり暑いのと木がいっぱい生えてるので歩くのは大変だったわね。一番うざいのはこの……虫っ!なんだけどね… |
ルナ | 虫……は私も苦手です………えぐ。 |
白夜 | 女性は肌が気になるものなのだろうな。気にして足が遅くなるのは致し方ないところだが、それに合わせて図体のでかいのまでのたのた歩くのはやめたまえ。ただでさえ重い気分が余計に滅入る。 |
マジュール | あ、す、すみません…… |
キャティ | なにあれー!自分は浮いてるからすいすい移動できるだけじゃんにゃー!マジュールさん、あんなのにでかい顔されてちゃだめにゃ! |
マジュール | …しかし、歩くのが遅いのは事実だからね。頑張って早く歩くよ。 |
キャティ | でもでもむぅぅんっ……そうだにゃ!ミシェルさんからもらったアイテムを使うといいにゃ!足が速くなるブーツもらったんでしょ? |
マジュール | それもそうですね。これは確か……そのまま履けば足が速くなのわああぁぁぁぁぁっ?! |
道具袋から取り出したブーツを履いた瞬間、ものすごい勢いで走り出すマジュール。 どか、ばき、めきめき、と次々に木々をなぎ倒し、ついでに前を歩いていた仲間たちもはね飛ばし、もはや彼を止められるものなど存在しなかった。 | |
キャティ | ま、マジュールさあぁぁぁんっ?! |
白夜 | そこまで早く歩けとは言っていないだろう…あいたた。 |
ゼクセア | ちょっと…早く追いかけるわよ! |
なんとか体勢を立て直した冒険者たちが、疾風のように駆け抜けていったマジュールを追う。遥か前方で派手な衝突音と悲鳴のようなものがこだました。 | |
レティシア | な、何が起こってるの~?! |
キャティ | マジュールさんっ、今行くにゃー!!! |
最も足の速いキャティがたどり着いた先は、何かの祭りが行われていたような円形に開けた場所。派手になぎ倒された大きな柱に突っ伏すマジュール。柱の下では何かが燃えていたのだろう、衝撃で消えたとみられる焚き木がくすぶっている。 | |
キャティ | マジュールさんっっ!だ、大丈夫かにゃー?! |
ミケ | 何かのお祭りでもやっていたようですね。とすると、さっきの悲鳴は…祭りに乱入したあげく柱をなぎ倒した化け物に驚いて逃げていった人々の悲鳴でしょうか。 |
リィナ | ミケちゃん、容赦ないね… |
キャティがマジュールを介抱すべく身体を転がすと、その下から柱に括りつけられていたらしい何かが這いずり出てくる。 体長60センチほどの、金色の鱗と羽を持った… | |
ルナ | トカゲ………さん? |
アリヤ | トカゲちゃうわあぁぁぁぁぁっ!! |
ルナ | きゃあっっ!と、トカゲさんが喋りました! |
アリヤ | だからトカゲじゃないって言ってるだっち!! |
キャティ | あ、アリヤさん?! |
マジュールを介抱していたキャティが驚いて声を上げ、ようやくあたりをきょろきょろと認識するトカ……アリヤ。 | |
アリヤ | あなたは…確かサン・マリア島でご一緒した… |
キャティ | キャティだにゃ!どうしたにゃ、こんなところで柱に括りつけられて? |
アリヤ | それが……爬虫類を主食とするらしいこのあたりの民族に捕まってしまい…言葉も通じず、危うく彼らのランチにされるところだったのです。助かりました…ありがとうございました。 |
白夜 | どうしたんだキャティ嬢、トカゲの知り合いがいるとは驚きだな。紹介したまえ。 |
アリヤ | だぁらトカゲじゃないって言ってるっちよ!貴様の脳みそは簡単な言語も理解できないほどスカスカだらか?! |
白夜 | ほう、女性とずいぶん違う態度だな。見上げたトカゲだ。あいにく言語は理解出来てもトカゲ語を理解する知識はおろかその気もない。わかったらさっさと自己紹介しろ珍獣。 |
アリヤ | むきーっっ!!貴様、後で覚えてるだっちよ!……こほん。 お初にお目にかかります。私はアリヤ=D=スタインタールと申します。今はこのような姿をしておりますが、本来は黄金竜の種族に属す者。キャティさんとは以前共に仕事をした事がありまして…危ないところを助けていただき、皆様には感謝の念に絶えません。 |
アッシュ | ふむ、危ないところだったな。 |
アリヤ | はい、ありがとうございました。……それで、皆様はこのような奥地で、何を…? |
キャティ | キャティたちはお仕事でここに来てるにゃ。 |
アリヤ | お仕事……? |
かくかく、しかじか。 | |
アリヤ | なるほど…遺跡探検ですか。ゼゾには発見されていない古代の遺跡や洞窟が数多く存在すると聞いています。そのような遺跡になら、もしかしたら私の呪いを解く方法が存在するかもしれないと思い、ゼゾに来たのですが… 聞けば、魔道の職についている方が依頼人だとか。ということは、その方が求めるものがある遺跡には魔法に関係する何かがあるかもしれません。もしかしたら、彼女自身が呪いについて何か知っているやも…… 助けていただいたところ大変恐縮なのですが、よろしければ皆さんの仕事に私も同行させてはいただけないでしょうか…? |
ミケ | どうでしょう…依頼人に話を通してみないことには… |
アリヤ | そうですか…依頼人は遠くヴィーダの地にいらっしゃるのですよね。それでは無理… |
レティシア | 今訊いてみるね、ちょっと待ってて。 |
アリヤ | えっマジで? |
レティシア | ミシェルー、聞こえる?聞こえたら返事してー? |
ミシェル | ………ぁ……ぃぇ…うふふふー、花も充分綺麗なお肌をしているわー、人生まだまだこれからよー? |
花 | そうですわよね、甲斐性無しの夫に縛られているだけでは勿体無いですもの、まだまだ私も一花も二花も咲かせて見せますわ。 |
マジュール | まだ続いてたんですね、化粧談議… |
白夜 | というか今看過できない発言があったようだが。 |
ミシェル | あらー、通信入ってたのねー。どうしたのー? |
ミケ | あの、この依頼に参加したいというトカゲさんがいらっしゃるんですけど。 |
アリヤ | だからトカゲじゃねえって何度言えばわかるっちどいつもこいつもー!!! |
かくかく、しかじか。 | |
ミケ | …というわけなんですけど、どうでしょう? |
ミシェル | 私は別に構わないわよー?トカゲの一匹や二匹。 |
アリヤ | いえあの、本当にトカゲじゃないんですけど…こん中にマトモなヤツはいないんだらか…… |
キャティ | じゃ、片付いたところでトカゲのことなんて置いといて! |
アリヤ | まだ言うか! |
キャティ | ミシェルさん、マジュールさんのブーツどうなってるんだにゃ?!足速いにもほどがあるにゃ!! |
ミシェル | えー、だって速くなったんでしょ?お望みどおりじゃなーい。 |
ゼクセア | …考えたくないけど…私がもらった、この筋肉増強スプレーも… |
ミシェル | そうそう、筋肉つけたいところにスプレーするだけであら不思議ー。 |
ルナ | ぜ、ゼクセアさんが腕だけばくだん岩みたいになってますー!! |
レティシア | キモっっ!! |
ゼクセア | ちょ……いくらなんでもこれはないんじゃない……? |
ミシェル | えーと………努力しないでモノばかりに頼るとロクなことにならないっていう…… |
ミケ | 無理矢理教訓話にもってこうとしてますね? |
というわけで、新たなパーティーメンバーとミシェルの効果絶大すぎるマジックアイテムとともに、一行は再び進んでいく。 やがて日も落ち、適当なところで野宿をすることになった。 | |
白夜 | …この辺りが適当か。さて、野宿のしたくでもするか。まずは水源の確保だな。 |
ルナ | あ、あの……み、ミシェルさんにいただいた、お、お水のなくならない水筒を…っ、あの、その…… |
白夜 | おお、そうだったな。早速使わせていただこう。 |
ルナ | あ、は、はい、え、と、確かこの蓋を開けんきゃああぁぁぁぁっっ?! |
リィナ | なにー?!いきなり大洪水?! |
アリヤ | 絶体絶命都市だらー!!火を、火を確保するだらよー!! |
ゼクセア | ルナ、早く、早く蓋を閉めて!! |
ルナ | そ、そんなこと言われても……うぅぅっ、えぇいっ! |
マジュール | と、止まった… |
ミケ | 白夜さん、真っ先に飛んで逃げましたね… |
白夜 | 当然だろう。風呂を要求はしたが服ごとずぶ濡れになるのは御免だ。 しかし、ミシェルさんも半分冗談でアイテムを作っているのではあるまいな…ここまで効果がありすぎるアイテムというのも困りものだぞ。 |
キャティ | このパターンだと…白夜さんの「一粒でおなかいっぱいになる薬」も…… |
白夜 | …そうだな、出してみるか…(ごそごそ) |
レティシア | 一粒でかっっ!! |
アッシュ | 間違いなく一粒でおなかいっぱいにはなるな。 |
ミケ | ………ご飯、何か作りましょうか。 |
マジュール | あ、なら私が… |
レティシア | 私も手伝う~。 |
ゼクセア | じゃあ私は安全な水を確保してくるわ。 |
キャティ | キャティは向こうから湿ってない薪を集めてくるにゃん! |
ルナ | あ、じゃ、じゃあ私も薪を探してきます… |
アリヤ | あなたのようなか弱い少女一人では大変でしょう。私も同行します。 |
ルナ | あ、ありがとうございます、トカゲさん。 |
アリヤ | いいかげん名前で読んでくれないにら… |
というわけで、それぞれ野宿のために分担して仕事をすることに。 ルナはアリヤと連れ立って少し離れたところで薪集めをしていた。 | |
アリヤ | これくらいでいいでしょうか、ルナさん。 |
ルナ | あっはい、ありがとうございます、トカゲさん。 |
アリヤ | ルナさん…その、何度も言いますが私はトカゲではなくドラゴンで… |
ルナ | あ、わわ、ごごごめんなさいッ、トカゲじゃないんですよね、トカゲさん。 |
アリヤ | ……ですから、私は呪いでこのような姿にされているだけで。れっきとした竜族の男性で、故郷に帰れば妻も子もいるのですよ。 |
ルナ | そう…なんですか?私、男の人ってちょっと怖いんですけど、トカゲさんなら全然怖くないです! |
アリヤ | もうトカゲでいいです…… |
ルナ | 奥さんにお子さん…かぁ……はぁ…… |
アリヤ | どうしたのですか、そんなため息などついて。 |
ルナ | トカゲさん…トカゲさん、聞いてくれますか? わ、わ、私恋しちゃったみたいで…っ!! |
アリヤ | こ…恋、ですか……? |
ルナ | はいっ、なんだか急にドキドキしちゃって胸が痛くて苦しくてあれれ死んじゃうかもってなってもうどうしたらいいか頭ぐるぐるしてて…… |
アリヤ | それは、かなり重傷ですね…して、どなたに? |
ルナ | えっと、最初はなんか綺麗だけど近寄り難い人だなーって思ってたくらいなんですけど、あの瞳に見つめられちゃったらもうダメになっちゃったんです…なんだか綺麗で大人っぽくて…”王子様”みたいな上品さがあって…!!もうそう思ったら目も合わせられなくなっちゃったんです…はぁ… |
アリヤ | …待ってください。あまり認めたくないですがあの集団の中で近寄り難い美形というか一種ご主人様的な不遜さを持ち合わせている男性と言ったら… |
ルナ | 白夜さん……です……v |
アリヤ | やっぱり……… |
ルナ | …はぁ、でも、奥さん綺麗な人でした…。私にはとてもかないません!! あーーん、トカゲさああぁぁぁぁぁああああんっ!! |
アリヤ | 待ってください!あの男は妻のいる身でありながらあなたに色目を…?! |
ルナ | 奥さんとっても綺麗で、白夜さんを深く深く愛してらしたんですー、聞いてますかトカゲさん?!私もうどうしたらいいんでしょうー?! |
アリヤ | いえあの私の話聞いてます? |
ルナ | あの、そういえばトカゲの尻尾を煎じると惚れ薬になるって、どこかの胡散臭いおまじないの本で読んだんですけど… |
アリヤ | 何見てるだら?!胡散臭いって自分で言ってどうするだっち?! |
ルナ | いえっ!じょじょ冗談ですっ! |
アリヤ | 冗談と言いつつさりげなく尻尾を掴んだその手はなんだらー?!あああ、やっぱりこういうオチになるにらー!! |
翌日。 滞りなく野宿を済ませ、地図を頼りに一行は遺跡の入り口にたどり着いた。 | |
ミケ | ここですか…… |
マジュール | 結構大きいですね…しっかりした建物のようですし。これを魔道で造り上げた賢者は相当な腕の持ち主ですね。 |
ルナ | あ、あのっ、モンスターとか……出るんですよね…? |
アッシュ | 心配は無用だ娘御。生け捕りにして持ち帰り、科学の発展のために骨の髄まで使い尽くしてくれよう。 |
ルナ | でっ、でも、罠とかが…! |
アッシュ | 罠?罠などというものはそもそも与えられた通路をそのまま進むから引っかかるのだ。 我が頭脳をもってすれば、目的地まで一直線、地中を進む地底戦車を開発することは簡単なことだ。 |
ゼクセア | 何言ってるの。そんなことしたら遺跡が壊れちゃうじゃない。 |
アッシュ | あぁ、そのような些細なことを気にすることは無い。過去の遺物に縋るような物悲しい生き方は唾棄せねばならんぞ? |
ミケ | というかそもそも、目的地の位置がわからないのに一直線に進むことなんて出来ないんじゃないですか? |
アッシュ | …………………………想定の範囲外だったな。 |
レティシア | 想定狭っ。 |
リィナ | まあとにかく、入ってみようよ。モンスターが出てきてもリィナが退治してあげるからさ♪ |
ルナ | あっ、いえでもっ!ッだだだ大丈夫です! 逃げも隠れもしません!!ふ…笛で殴ってやります!!どこからでもかかって来………あの、やっぱり正面からでお願いします…… |
キャティ | 誰に言ってるにゃ! |
というわけで、中へ。当然真っ暗なので、白夜の肌から放たれる光と携帯ポチ型ランタン(本人…本猫の激しい抵抗による妥協作)、それにアリヤのライトブレスで先を照らしながら進む冒険者達。 そして、さっそく奥の方から生々しい息遣いが近づいてきた。 | |
リィナ | おっ、早速お出ましだね! |
ルナ | ってモンスター!?いいいイヤーーーーーーーーーーーーー!!どこどこどこですかーーーーーーーーーーーーーッ!? |
キャティ | キャティより早く逃げられたにゃ…… |
アッシュ | はっはっは、任せておきたまえ諸君、このようなモンスター、私が生け捕りにして持ち帰り、化学の発展のために骨の髄までぐふあぁっ! |
マジュール | ああっ!アッシュさんがモンスターに骨の髄までしゃぶられるために生け捕りにして持ち帰られようとしています! |
ゼクセア | 戦闘の経験もないヤツが大きなことばっか言うからよ…ほら、行くわよ! |
リィナ | 了解っ! |
あっという間に倒される、もはやどんな姿なのかも描写されなかったモンスターたち。手抜き言うな。 | |
リィナ | ふー、あぶないところだったねー。 |
アッシュ | ふ、科学の発展に障害は付き物だな。 |
白夜 | そういう問題か……? |
ルナ | ももも、モンスターは……… |
リィナ | もう倒しちゃったよー。 |
ルナ | ……へ?…あ…えぇと……逃げも隠れもしません……二度目から…… |
レティシア | あ、モンスター。 |
ルナ | えぇぇぇ!!また出た!?イヤアアアアアーーーーーーーーーッ!! |
レティシア | ……冗談だったんだけど…ものすごい勢いで逃げちゃったね… |
アリヤ | 先が思いやられますね…とにかく、追いかけましょう。 |
レティシア | ルナー!ごめんごめん、そんなに驚くと思わなくてさ。大丈夫? |
ルナ | あの、その…逃げも…隠れもしません…来週からは…いえ、…太陽が西から昇った日だけは…逃げも、隠れも……。 |
ゼクセア | はいはい、そんなに無理しなくていいから。私の後ろにでも隠れてらっしゃい。 |
ルナ | あ、ありがとうございます…あのでも…… |
ゼクセア | ん?なあに? |
ルナ | あの。びっくりした拍子に変な突起を踏んじゃったんですけど…コレ…あ、あ、足どけるべきですか…!?どけないべきですか…? |
がっこん。 | |
ルナ | んぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーッ!! |
ゼクセア | ルナ!! |
リィナ | ルナちゃん!! |
ルナ | ぶんぎゃっっ!!…ったたたたた………うう、何ですかこの中途半端な落とし穴…… |
ミケ | ホントだ。3メートルくらいですか…微妙なサイズですね。 |
レティシア | それにしても、すごい叫び声だったわよ、ルナ。 |
ルナ | う、う。人間…その…死にそうな時はそれくらい… |
アリヤ | それくらいじゃ死なないと思いますよ…どうでもいいですが私の尻尾を苦し紛れに掴むのは辞めていただけませんか…一緒に落ちたじゃないですか… |
ルナ | う。死ぬかと思ったんです、…なんとなく死ぬかと思ったんです…!! って、イヤーーーーー!!蛇ーーーーーーーーー!毒へ…… |
リィナ | 落ち着いてルナちゃん、ほら、ロープロープ。これ使って登ってきなよ。 |
ルナ | あ、ロープ……ありがとうございます…。 |
マジュール | しかし、遺跡の中にはこんな罠が幾つもあるんでしょうか……慎重に行動して、できるだけ引っかからないようにしないといけませんね。 |
キャティ | あれ?このボタン何だにゃ? |
白夜 | と言ってるそばから妙なものを押すんじゃなのわあっ! |
キャティ | あー、下から針山が出るスイッチだったにゃ♪ |
白夜 | だったにゃ♪で済ませるなこの勘違い萌え大明神。おい飼い主、ペットの管理は飼い主の責任だろう。余計なことをしないように躾けておき給え。 |
マジュール | 飼い主って、私のことですか…? |
キャティ | キャティはペットじゃないにゃ! |
さらに探索を続ける一行。 遺跡内は思ったより深く複雑な構造をしているようだった。 やがて、ずるっ、ずるっ、という奇妙な音が奥から聞こえてくる。 | |
リィナ | またモンスターかな? |
ルナ | く、来るなら来るのです!返り討ちにしししてあげますから! |
白夜 | ゼクセア嬢の背に隠れながら言っても説得力はないぞ… |
ミケ | 来ますよ………あっ、あれは! |
マジュール | 蛇ですっ!大蛇ですっっ! |
レティシア | きゃあぁぁぁ~ん、絡まれちゃったわぁ、助けてミケ~んv |
リィナ | …レティシアちゃん、なんだか嬉しそうだね。 |
白夜 | 助けてやったらどうだ、魔王。 |
ミケ | その呼び方はやめてくださいっ!…えー、こほん。 レティシアさん、今助けますから!ファイアーボー……… |
レティシア | ちょっ、ミケ、タンマタンマ!私まで燃えるから!! |
ミケ | あ、そ、そうですよね……ええと…風よ、我が意に従え! |
レティシア | ふぅ……助かったわ、ありがとうミケv |
ミケ | いえいえこのくらいおやすいごようですよははは。 |
白夜 | 見事な棒読みだな…… |
キャティ | けど、罠っていっても大したことないにゃ!ワンパターンだし…あ、このボタンは何だにゃ? |
白夜 | だから何でも押してみるなと…… |
マジュール | キャティ、あぶなぁぁぁぁぁいっ! |
どん、がこん、ばべん。 キャティを突き飛ばし、彼女の下に開いた落とし穴に代わりに落ちるマジュール。 | |
キャティ | マジュールさあぁぁぁんっ! |
マジュール | キャティ…大丈夫ですか…? |
キャティ | マジュールさん…キャティを庇って… |
マジュール | 君のためなら…これくらいなんでもないさ…… |
キャティ | マジュールさあぁん…v |
白夜 | さ、先を急ぐぞ。 |
キャティ | えええええスルーっすか?! |
ルナ | ダメですよキャティさん、真面目にやらなくちゃ…ミシェルさんのお探しの本を、絶対持って帰るんですから…ってなんだか今ぷちっていう音がしませんでした? |
キャティ | はっ?!このパターンだとそろそろ……… |
マジュール | キャティ、何をきょろきょろしているんですか? |
キャティ | にゃーんてね☆金タライの罠なんて、どこにでも有るわけな |
ばべん。 | |
キャティ | んにゃああぁぁぁっ!また来たにゃー!! |
ミケ | …とりあえず罠を作った人のセンスを疑いますが……どうやらそれだけではないようですよ。 |
レティシア | ……なに…?この匂い……… |
ルナ | ま、まさか毒ガス…?!きゃあぁぁぁっ! |
ゼクセア | ルナ、しっかり! |
ゼクセアがルナを抱き上げ、総員でその場を駆け抜ける。 ルナ、ゼクセアの腕の中でうなされる。 | |
ルナ | ああぁっ……あぁ…おおぉぉ……男の人がっ……!マッチョで健康そうな角刈りの男の人がっ……!ひゃ、百人で走ってくきゃあぁぁぁ……っ |
ゼクセア | 気絶しちゃった……苦手なものの幻影でも見せるガスだったのね。 |
アリヤ | 角刈りマッチョが100人で押し寄せてくるのが大好きだという人はあまりいないと思いますが… |
ミケ | とにかく、急いでガスの出ている地帯を抜けましょう! |
レティシア | はぁ、はぁ、ま、待ってみんな~……きゃあっ! |
ミケ | レティシアさん?! |
レティシア | ゆ…床が!! |
最後尾のレティシアの後ろから、ガラガラと崩れていく床。 | |
リィナ | レティシアちゃん、早く!走って! |
レティシア | 言われなくても走って…や、きゃ、ちょっ、無理無理無理!助けてミケえぇぇっ! |
ミケ | レティシアさんっ!! |
キャティ | んにゃああぁぁっ、前からは大岩だにゃー!! |
マジュール | キャティいぃぃぃっ!!くそおっ、この足が…っ!もっと早く動けば…! |
キャティ | マジュールさあぁぁぁんっ! |
マジュール | キャティ…手を……っ! |
ゼクセア | ダメ……間に合わない…! |
アッシュ | こんな時に非常用罠粉砕装置があればっ……! |
白夜 | 何だそれというツッコミは可なのか?!というか私の服の裾を掴むんじゃないトカゲ!お前には立派な翼があるだろう?!自分のことは自分でやれと学校で教わらなかったのか?! |
アリヤ | うるさいだっち!俺もシッポつかまれてるんだらよ!お前だけ一人飛んで楽はさせないっち! |
リィナ | あーっ、もーダメだーっ!! |
大岩を避けようとして、全員穴に落ちる。 そして、暗転。 |
闇の中、顔に落ちてきた雫で目を覚ますリィナ。身を起こし辺りを見回すと、暗闇の中にぼうっと光るものを見つける。 | |
リィナ | ……あれ……ここは…… |
ルナ | その声は…リィナさんですか…? |
リィナ | あ、ルナちゃんだね。大丈夫?何か結構落ちちゃったみたいだけど… |
ルナ | あ、えっと、ちょっと痛いけど、大丈夫です……他の皆さんは… |
リィナ | ちょっと状況わかんないや……あの、あっちで光ってるの、白夜さんかな? |
ルナ | えっ、びゃ、白夜さん…? |
白夜 | いたたたた……しこたま落ちたものだな。君たちは大丈夫かい。 |
リィナ | うん、大丈夫だよ。でも闇の中でも光って、便利だよねー。ランタンいらず! |
白夜 | あまり褒められている気がしないが…とりあえず、ここに寝ているのは誰だ? |
アリヤ | あいたたたた………ひどい目にあったっち…… |
ルナ | その声は……トカゲさん?! |
アリヤの声とともに起き上がったのは、がっしりとした体躯の成人男性だった。肩口までの金髪に青い瞳。黒い皮製のフード付きマントに長さの違う二本の剣。あの羽付きの珍獣とは似ても似つかない。 | |
ルナ | あの、トカゲさんはどこに隠れちゃったんですか…? |
アリヤ | …ええと、私が正真正銘、本物のアリヤですが……私にかけられた呪いは、強いショックで一時的に解け、本来の姿に戻る事が出来るんですよ。 |
ルナ | ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええええッ!? あ、あの!あのッ!!トカゲさんは!?えぇぇーーーっ!? |
白夜 | ほう、では常に殴り続けていれば人間の姿を保てるという訳だな。 |
アリヤ | お前は俺様とどんなプレイをするつもりだっち?!全身全霊でお断りにらよ!! |
リィナ | へー、すっごいんだねー……って、どうしたのルナちゃん、リィナの後ろに隠れちゃって。 |
ルナ | うぅぅ、人になったら背は高いし、なんだか怖いぃぃぃー…。 |
アリヤ | あ………あぁ。今回はそれほど持ちませんでしたね…… |
アリヤの身体がほのかに光り、縮んでもとのトカゲに戻る。ルナ、ほっとしたようにリィナの後ろから顔を出す。 | |
ルナ | ほっ……元のトカゲさんに戻りました…… |
白夜 | まぁとりあえず、ざっと見たところこのあたりには私達しかいないようだ。あたりを探索して現状確認をせねばなるまいな。 |
リィナ | あ、じゃあリィナ、ルナちゃんとあっちの方見てくるね!イフちゃーん、ちょっとこの辺照らしてくれない? |
自らの精霊を召喚し、リィナはルナと探索を開始する。と、アリヤが白夜の袖をちょいちょいと手繰り寄せた。 | |
アリヤ | 丁度いい機会だっち。ちょっとつきあうだら。 |
白夜 | 何だいきなり。私にはそんな趣味はおろか興味もない。 |
アリヤ | はっ?趣味?………ブァカかお前はーッ!何で俺様がお前と趣味のレース編みを岩陰でやらなきゃならないんだっち!暗くて網目が乱れるわっ!! |
白夜 | そんな趣味があるのか…その手でどう編むんだ。まぁ、何にせよトカゲと話す事など持ち合わせていない。 |
アリヤ | お前に話すことはなくっても俺にはあるんだらよ。とにかくまぁ来てくれ、悩める婦女子のために一肌脱いでもらうだっちー。 |
白夜 | 女性の望みとはいえ私はお前と裏の世界に行く事など断じて断る。 |
アリヤ | ちげぇよ!腐ってない方の婦女子だらよ!ピチピチもぎたてピーチからの相談だら!お前と俺のメイクラブvなんて誰も望んでないだらよ!ほらっモニターの前で読者様が引いてるし!! まぁとにかく込み入った話があるんだらよ。時間は取らせないだっち、行くだらよー |
白夜をぐいぐいと引っ張り、女性陣の見えない岩陰まで連れて行くアリヤ。 | |
白夜 | で、何を話すというんだ。 |
アリヤ | こういうことは初めてなもんで、何から初めて何をどうすればいいのかよくはわからないんだらが…まぁ俺なりに頑張ってみるからまずは黙って聞いてくれ。 |
白夜 | 安心しろ既にぐだぐだだ。 |
アリヤ | えーと…お前に妻がいることはわかっているのにこんなことを言うのはアレなんだらが… |
白夜 | なら言うな。お前の胸に秘めておけ。その方が時間も費やす言葉も無駄にならない。 |
アリヤ | 言わずに済むことならわざわざ呼び出したりしないだら!言わなきゃならんからこーやって、人目を忍んで話してるんだっち!お前は何処にでも履いて捨てるほどいる”傷つくことを恐れ他人との関わりを拒絶するけど実は寂しがりやで打ち解けたら一番人格変わってオイオイお前誰やねんと思わず突っ込みたくなる”キャラか!そうなのか!? |
白夜 | はっ、そのタイプの萌えはすでに何処ぞの公務員で満たされているから私の役目ではない! |
アリヤ | まったくもう、こんな男の何処に惚れたんだら… |
白夜 | 彼女が誰だか知らないが目はいいようだな。 |
アリヤ | 確かに目はいいだらな、でも観察眼は最悪だっち。瑞々しい緑に映える黒い縦縞の綺麗さに騙されうっかり皮が分厚くて種ばっかりのスイカを買ってしまい、家に帰って割ってから後悔するタイプだらよ彼女。俺は出来ればそんな苦い思いを彼女させたくないんだっち…(ほぅ)で、こうして食用にはならないスイカのようなお前と話をしてるんだら。 |
白夜 | 誰がスイカだ。私は安く見積もっても銀貨で釣りがくるような値段ではないぞ。一時間買いたいなら金貨3枚は出して貰おうか。 |
アリヤ | ほら!(ちゃりちゃりん) |
白夜 | …今何処から出した? |
アリヤ | それでその彼女のことだらが |
白夜 | 無視するなァァァ! |
というか、アリヤさんが白夜さんを買ったという事実につっこんでいいですか。 | |
アリヤ | えぇい、どいつもこいつもうるさいだっち!とにかくだら!妻のいる身でありながら他の女性をたぶらかすなど男の風上にも置けないっち! |
白夜 | 私は女性を誑かした覚えなどないぞ、失礼な言いがかりはやめてもらおう。まぁもっとも、私はこの外見で女性が『入れ食い』どころか池のそばに桶を置いておいただけで勝手に魚が飛び込んでくる状態すなわち『桶』だと言われたことはあるがな。 |
アリヤ | むきゃーっっ!お前のような男がいるから若者の風紀が乱れまくりだっち!さっきからだっちだっち言ってるといちいちカタカナに変換して卑猥でしょうがないだらよ! |
白夜 | それはGMのパソコンがそういう仕様になっているということだろう。 |
ほっといてください。 | |
アリヤ | とにかく!お前には一生を添い遂げる相手がいるんだら?!その気がないんならきっぱりと断るにらよ! |
白夜 | 告白もされていないのに何を断れと言うんだ。 |
アリヤ | そもそも!男は黙って女に従う!女の剣となり女を守る!時には鎧のように女性を包み込んで守ることも必要だら!つまり結婚とは相手と共に戦場に繰り出し命果てる時まで共にする覚悟がなければできないもの!お前にはその覚悟ができてなーい!! |
白夜 | どこの世界の覚悟だ。お前の脳内夢物語は結構だ、私に押し付けるのは辞めてもらおう。 |
アリヤ | 立派な伴侶がいるというのに未来ある婦女子をたぶらかすとは何事だポコペン! |
白夜 | お前の頭の方が何事だ。意味のわからない単語を使うな。 |
アリヤ | あと鞄に納豆を入れるな匂うから!! |
白夜 | 納豆?!花が入れたのか?! |
そして、もはやどう控えめに見ても決して内緒話とは言えない大音量で言い合いをしている二人を遠くから生暖かい目で見つめるリィナとルナ。 | |
リィナ | ………いつ止めたらいいかなー…… |
ルナ | ああ………私もあんな風に白夜さんとお話できたら…… |
リィナ | え、それマジで言ってる? |
アリヤと白夜の言い争いはしばらく終わりそうになかった。 いっぽう、そのころ。 別の場所に落下していたマジュール、キャティ、ゼクセアは同様に目を覚ましていた。 | |
マジュール | うーん……ここは…… |
キャティ | マジュールさん?マジュールさんだにゃ? |
ゼクセア | あいたたた……大丈夫?他のみんなはいる?…もう、こう暗くちゃ何も見えないわ… |
マジュール | と、とりあえず松明をつけますね…… |
キャティ | おわ。明るくなったにゃ……マジュールさん、無事でよかったにゃ! |
マジュール | キャティも…… |
ゼクセア | けど……私達のほかには誰もいないみたいね……周りも岩壁だらけだし…他のみんなは大丈夫かしら… |
キャティ | 完全にはぐれちゃったみたいだにゃ……とりあえず、色々探してみようにゃん。 |
マジュールの松明を頼りに、洞穴をひたすら進む3人。 やがて、少し開けた場所に出た。 | |
キャティ | 行き止まりにゃ……? |
マジュール | こちらではなかったようですね…引き返しましょうか。 |
ゼクセア | 待って。ここ…何かありそうじゃない? |
ゼクセアの言葉にマジュールが松明を高く掲げると、炎の明かりに照らされて石碑のようなものが浮かび上がる。 高さ一メートルほどの形の整った石が、横一列に、合計7つ。 ずらりと並んだ石の前に、何かが書かれた石版。 | |
ゼクセア | 明らかに、誰かの手によって作られたものね。 |
キャティ | 石のでっぱりの方には、何も書いてないにゃ…おわ?! |
ごりごりごり。 | |
キャティ | この石…動くにゃよ?! |
マジュール | 本当だ…何かの仕掛けでしょうか。 |
ゼクセア | だとすると…この石版も関係しているんでしょうね。 なになに… |
さあ うたいましょう たびだちのうた ドーナツ・みんな・そら かなしみのうた レモン・ファイト・ラッパ まもののうた レモン・そら・しあわせ | |
キャティ | ……………… |
マジュール | ……………… |
ゼクセア | …………………なにこれ。 |
いっぽう、そのころ。 ようやく口論し疲れた白夜とアリヤは、リィナ、ルナとともにあたりを探索し、やがてこちらも少し開けた場所にたどり着いた。 | |
アリヤ | 行き止まり…でしょうか。 |
白夜 | 地底湖のようだな。水は澄んでいるが… |
ふよふよ、と、湖の上を移動して辺りを見回す白夜。同様にアリヤもパタパタとあたりを飛び回る。 | |
白夜 | ふむ。この上は空洞になっているようだ。上に行けば何かがあるかもしれないが…飛べるのは私とそこのトカゲだけだな。 |
アリヤ | トカゲ言うなっち!……むーん…そちらに大岩で塞いだようなところがありますね。あの向こうにも何かがあるかもしれません。 |
ルナ | あ、あの……こ、ここになにか、スイッチのようなものが………押すべきでしょうか、それとも…?! |
リィナ | うーーーーーん………… |
いっぽう、そのころ。 やはり同じように別の場所へと落下したミケとレティシア、それにアッシュが途方にくれていた。 | |
アッシュ | …………何だこれは。 |
ミケ | ええと………衣装棚、だと思いますよ。 |
探索を開始した三人の前に現れたのは、『新たな自分を見つめなさい』というプレートが下げられた扉と、その隣のやたらと充実した衣装棚。 全て女物で、メイド、チャイナ服、ナース、緋色の襦袢、ウェディングドレス、ボンデージなど各界のニーズに完全対応。どれでも好きなものを選んでくださいということだろう。 ちなみに、扉は押しても引いても横にも上にも下にも開かない。扉のメッセージからすると、衣装棚の何がしかを身につけないと開かない、ということなのだと察せられる。 | |
レティシア | な、ナースにメイド………こんなカッコやあんなカッコしたミケが…ご、ご主人様、御用でしょうか?とかあああああああ頭が破裂しそおぉぉぉ!! |
一人エキサイトするレティシアをよそに、ミケは深く深くため息をつく。 | |
ミケ | どぉして僕にだけイロモノ志向を求めるんですかー?! |
アッシュ | 運命だ、諦めろ。 |
冒険者達の受難はまだまだ、続く。 |