1.「大丈夫」が君の口癖
2.噂に戸惑ったりすることも
3.泣けない弱さ
4.ほらね、やっぱり勝てないや。
5.あなたの為なら、これくらい楽勝。
6.ありがとう、傍にいてくれて。
7.弱い君の、それを含めて全部、

1「大丈夫」が君の口癖

「ね、だから大丈夫よ」
にっこり微笑んでそう言った瞬間、侍従長は嫌そうな顔をした。
「やだ、ミケ。可愛い顔が台無し」
「可愛くないです!そうじゃなくて」
持っていた書類を渡そうとしないミケに、リリィは両手を差し出す。
「終わらせますって、大丈夫」
「……ええ、きっと終わるんでしょうね。でも」
そっとその前髪をかき上げつつ額に触れる。
……冷たい。
「きっと、それはあなたの口癖なんでしょうけれど。だからこそ……心配ですよ」
そうやって無理を重ねると知っているから。
その笑顔が、不安になる。
「……そう言って心配するのは、ミケくらいだけれど」
「そうですか?」
「ええ。……しょうがないですね、明日には終わらせます、に変えます」
「そうしてください」
「私の猫さんが構ってくれってうるさいからー」
「…………それで仕事早めに切り上げてくれるなら、それでもいい」
ため息をついて。苦笑を浮かべて。
「……構ってくださいよ」
「わかりました、キリの良いところまで終わりにしたら、構ってあげます」
くす、と笑って言ってから、ふとリリィは言い直す。
「私のことも、構ってくれる?」
「勿論」
「……ほんとに?」
「大丈夫ですよ、分かってますって」
「……あなたの、その「大丈夫」も、充分不安だと思うの」

真顔でそう言った女王に、侍従長は不満そうに「えー?」と声を上げたのだった。

2.噂に戸惑ったりすることも

「なぁに?」
「いえ」
部屋に入ってきて、何も言わずに自分を見つめていたミケにリリィはくすりと笑った。
「お見合いの話でも聞きました?」
「ええ。……そういうの、やっぱりあるんですね」
「で、どう思いました?」
くすくす笑う女王に、ミケは苦笑した。
「どう、とは?」
「あら、何も思わないの?」
「何も、というか。……女王って言うのは面倒なんだなぁって」
「そうなんですよー」
「お疲れさまです、お茶をお持ちしましょうかね」
「……それだけ?」
「ええ、そうですが。何か?」
言われて、リリィはいつもの微笑みを浮かべて、いいえ、と答えたから……ミケは手を止めて、歩み寄る。
「僕に、あなたも何か言うかなって思っていました」
ミケはぽんぽんとリリィの頭を軽く叩く。
「……僕は、国のために身を引いてやるほど、僕もできた人間じゃないですよ」
「……そう、ですか?」
「そうです。ついでに言うと、あなたがその噂を聞いて、むしろなんて言うのかなぁと思っていましたけれどね。何も言わないから、これは試していたな、と思ったのですが、どうでしょう?」
「そんな噂は嘘だから、って?」
「そう。弁解せずに僕に意見を求めてくる当たり、性格悪いな、と思って」
「今更気がついたんですか?」
あらあら、と言って笑うリリィに、ミケは仕方なさそうな笑みを浮かべた。
「まぁ、惚れた弱みで許容できる範囲だと思うので」
「……たまに、あなたもさらっとおかしなことを言うんですね……」
「……酷い」
「じゃあ、いいです。身を引くとか言い出したらどうしてやろうかと思っただけですから」
わぁ、怖い、と笑ってからミケはお茶を差し出しながら、言った。
「どうしてやろうか、というより、どうしよう、って気分だったんじゃないかと自惚れても?」
「きゃ、どうしましょう、ミケがそんなこと言い出したら困っちゃう~v」
わざとらしいほどの声と素振りでそう言ってやった。
「……言いませんよ。一緒にいようと決めたときに、そんな話、絶対来ると思っていましたし。覚悟していました。……求婚者全員ぶっ飛ばすくらいのは」
くすくす笑いながら、だからそんな心配しなくても大丈夫、と囁いた。

3.泣けない弱さ

あなたの笑顔は、盾か鎧ですか、と、前を歩く女王に試しに聞いてみた。
「はい?」
「その笑顔の後ろに何もかも隠して、泣いたり怒ったりしていそうだと思って」
「そう、見えますか?」
「ええ」
「……王とは、そういうものですよ」
しゃんと背筋を伸ばして歩く少女に、小さくため息。
「どうしても、我慢できなくなったらちゃんと受け止めますから。あまり隠さないでくださいよ?」
「あら」
くるりと振り返った彼女は、女王ではなく少女の笑顔で言った。
「もう、随分、あなたには頼っているつもりだけど?」
見せるつもりの無かった涙を見られたその日から。
「そうだと、いいんですけどね」
「泣かせてくれても、いいのよ?」
「…………それは、どういう意味合いで?」
「それを女の子に聞いてしまうあなたの無神経さに涙が出そうです」
うう、と嘘泣きしながら、リリィは。
「しょうがないですねぇ、泣き顔はあなたにあげますよ。あなたにしか見せないから、わたくしが泣きたいときにはそこにいてくださいね」
「勿論」

泣ける場所がその腕の中だけというのも、なかなかロマンチックな表現かしら、と少女は年相応の少女の様に考えた。

4.ほらね、やっぱり勝てないや。

例えば。
女王として采配を振るう強さ。
怒りも悲しみも、微笑みで包めるところ。
逃げない、泣かない、覚悟。
立ち向かえる真っ直ぐ伸びた背中。

自分にはなかなか持ち得なくて、眩しいほどのそれらを持つ彼女には、やはり勝てないなと思うのだ。

「とか、そんな感じでいいですかね、エミリアさま。リレイアさまには内緒にしておいてくださいよ?」
「ふふ、ミケは照れ屋さんね」
「いえあの、惚れた欲目とかはさっ引いても、彼女はそういう感じだと……いえ、なんかもう、いいです……」
そう言って、真っ赤な顔で時間なので、と席を立ったミケを見送ったエミリアは、そっとクローゼットの扉を開けた。
「うふふ、わたくしまで照れてしまいますわ、お姉様」
「…………エミィ。ごめんなさい、もうしばらく閉めておいてもらえる……?」
抱えた膝に顔を埋めた姉の耳がちょっと赤かったので、羨ましいとひっそり思いながら、エミリアは素直に扉を閉めておいた。

5.あなたの為なら、これくらい楽勝。

「いつも、思っていたのだけれど」
リリィはのんびりと紅茶を飲みながら、侍従長を見やる。
「わたくし、いつもかなり忙しいのですけれど……疲れたと思っているときは、どうやっているのか、必ず休む時間を作ってくれるわね」
働き過ぎだ、といつも怒る彼は……それでもリリィの限界値を見誤らない。そっちは何故分かるのかと聞いたら「え、そんなのいつも見ていれば分かるじゃないですか」と平然と言ったものだが。
「それはそうですよ。どうしようもない予定以外なら、詰めてしまえばいいじゃないですか」
あっさり言うが、そう簡単に詰められる予定など存在しない。何故なら自分は女王なのだから。必要でない仕事なんて。
「だからと言って、休憩した後の仕事が多くなっていると言うこともないんですね」
「それじゃ休憩の意味が無いじゃありませんか」
その通りだが。
「ねぇ、どうやっているの?」
「魔法でも使っていると思えば良いんじゃないですか?僕は魔導師ですからね」
ヒミツ、と言うように口の前に指を立てていう仕草は、何というか可愛い女の子そのものだが、彼にそう言うとへそを曲げるので、笑顔の後ろにしまっておいた。
「……なんてね。どうでも良さそうな貴族の面会とかを用件だけ聞いておいてお伝えします、という位ですけどね。そういうどうでもいいの、多いんですよ」
「……大丈夫、なの?」
「こういうお話ありましたよー、と一応メモ書きしてお渡ししているじゃないですか。それで事足りるんですから、会う必要はないだけです。会わなきゃいけない用件は、ちゃんと通しておりますが」
「そうじゃなくて。……結構嫌み言われたりとかごねたりする人がいるんじゃないですか?」
「いますよ」
未だに波風が立たないところを見ると、上手く断っているのだろし……面会しなくても問題ないかどうかの見極めのちゃんとできているのだろう。
だが、矢面に立つ彼は、自分の侍従長ではあるが……貴族などの位はない。下手をしたら相当嫌がらせをされそうなものだが。
「でもね、あなたは1人しかいないんです。大事なこの国の女王で、僕の彼女です。あなたのためなら、これくらい、楽勝でしょう?」
へたれなんです、弱いんです。
よく、そんな事を言うが、引いてはいけないときには絶対引かない彼は、決して弱くなんかないのに、とちょっと誇らしげな彼に思った。

「でも、わたくしも、あなたのためなら色々できたりするんですからね。断り切らないときは、会ってあげますよ」
「ふ、その時はお願いしますね」

6.ありがとう、傍にいてくれて。

ソファで座って本を読んでいる彼の横に座る。
特に何かあったわけではないのだけれど。
その横に座ってそっと寄り添う。
……暖かくて、安心する。
「……」
どうしたのか、と一瞬声をかけようとした彼は、きゅう、と服を掴む仕草に少し驚いたようだ。
……が、そのまま彼は本を読み続けることにしたらしい。
何も聞かず。
何も言わず。
ただ、気配だけで、気にしているよ、と伝えている。
それに甘えて、リリィは少し服を掴む手に力を入れる。
(……ありがとう、側にいてくれて)

7.弱い君の、それを含めて全部、

「ギャップ萌え、というやつですか?」
「OK、分かりました。そのような言葉をあなたに教える人を、捨ててきましょう」
すぱっと切って捨てた侍従長は、そんなことを誰が教えるのだろうかと、王宮内の言葉の乱れを真剣に憂えた。
「違うんですか?わたくしの、ちょっと弱いところを見て、「ああ、彼女が僕が守らなきゃ」みたいな」
「無いとは言いませんが、ええ」
正直に返した恋人に、リリィは大きく頷いた。
「なるほど、じゃあもっとこう演技力を磨きましょう」
「もう充分ですから」
その猫は、全身着ぐるみなのか、それとも枚数を着ているのか。
完璧に近い猫は、年を重ねればそれこそ完璧になるだろう。
「あなたが、そう言うところでわたくしにこれ以上にめろめろになっていくなら、むしろ極めてみるのもありかと」
「いやいやいやいや、なしでしょう!」
「ええー?」
「当たり前じゃないですか!っていうか、もう既に充分め……いや、何でもないです。とにかく、必要ないのでおかしなことはしない!」
「ミケはいいわね……普段弱いって言い張っているから、ちょっと強く出ると格好良く見えて」
「放っておいてください」
酷い言われ様だ、と呟きながらミケは少女を一つ抱きしめて、言った。
「これ以上、があるのかどうかもう分かりませんよ。いつも一杯の気がしているんですから。強い部分も、弱い部分も。そういう突拍子のないところも。……全部、可愛い」
おかしくなってる、どうしようか。
そう言いながら、腕に力を込めるミケに、リリィは。
「全部好き、って言ってくれるかと思って期待したのに」
「…………確信犯で煽るの禁止で」
「えー」
「……あーもー。全部、好きですよ」
ちゃんと言い直した彼に、リリィは今度こそ満足そうに笑ったのだった。

大変遅くなって申し訳ない…相川さんから今年も素敵なお誕生日プレゼントをいただきましたv
いやー相川さんの女王&侍従長はいいですねえ!表には出さずにそれでも相手を静かに深く思いやるところがわきわきする(笑)
リアルリリィは強くて強い人ですが、女王は強くて弱い人なんだろうなあ、しっくり来てるお題で大変美味しくいただきました、ありがとうございましたv
「耳……耳が赤いのか…そうか…」と思ったのは内緒です(笑)あたしもたまに彼女が人魚であることを忘れそうになるから(笑)